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第1章 ロフミリアの3つの国

第36話 経験値稼ぎとミニミニドラゴン大家族

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 鉄球虫を召喚させた鉄球ボウヤは勝利を確信したのか、一歩下がった位置で自らバウンドしながら、高みの見物を決め込んでいた。

「ちょ……スララスこれ、いけると思う……!?」
「イムイム……でも呼ばれたからには戦うしかないんですイム!! 行きますイム!!」

 スララスは開き直ったようにピョンピョン飛び跳ねていき、ダムダムとドリブルを続ける鉄球虫の群れに飛び込む。
 すると、さすがに鉄球ボウヤほどの防御力は無いのか、スララスの体当たり攻撃を受けた何匹かの鉄球虫からは赤い数字煙が出て消えた。

「おお! スララスすげぇ! いけいけ!!」
「は、はイム!!」

 歩斗からエールを送られたスララスが見せた一瞬の隙を見計らうように、10匹近くの鉄球虫が一斉にスララスに襲いかかる。
 ダムダム……ダムダム……!

「ひぃぃぃぃィムぅぅぅ!」

 1匹のダメージこそ白煙の1だが、それが連続して加えられることで、やがて赤煙まで出始めた。

「ちょ、スララス! とりゃ!!」

 数メートル引いた場所で見守っていた歩斗は、急いで弓矢を構えて回復の矢をスララスに向けて放つ。
 すると、矢は綺麗な放物線を描き、見事スララスの背中に命中、『8』の青い煙が飛び出した。
 
「アユトさん、サンキューですイム! 次はこっちの番ですイムゥゥゥ!」

 たとえダメージを受けたとしても、歩斗に回復してもらえば良い……と開き直ったスララスは、全力で鉄球虫の群れに向かって体当たりした。
 すると、3匹の鉄球虫を倒すことに成功!
 
「スララスやるぅ!」
「へへヘっイム!」

 歩斗に褒められて照れるスララスの元に、レベルアップ隊が現れた。
 
「スララスさんのレベルが2にアップしました!」

 そう言って、いつもならすぐにどこかへ消えてしまうはずのレベルアップ隊だが、なぜかバトル部屋の隅っこに移動して静かにバトルを見守っていた。
 どうやら戦況を見た上で、すぐにまたレベルアップすると睨んでいるようだ。

「やったぜスララス!」
「はイム!」

 喜ぶスララスに鉄球虫の群れが攻撃をしかける。
 すると、またダメージは赤文字煙にまで達したが、すぐさま歩斗が回復。
 
「イムイムイムゥ~!」

 スララスの攻撃により、4匹の鉄球虫を撃破。
 すかさず、レベルアップ隊が近寄って来て

「スララスさんのレベルが3にアップしました~!」

 そう早口で言うと、またすぐに部屋の端っこに戻っていった。
 そしてまた、鉄球虫の攻撃。
 歩斗が回復の弓矢を放つ。
 スララスの攻撃。
 数匹の鉄球虫をやっつけたが、今度はレベルアップ隊は来なかった。
 そしてまた、鉄球虫の攻撃。
 歩斗が回復の弓矢を放つ。
 スララスの攻撃。
 数匹の鉄球虫をやっつけ……レベルアップ隊参上!」

「スララスさんのレベルが4にアップしました~!」
「すげぇ、どんどんレベル上がっていく!」
「ふふふイム!!」

 そして、また鉄球虫の攻撃……なのだが。
 ダメージ煙の数字は……0!
 なんと、順調にレベルを上げていき、防御力の上がったスララスに対し、鉄球虫の攻撃が全く通用しなくなったのだ!
 さすがに、ずっと高みの見物で見守っていた鉄球ボウヤも焦ったのか、ダムダムとバウンドするスピードがどんどん早まっていく。
 その間も、スララスはひたすら鉄球虫に体当たり攻撃を食らわせ続けていた。
 もはや相手からは一切のダメージを受けることが無いということで、完全にスララスの無双状態。
 レベルアップ隊も大忙しで、ついにレベルは6にまで上がったスララスは、〈相手をふやけさせる粘液スキル〉を会得していた。
 
「そ、それは……!? かくなる上は……マタマタマタァァァ!!」

 鉄球ボウヤは今まで以上の激しい勢いで地面でバウンドすると、天井まで跳ね上がり、天井にぶつかった勢いで地面に落ち、天井、地面、天井、地面……と、バウンドは猛烈なスピードまで加速していった。

「スララス、さすがにそれはヤバ──」

 歩斗が叫ぶよりも早く、バウンドのループから抜け出した鉄球ボウヤの体は、さながら弾丸のような勢いで一直線にスララスへと向かって発射された。
 そして、あっという間にスララスの体に直撃。

「イムゥゥ!!」

 悲鳴を上げるスララスの体からは瀕死を示す赤煙が出た。
 ……が、しかし。

「ニヤリ……イム」

 不敵に笑ったスララスは、頭のトンガリを鉄球ボウヤに向けた。
 全てのエネルギーを注いだ攻撃を繰り出した鉄球ボウヤは、ゼェゼェと息を切らし、バウンドする気力も無いといった様子でただ地面にポトリと落ちたままでいた。
 スララスのトンガリからヌルヌルっとした粘液が飛び出し、鉄球ボウヤの体を包み込む。

「な、なんだこれはマタ……!?」

 焦る鉄球ボウヤ。
 
「これで……終わりイム!!!」

 スララスは勇ましい掛け声と共に大きく飛び上がると、粘液をまとってヌメヌメ状態の鉄球ボウヤに狙いを定め、そのまま勢いよく落下。
 
「グフォェマタァァァァ!!」

 スララス会心のボディアタックが見事に命中!
 レベル6になって会得した〈相手をふやけさせる粘液スキル〉の効果により、大幅に防御力が下げられていた鉄球ボウヤを見事撃破!
 今までは"簡易バージョン"で祝っていたレベルアップ隊も今回ばかりはノリノリで登場し、全力で陽気な音楽を奏でた。

 ズッチャ、ズッチャ。
 シャン、シャン、シャン♪
 ズッチャチャ、ズチャチャ。
 ギュイン、ギュイン、ギュイイイイン♪

「スララスさんのレベルが7にアップしました! そして、バトルの勝利おめでとうございます!!」
 
 リーダーがハイテンションで祝福の言葉を叫べば、メンバーはみな音楽をかき鳴らしながらスララスと歩斗の勝利を大いに盛り上げ、そのままどこかへと消えて行った。

「やったぜスララス!」
「はいム!! あっ、アユトさんこれ」
「おお! ありがとう!!」

 歩斗は、勝利報酬の〈宝のカギ〉をスララスから受け取った。
 
「ではでは、無事にバトルが終わったんで帰りますイム~。アユトさん、またイム~!」

 そう言い残し、またもや吹き抜けた一筋の風と共にスララスの体は完全がスーッと消えた。

「またよろしくね~」

 歩斗は手を振りながら鉄の扉が開いていた出口を抜けて、優衣の待つ宝箱の広間へと向かった。




「ささみ、危ない!!」

 直樹が助けに入ろうとするも一歩及ばず、の強烈な一撃をくらったささみは、「にゃにゃーん!!」と悲鳴を上げながら思いきり部屋の壁まで吹き飛ばされてしまう。
 優衣と歩斗が見事に宝のカギをゲットしたものの、残された最後のバトル部屋では直樹が絶体絶命のピンチに陥っていた。
 対戦相手は〈ミニミニドラゴン大家族〉。
 母ドラゴンと父ドラゴン、そして子供ドラゴンたちというパーティー編成の敵。
 その名の通り、体はミニミニサイズで、一番大きい父ドラゴンですら猫のささみより一回り大きい程度だった。
 しかし、さすがドラゴンと言うべきか、そのサイズにして凄まじい戦闘力。
 その上、家族というだけあって連携が取れまくっており、ささみのひっかき攻撃と直樹の魔法で何とか応戦していたふたりは隙を突かれ、ささみがもろに攻撃を食らう結果となってしまった。

「おい! ささみになんてことするんだよ!!」

 怒りをあらわにする直樹。

「うちだってね、家計のやりくりが大変なのさ! だから悪いけど、勝たせて貰うよ!」

 母ドラゴンも負けじと言い返す。
 
「そーだそーだ!」
「バトル中なのに何いってんだよー!」

 子供ドラゴンたちが舌戦に加勢する。
 
「ぐ……ぐぐぐ……」

 窮地に立たされた直樹。
 さっきまで何とか応戦してたと言っても、攻撃の要はなんだかんだ言ってささみのひっかき攻撃であり、直樹の魔法はあくまでもそのサポート役程度に過ぎなかった。
 仮に相手が単体であれば、ヒットアンドアウェイ戦法など何かしら対抗手段はあったかも知れないが、大家族となると、とにかく隙がまったく見当たらない。
 母を攻撃すれば父と子に背後から襲われ、父を狙えば母と子から隙を狙われる……という鉄壁のフォーメーション。
 
「くそぉ……万事休すか……」

 諦めかけた直樹の脳裏に、子どもたちの顔が浮かんでくる。
 ……いかんいかん!
 アイツらもこの壁の向こうで頑張って戦ってるはずなのに、父親の俺がそう簡単に諦めてどうする!
 ……と、直樹はポブロトから貰った布袋の中に手を入れ、何か無いか何か無いか、とバトルをひっくり返せるような起死回生のアイテムを必死に探す。
 
「ねえママ、パパ。ボクたちでやっちゃっていい?」
「うん、やりたいやりたい!」
「しょうがないなぁ……まあ、経験値になるしな」
「そうね。それじゃ、コテンパンにしちゃいなさい!」
「うん!!

 ミニミニドラゴンの家族会議の末、トドメは子ども達が刺すことに決まり、本当にミニミニな子供ドラゴンたちが舌なめずりしながら直樹の元へと近づいて来る。
 
「やばいやばいやばい! あー、何かないかなんか無いか……おっ! こ、これは……!?」

 直樹が取りだしたのは白銀に輝くドデカいリング。
 指はもちろん、腕輪にしても太すぎる大きさで……

「もしかして……!」

 直樹は直感で、その白銀のリングを魔法の杖にはめてみた。
 すると、杖が一瞬ボワンと白く輝いた。
 それを見て、全くの見当違いでは無いと確信した直樹は、迫り来る子供ドラゴンに向けて魔法の杖を振りかざす。

 ボワボワボワワワワン!!

 なんと、いつも飛び出す1つだけの火の玉では無く、横長に広がる大きな火の塊が飛び出し、まるで波のように子供ドラゴンたちに襲いかかった。

「うわぁぁぁ!」
「あつあつあつぅぅぅ!」
「ひぃぃぃ! あついよ~!」

 火の波を浴びた子供ドラゴンたちの悲鳴が飛び交う。
 
「えっ……うそっ、これって……範囲攻撃になったってこと? っていうか、なんか君たちごめん」

 直樹は、敵とは言え、ドラゴンとは言え、泣き叫ぶ子供たちの姿に罪悪感を覚えずにはいられなかった。
 ただ、直樹が見つけだしたアイテムは、間違いなく起死回生を生み出すほどの力を持っている。
 ゲームでも何でも、とにかく範囲攻撃ってものの威力は絶大。
 しかも、今回のバトルのように多勢相手にはうってつけ、最高のチョイスだった。
 間違い無く劣勢をひっくり返せるほどの……。

「くそぉ……って、そうだ。何を悩む必要があるっていうんだ」

 直樹は子供ドラゴンの姿に、歩斗と優衣を重ね合わせた。
 別のバトル部屋では、歩斗たちが攻撃を受けて苦しんでるかも知れない。
 なのに、俺がここで情にほだされて攻撃の手を緩めてどうする。
 それにこれは殺し合いじゃなくてバトル。
 しかも、ポブロトが言うにはHP制度の下では例えHPが0になっても瀕死状態になるってだけ。
 だからここは、非情に徹して戦うのみ!
 直樹は決意に満ちた目で、範囲攻撃のリングをはめた魔法の杖を振り上げた。
 と、その時。

「ちょっと待った!!」

 そう叫びながら、直樹の前に飛び出してきたのは父ドラゴンだった。
 
「バトル中になにを言ってるんだ、と思われるかもしれないが、子ども達が泣き叫ぶ姿を私はこれ以上見ることは出来ない……! だから人間よ、私とタイマン勝負で決着を付けてはくれまいか? バトルの勝利を賭けて!」

 父ドラゴンは感情のこもった表情で訴えかけてきた。
 一見すると、多勢に無勢の直樹にとっては有利な条件にも思える。
 しかし、範囲攻撃を手にした今となっては、タイマン勝負イコールそのアドバンテージを活かせなくなるということになるのだが……

「よし、良いだろう! 父親同士、タイマン勝負で決着を付けよう!」

 直樹は快諾。
 なぜなら、なんだかんだ言って子供ドラゴンに攻撃せずに勝つ方法があるのなら、その方がありがたいと思ったから。
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