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第1章 ロフミリアの3つの国

第24話 魔烈の実

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「せーの……レベルアップおめでとう!」
「おめでとう!」

 ズッチャ、ズッチャ。
 シャン、シャシャシャン♪

 暗闇に包まれた塔の中に似つかわしくない陽気な音楽とともに、例のマーチングバンドが姿を現した。
 
「えっ……なになに??」

 目の前でノリにノリまくる小さな4人組を見て驚く優衣。

「それはレベルアップ隊だよ! さっきのヤツ倒して経験値入ったから!」

 ロフニスは自分のことのように嬉しそうな顔をしていた。

「レベルアップ……隊?」
「そうそう。って、そっか。ユイは別の世界から来たばかりだから見るの初めてなのか」
 
 ロフニスはレベルや経験値などについてざっくりと優衣に説明した。

「おお! なんかゲームっぽい! っていうか、ゲームだとレベルアップした時に音が鳴るだけなのに、こんな楽器隊みたいなのが来てくれるなんて楽しいね!」

 そう言って嬉しそうに笑う優衣の表情に合わせるように、レベルアップ隊がハッピーなメロディを奏で始めた。

「うわっ、すご! 人形みたいにちっちゃいのに、ちゃんと楽器弾いてるし! かわいいな~。すごいな~。持って帰りたいな~」

 優衣が最後の言葉を呟いた瞬間、ノリノリの演奏がピタッと鳴り止んだ。

「かわいいな~。持って帰って友達に自慢したいな~。お兄ちゃんも羨ましがるだろうな~、ふふふ……」

 優衣はニヤリとほくそ笑みながら目をキラッと輝かせる。
 その視線を受けたレベルアップ隊のメンバーは、さらわれてしまうんじゃないかという恐怖におののいていた。
 
「レ、レベル1から一気にレベル4までアップおめでとうございま~す。というわけで、さ、さようなら~……」

 リーダーのコビトギタリストは早口でまくし立てながら、引きつった笑いで優衣に向かって手を振った。

「うん。じゃあね~。わざわざありがとね~」

 優衣は満面の笑みで手を振り返した。

「あれ……? そんな悪い人じゃなかった?」
「バカッ! そうやって油断させといてガッとくるタイプなのよ!」
「うわっ、こわっ!」
「ほらみんな、とりあえず帰ろ帰ろ!!」

 そんなやり取りをしつつ、レベルアップ隊は演奏を省いてそそくさと帰って行った。

「ねえレベル4だって! すごいねユイ!」
「うん! ありがとう! ……って、そう言われても何が変わったのかさっぱりだけど~」

 優衣は顔を下に向けて自分の体の様子を確認してみたが、特にムキムキになったりということもなく、手をギュッと握ってみても力が強くなったような感じも全くしなかった。

「まあ、パッと見じゃわかんないかもね。でもレベルが3つも上がったら、攻撃力とかHPとか絶対かなり上がってるはずだから、バトルになったら分かると思うよ」

 ロフニスは優衣の肩をポンッと叩いた。

「そっか。んじゃ、早くバトりたいなぁ……そうだ、上行こ上! おっさき!」

 優衣は両手を大きく振りながら、タッタッタと軽い身のこなしでらせん階段を上がっていった。

「ちょ、ちょっと待って、宝箱まだ開けて無いよ!」

 ロフニスは優衣の背中に向かって声をかけた。
 しかし、レベルアップして素早さが増したせいか、優衣はあっという間に上の階に消えてしまった。

「……まっ、あとで戻ってきた時に取ればいっか。戦闘報酬だからすぐには消えないだろうし」

 そう呟きながら、ロフニスも2階に上がろうとして階段に足をかけたその時。

「うわぁっ!!」

 上から、優衣の叫び声が聞こえた。

「お、おい! どうした!?」

 ロフニスは両手で剣を構えながら、3段飛ばしで階段を上がっていく。
 
「ユイ!!」

 焦りの色を帯びた声と共に、ロフニスは2階にたどり着いた。
 そこあったのは、ほぼ1階と同じような作りの部屋。
 ただ、角度的な違いからか2階の方が窓から差し込む日射しが若干強く、1階より部屋の中が明るく、ロフニスはすぐに優衣の姿を捉えることができた。
 
「はぁ、はぁ」

 荒い息づかいとともに、優衣の肩が上下している。
 
「ユイ、大丈夫か!!」

 ロフニスは声をかけながら優衣の元へと駆け寄った。
 
「あっ、ロフニス! もう、びっくりしたよぉ。この階に着いたらいきなり敵が出てきて!」

 優衣はこともなげに言い放った。

「えっ? 敵??」

 ロフニスは部屋の中を見回した……が、魔物の姿は見当たらない。
 その代わり、部屋の中央辺りに宝箱が置いてあることに気がついた。
 
「ちょ……もしかして、その敵もう倒しちゃったってこと!?」
「へへへ」

 優衣は、ロフニスの質問に対して照れくさそうに笑って返した。
 
「おお、すげえ! どんなヤツだったの?」
「うーん……なんか毛むくじゃらなやつだったよ。一瞬でやっつけちゃったから、はっきり覚えてないけど!」
「へえ~。一瞬って剣で?」
「そうそう、剣でバサッとやったら『28』みたいな煙が出て。スーッと消えて宝箱が出てきたの。って、そういえば1階のやつ開け忘れてた! まあいいや、とりあえずこれ開けて見よっと。あっ、ロフニスちょっとこれ持ってて」

 優衣はピンクゴールドの剣をロフニスに預けると、宝箱に駆け寄り両手で開けた。
 
「なに入ってた?」

 ロフニスは元々ピンクゴールドの剣が入っていた鞘を自分の体から外すと、その中に剣を入れながら優衣に声をかけた。

「なんだろこれ? なんかの実みたいな感じ」
「えっ、実?」

 ロフニスは優衣の手元を覗き込んだ。
 そこには、クルミのように硬そうな茶色い実があった。

「もしかしてそれ……。あっ、これ肩にかけて使って」

 ロフニスはピンクゴールドの剣を収めた鞘を優衣に渡した。
 
「ありがと!」

 優衣は鞘に付いている紐の輪に頭をくぐらせた。
 そして、鞘を背中に斜めがけして、剣の柄を持ってスッと引き抜いてみた。

「おお! こりゃ便利ぃ!」

 再び剣を鞘に戻したり、また抜いたり、また戻したり……を嬉しそうに繰り返す。

「ふふっ、気に入って貰えたみたいで良かったよ。で、この実だけど……」

 ロフニスは右手の親指と人差し指で実を掴んで目の前に構えた。
 
「たぶん、〈魔烈の実〉じゃないかな?」
「……マレツノミ??」
「うん。この殻の中には魔法の力が封じ込められていてね、自分や敵、それに床や壁にぶつけると殻が破れて中の魔法が発動するっていうアイテムなんだよ」
「おお! すごっ!」

 優衣は目と口を大きく開きながら、驚きの声をあげた。
 その実の中には一体どんな魔法が詰まっているのか、と心躍らせていていたが、一つだけ気になることも。

「ねえねえ、敵とか床とかにぶつけるっていうのは分かるけど、『自分にぶつける』ってどういうこと??」
「ああ、それはね、魔法の種類によるってこと。攻撃系の魔法なら敵にぶつけた方が良くて、回復系の魔法なら自分にぶつけて使うんだ」
「おお! なるほど!」

 優衣は手をポンと叩いて納得の意を表す

「あっ、それじゃ、その実の中にはどんな魔法が詰まってるの? 攻撃系? 回復系?」

 興味津々な優衣はグイグイとロフニスに詰め寄っていく。

「いや、えっと……ごめん、わかんない」
「えー?」
「うん。これが〈魔烈の実〉だってことは確かなんだけどねぇ……。見分け方があったような気がするんだけど、そのやり方まではまだ習ってないというか……ごめんね」

 ロフニスは申しわけ無さそうに肩を落としてうなだれた。

「ううん、気にしないで! 使ってみれば分かるんだし!」

 優衣はニカッと笑って見せた。

「ありがとう。って、たしかにそうだけど、もし間違って敵にぶつけたのが回復系の魔法の実だったらショックだよね」
「ははっ、たしかに!」

 二人は無邪気に笑った。
 どんな効果があるか分からない以上、使うリスクが大きいんじゃないかと考え、とりあえず魔烈の実はロフニスが持つことに決めた。
 
「それじゃ、上に行こうか」
「うん!」

 二人は仲良く一緒に階段を上がっていった。
 3階も相変わらず同じような作りの部屋。
 ただ、2階よりもさらに明るくなり、壁沿いに階段の存在が見当たらなかったので、どうやらここが最上階らしい。
 部屋の一番奥に存在感の強い何かが置いてあった。

「なんだろあれ……?」

 それを見て首を傾げる優衣。
 ぱっと見の印象は"鍋"といった感じであったが、やたら表面に細かい装飾が施されており、そこに火を当てるという風には思えなかった。
 
「うーん……」

 意味ありげな表情を浮かべながら、その鍋のようなものに近づいて行くロフニス。
 そのすぐ隣を歩く優衣は、右や左に視線を移して敵の気配が無い事をちゃんと確認していた。

「……ん?」

 鍋のようなものをジッと見つめていたロフニスが、何かに気付いたような素振りを見せた。

「なになに? なんか分かった?」
「うん……ここにもさ、あの紋章があるんだよね」

 ロフニスはその"鍋"の側面にはめ込まれた円いエンブレムを指差した。
 たしかに、1階の床に描かれていたものと同じデザインだった。

「……そっか! これは、僕の家に代々伝わってきたと言われている伝説の錬金釜──うわっ!!」
 
 突然、ヒュッと風を切る音がしたかと思うと、ロフニスがうなり声を上げた。

「えっ、どした……」
 
 優衣が声をかけるや否や、ロフニスはまるで学校の朝礼で校長先生の話が長すぎて貧血で倒れてしまう生徒のように、スーッと地面に倒れ込んでしまった。

「ロフニス!!」

 優衣は驚きの声を上げながら、しゃがんで彼の様子を確認した。
 どうやら完全に気を失っているようだ。
 そして、ふと顔を上げると、目の前に恐ろしい魔物の姿があった。
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