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第2章 天空の城と伸びる塔の謎

第54話 漆黒の剣と闇の魔法

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「ユセリー!」

 ロープで縛られた仲間の姿を見るやいなや、歩斗の体は勝手に動き出していた。

「ア……アユト……だめ……」

 身動きが取れず、ひざまずいた状態のユセリが声を振り絞るが、頭に血が上った状態の歩斗の耳にその言葉は届かない。
 毒多島での激しい戦いの疲労が残っているせいか、何度も足がもつれて転びそうになりながらも必死に駆け寄っていく歩斗。

「この塔の存在を知ったからには、タダで帰すわけにはいかないな」

 蒼白い顔の少年レムゼは不敵な笑みを浮かべると、右手の指をパチンと弾いた。

 ボワンッ。

 次の瞬間、その右手は細長い剣を握っていた。
 その色は夜の闇のように黒く、エッジ部分が紫色で縁取られている。
 
「うっそ……アユト……逃げて……!」

 その禍々しいオーラを放つ妖しげな剣に気づいたユセリは、声とまなざしで必死に訴えかける。
 それに気づいた歩斗はピタッと足を止めた。
 逃げるため……では無い。

「ユセリを離せ! って言っても聞いてくれそうにないよね……それじゃ……!」

 歩斗も負けじと素早く弓を手に取り、毒爆の矢をセットする。
 攻撃系の矢がこれしか無いというのもあるが、レムゼの蒼白さが”もしかして毒系なんじゃ……”という淡い期待もあった。

「おっ、良いじゃねーか。その方が、こっちからも攻めがいがあるってもんだぜ!」

 レムゼはニヤリと笑いながら片手で剣を構え、前方に向かって勢いよく駆け出した。

「うわっ! えっ、いやっ、いきなり来んのっ!?」

 もう少し言葉を交わし合うものだと思ってた歩斗、レムゼの素早い動き出しに戸惑いの声を漏らす。

「フッ……死ね」

 あっという間に距離を詰めるレムゼ、大きく振り上げた漆黒の剣をすかさず歩斗に向けて振り下ろそうとした……その時。

 バンッ!

 レムゼの足下から破裂音。

「チッ、なんだ!?」

 足を止め、辺りをキョロキョロと見回すレムゼ。
 その視線が捉えたのは、その身にエプロンをまとった女戦士もとい主婦の姿。

「うちの子に手を出したらタダじゃおかないからね!」

 香織は、右手に持った魔烈の実をレムゼに投げつけようと構えた。

「チッ、邪魔しやがって。そんじゃ、そっちからやっとくか!」

 そう言って、レムゼは手首を使って剣をぐるぐる回しながら、歩斗の横を通り過ぎて香織をめがけて走り出した。

「えっ? そっち!?」

 不意を突かれた歩斗はロープで縛られたままのユセリを気にしつつ、背後にもチラチラと視線を送っている。

「アユト! 私は大丈夫だからママさん守って!!」
「お、おう!」

 歩斗はずっと構えたままだった弓矢をレムゼの背中に向けた。
 あっという間に香織の目の前まで到達していたレムゼは足を止め、高々と掲げた漆黒の剣を振り下ろそうとしていた。

「させるかっ! えいっ!!」

 気合いと共に放たれた毒爆の矢が勢いよく飛んでいく。

 パンッ!!

 レムゼの背中に見事命中!

「やった!」

 ユセリが歓声を上げれば、歩斗も「よっしゃっ!」とガッツポーズを決める。
 ……が、レムゼの体から出たのは、『3』の白煙。

「ええっ!? 嘘でしょ? 毒属性じゃなかったとしてもそんだけなの……??」
「……ククククク。そんなしょぼい攻撃がこのレムゼ様に通用すると思ったのか?」

 不適な笑みを浮かべたレムゼの顔が歩斗の方を向いた。

「う、うん……。だって、これのおかげで毒多島の敵を倒せたんだし……」

 歩斗はモジモジしながらバカ正直に答えた。

「知るか。無駄口叩いてうざってーな。やっぱりオマエから先に死ね!」

 レムゼは思い切り地面を蹴って走り出した。
 それまでの3倍……いや5倍の速度で、あっという間に歩斗の目の前。
 間髪入れずに漆黒の剣を振り下ろす。

「アユトー!」
「アユっ!!」

 ユセリと香織の悲鳴が重なった瞬間、禍々しき冷徹な剣によって歩斗の短い人生が幕を下ろ……してはいない!

「へへっ、ちょうど良いタイミングで帰ってきちゃった感じ?」

 歩斗の頭上、ギリギリの所でレムゼの剣を受け止めたのはピンクゴールドの剣。
 そう、涼坂家の末っ子優衣参上。

「な、なんだオマエ??」

 レムゼはそれまで右手だけで握っていた剣に左手を添えて、思い切り力を込め続けていた。
 しかし、優衣の剣はビクともしない。

「お、おう、お帰り。ははっ、確かにタイミング良すぎ……って、チャンス到来!」

 優衣とレムゼのつばぜり合いを目の前におびえながらも、歩斗はすかさず弓矢を構えてレムゼに向け、ためらうことなく矢を放った。
 こんな至近距離だと毒爆の矢の爆発にさらされちゃうかも……と、歩斗の頭に心配の種がチラッとよぎったものの、それは杞憂に終わった。
 それに気づいたレムゼは咄嗟に左手を剣から離し、何やら呪文のようなものを唱えたかと思うと毒爆の矢がシュッという音と共に消え去ったのだ。

「ククク、さっきは背中からふいを付かれてしまったが、そんな分かりやすく撃ってくるのをみすみす受けると思うか? 甘い甘い。甘すぎるぜ! 攻撃ってのはな……こうやるんだよ!」

 レムゼは右手の剣で優衣の剣を押さえ込んだまま、大きく広げた左手を歩斗に向かって突き出した。
 その手のひらからボンッと紫色の玉が飛び出す。

「……ちょ、ちょっとヤバいよ! 歩斗逃げて、それ闇属性の魔法!」

 ユセリが叫ぶ。

「闇!? それは……なんだかよく分からないけどヤバっ!」

 焦る歩斗に優衣が「そうだよ、ここはユイに任せてお兄ちゃん逃げな!」と勇ましく声をかける。

「そ、それじゃあとはよろしく……なわけにはいかないでしょ!」

 たとえレベルが低くても兄は兄。
 歩斗は一歩も退こうとはしなかった。

「フンッ、オマエら兄妹か。それじゃ、兄妹仲良く揃って消えろ!」

 レムゼは冷徹な表情のまま左手に力を入れた。
 紫色に輝く魔法の玉が歩斗に向かって飛んでいく。

「やめて!」

 香織が走り出すが明らかに間に合わない。
 たとえ間に合ったとしても、どうしようもないのは火を見るより明らか。

「お兄ちゃん!」

 さすがの優衣も、ピンクゴールドの剣でレムゼの剣を押さえるので精一杯。

「優衣!」

 叫ぶ歩斗にレムゼの魔法が直撃……かと思いきや。

 ヒュンッ……ボンッ!

 魔法の玉は誰にも当たらないまま地面に直撃、大きな穴をあけただけだった。

「……アユ! ユイ!」

 少し離れた場所に子供たちの姿を見つけてホッと胸をなで下ろす香織。
 その2人を助けたのは……。
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