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第1章 ロフミリアの3つの国
第7話 陽気な商人と世界の名前
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謎の森。
地図らしき紙を手にした直樹の前に現れた謎の人。たぶん男。
「だ、誰だ……!?」
直樹は、カーテンを開けた時のように魔法の杖を思いきり伸ばせば当たるかどうか、といった近さに立っている謎の男に向かって声をかけた。
「#$@(&+<*”=~%?」
男は、少し高めの声で答えた。
その言葉は日本語でも英語でも無く、直樹が何となく聞きかじったことのあるどの国の言葉とも違っていた。
背丈は直樹と同じぐらい。つまり、日本人平均身長よりちょい高め。
ただ、中肉の直樹と比べると、その男は大分ぽっちゃりしていた。
外国人のような目鼻立ちのはっきりした顔をしており、赤色ベースでヨーロッパ……スイスあたりの民族衣装といった陽気な服装に身を包んでいる。
表情も終始ニコニコと陽気なのだが、それが逆に怪しいといった感じもなく、直樹は直感的にこの男が悪い人間では無いように思えた。
何より、直樹の足下で謎の男を見上げているささみが特に鳴いたりもせず、大人しくこの状況を見守っている様がその考えを裏付けていたが、それでも念のため唯一の武器である魔法の杖はしっかりと握りしめていた。
「えっと……ここは一体どこなんですか? って、通じないかな……」
「+#$%+@¥”$%#$%?」
一応、質問をぶつけてはみるものの、返ってくるのは文字で表すなら記号の羅列になってしまいそうな意味不明の言葉。
たぶん、相手からしたらこっちの言葉がそういう風に聞こえてるんだろうな……と、直樹は苦笑いした。
「$#%#@*>&##$%?」
「ごめん、全然分からない」
「%$@”#$#G<\^&$%?」
「いや、何となく質問してきてるのかな……って感じは伝わってくるんだけど、肝心の言葉がもう何一つ分からないんだよなぁ」
「*#%&=$%、ジャアニホンジンカ?」
「うん、残念ながらそれも全然……って、ええ!? いま『ニホンジン』って言わなかった!? そうそう、日本人だよ日本人!」
「%&`*! +*”$%$……」
「あっ……また分からなくなっちゃった……」
がっかりする直樹を余所に、謎の男はショルダーバッグのような形状の白い布袋の中に右手を入れ、中をゴソゴソとかき回し始めた。
すると、お目当ての品を見つけることができたのかニコッと笑って、袋の中から小さなガラスの小瓶を取り出した。
小瓶の中には、怪しげな緑色の液体が入っている。
それを見た直樹の脳裏に浮かんだのは"毒"の一文字であり、足下のささみも「ウ~」と小さく唸りながら身構える。
そんな二人の警戒なんてどこ吹く風とばかりに、謎の男は飄々とした表情のまま小瓶の栓をスポンッと抜き、口元に持っていってゴクゴクと緑色の液体を飲み干した。
「ゲフッ」
と、ゲップしながら、謎の男は空になった小瓶を布袋の中に戻す。
黙ってそれを見守っていた直樹は、ゴクリとツバを飲み込んだ。
一体、あの緑の液体は何だったのか……?
自分で飲んだってことは毒では無さそうだけど……。
ゲームの回復アイテムでお馴染みの<ポーション>的なものか……と、直樹の頭の中では疑問がグルグルと回り続けていた。
生暖かい風が直樹と男の間を吹き抜け、地面の落ち葉がカサカサと揺れる。
「──これでどうかな? 僕の言葉わかる?」
謎の男の口から、綺麗な日本語がするりと出た。
「わかるわかる! えっ……どういうこと!?」
「にゃーん、にゃーん!」
ついさっきまで記号しか喋っていなかったのに、と直樹たちは驚きを露わにした。
ただ、急に日本語をしゃべり出したのと、あの緑色の液体が関係していることは明白。
「ふふふ。まあ、ちゃんと説明してあげるから。とりあえず、会話できるようになったことを喜ぼうじゃないのさ。では改めて自己紹介。僕の名前はポブロト。職業は見ての通り商人だよ!」
そう言って、ポブロトと言う名の商人はクルッとその場で一回転した。
ぽっちゃり体型だが、意外と身軽なようだ。
「あっ、俺は……いや僕の名は涼坂直樹。職業はごくごく普通の会社員。えっと……よろしくポブロトさん」
会話が通じるようになったとは言え、まだこの状況を全然把握できずにフワフワした頭のまま、とりあえずの礼儀として直樹は自己紹介を返した。
「ははっ、ナオキさん。仕事の場じゃないから、くだけた言葉で大丈夫よ!」
「あっ、そ、それはどうも……」
直樹は、ポブロトの見た目と綺麗な日本語のギャップにまだ違和感を拭いきれずにいたが、昨日の夜から押し寄せ続けている"謎の波"を解くチャンスがついにやって来たぞ、という高揚感によってほど良く中和され、徐々に冷静さを取り戻していった。
「ちなみに、この子はウチで飼ってる猫のささみ」
「にゃーん!」
直樹の紹介にあずかったささみは元気よく鳴いてみせた。
「おお! か、かわいい!!」
そう言いながら、ポブロトがトコトコと自分の方へ歩み寄ってきたので直樹は一瞬ドキッとしたが、しゃがんでささみの体を撫でるポブロトのデレデレ顔を見て安心した。
猫好きに悪い人は居ないからな……って、コッチにも猫はいるのだろうか?
「あっ、ナオキさん。いつこちらへ?」
ひとしきりささみを撫で終えたポブロトは、立ち上がりながら直樹に向かって言った。
「いつ……って、昨日の夜だけど、ここは一体……」
「なるほど、来たてほやほやだ! それじゃ、さぞかし戸惑ってるでしょう?」
「ああ、その通り。なんでうちのリビングの外が森になったのか、この杖は何なのか、黒いスライムは何だったのか……」
「ははっ、結構結構。その様子からして、こっちの世界に来て最初に遭遇した人間が僕だったみたいね。よしっ、一から説明差し上げます!」
ポブロトはそう言って、右手の親指を眉間に当てると同時に右足を前に出すというポーズをとる。
直樹は、その動きに関してはちょっとよく分からないものの、ポブロトの言葉には頼もしさを感じた。
「それじゃ、早速だけどこの杖について……」
直樹が最初の質問を切り出そうとしたその時。
「あっ、マズい! ナオキさん、ささみさん、ちょっとこっちへ! ほら、早く早く!!」
ポブロトはなぜか急に慌てだし、道沿いから森の中へと後ずさりしながら直樹たちを手招きした。
何が何だか分からないものの、緊迫感に満ちた彼の表情を察し、されるがまま森の中へと入っていく直樹とささみ。
「ふぅ……ここなら大丈夫かな」
ポブロトは木と木が密集している場所に立ち、空を見上げた。
何を確認しているんだろう……と、直樹も顔を上げてみる。
さっき居た場所との違いがあるとすれば、空の面積だろうか?
木々の葉が重なり合ってることで、かなり日射しが遮られているのが目に付いた。
そして、僅かに見える水色の空に何かが飛ぶ姿。
「あれは……飛行機? それともヘリコプターか……」
直樹の呟きに対して、ポブロトの耳がピクッと動いた。
「いや、違います。ほら、よーく見てみてくださいな」
「えっ、それじゃ一体……」
直樹は顔を上に向けたまま目を細めてみた。
確かに、よく見てみると金属という感じは全くせず、どちらかというと……
「鳥……かな? 翼で羽ばたいてるように見えなくもないような……」
「ああ、惜しい! 正解は……ドラゴンです!」
「あっ、そうだ。首も長いし尻尾もあるし……って、ええ!? ド、ドラゴン!!」
「にゃ、にゃにゃにゃん!?」
直樹と一緒にささみも驚きの声をあげた。
その様子を見て、ポブロトは不敵に笑った。
「フフフ、ドラゴンが空を飛ぶ姿なんて日常茶飯事ですよ。我々の住む世界<ロフミリア>ではね!」
「ロフ……ミリア?」
「ええ! 人間と魔物が共に暮らす世界、ロフミリアへようこそ!」
ジャジャーン、という効果音がピッタリはまりそうなノリで、ポブロトは両手を大きく広げてみせた。
決まった、というドヤ顔を浮かべる陽気な商人に対し、直樹は「あ、そりゃどうも……」と何とも言えない顔で返す。
なぜなら、数ある謎の中で解明されたのはまだこの世界の名前だけであり、なんで日常茶飯事のドラゴンから身を隠さなきゃいけないのかという件が気になって仕方が無かったからである。
地図らしき紙を手にした直樹の前に現れた謎の人。たぶん男。
「だ、誰だ……!?」
直樹は、カーテンを開けた時のように魔法の杖を思いきり伸ばせば当たるかどうか、といった近さに立っている謎の男に向かって声をかけた。
「#$@(&+<*”=~%?」
男は、少し高めの声で答えた。
その言葉は日本語でも英語でも無く、直樹が何となく聞きかじったことのあるどの国の言葉とも違っていた。
背丈は直樹と同じぐらい。つまり、日本人平均身長よりちょい高め。
ただ、中肉の直樹と比べると、その男は大分ぽっちゃりしていた。
外国人のような目鼻立ちのはっきりした顔をしており、赤色ベースでヨーロッパ……スイスあたりの民族衣装といった陽気な服装に身を包んでいる。
表情も終始ニコニコと陽気なのだが、それが逆に怪しいといった感じもなく、直樹は直感的にこの男が悪い人間では無いように思えた。
何より、直樹の足下で謎の男を見上げているささみが特に鳴いたりもせず、大人しくこの状況を見守っている様がその考えを裏付けていたが、それでも念のため唯一の武器である魔法の杖はしっかりと握りしめていた。
「えっと……ここは一体どこなんですか? って、通じないかな……」
「+#$%+@¥”$%#$%?」
一応、質問をぶつけてはみるものの、返ってくるのは文字で表すなら記号の羅列になってしまいそうな意味不明の言葉。
たぶん、相手からしたらこっちの言葉がそういう風に聞こえてるんだろうな……と、直樹は苦笑いした。
「$#%#@*>&##$%?」
「ごめん、全然分からない」
「%$@”#$#G<\^&$%?」
「いや、何となく質問してきてるのかな……って感じは伝わってくるんだけど、肝心の言葉がもう何一つ分からないんだよなぁ」
「*#%&=$%、ジャアニホンジンカ?」
「うん、残念ながらそれも全然……って、ええ!? いま『ニホンジン』って言わなかった!? そうそう、日本人だよ日本人!」
「%&`*! +*”$%$……」
「あっ……また分からなくなっちゃった……」
がっかりする直樹を余所に、謎の男はショルダーバッグのような形状の白い布袋の中に右手を入れ、中をゴソゴソとかき回し始めた。
すると、お目当ての品を見つけることができたのかニコッと笑って、袋の中から小さなガラスの小瓶を取り出した。
小瓶の中には、怪しげな緑色の液体が入っている。
それを見た直樹の脳裏に浮かんだのは"毒"の一文字であり、足下のささみも「ウ~」と小さく唸りながら身構える。
そんな二人の警戒なんてどこ吹く風とばかりに、謎の男は飄々とした表情のまま小瓶の栓をスポンッと抜き、口元に持っていってゴクゴクと緑色の液体を飲み干した。
「ゲフッ」
と、ゲップしながら、謎の男は空になった小瓶を布袋の中に戻す。
黙ってそれを見守っていた直樹は、ゴクリとツバを飲み込んだ。
一体、あの緑の液体は何だったのか……?
自分で飲んだってことは毒では無さそうだけど……。
ゲームの回復アイテムでお馴染みの<ポーション>的なものか……と、直樹の頭の中では疑問がグルグルと回り続けていた。
生暖かい風が直樹と男の間を吹き抜け、地面の落ち葉がカサカサと揺れる。
「──これでどうかな? 僕の言葉わかる?」
謎の男の口から、綺麗な日本語がするりと出た。
「わかるわかる! えっ……どういうこと!?」
「にゃーん、にゃーん!」
ついさっきまで記号しか喋っていなかったのに、と直樹たちは驚きを露わにした。
ただ、急に日本語をしゃべり出したのと、あの緑色の液体が関係していることは明白。
「ふふふ。まあ、ちゃんと説明してあげるから。とりあえず、会話できるようになったことを喜ぼうじゃないのさ。では改めて自己紹介。僕の名前はポブロト。職業は見ての通り商人だよ!」
そう言って、ポブロトと言う名の商人はクルッとその場で一回転した。
ぽっちゃり体型だが、意外と身軽なようだ。
「あっ、俺は……いや僕の名は涼坂直樹。職業はごくごく普通の会社員。えっと……よろしくポブロトさん」
会話が通じるようになったとは言え、まだこの状況を全然把握できずにフワフワした頭のまま、とりあえずの礼儀として直樹は自己紹介を返した。
「ははっ、ナオキさん。仕事の場じゃないから、くだけた言葉で大丈夫よ!」
「あっ、そ、それはどうも……」
直樹は、ポブロトの見た目と綺麗な日本語のギャップにまだ違和感を拭いきれずにいたが、昨日の夜から押し寄せ続けている"謎の波"を解くチャンスがついにやって来たぞ、という高揚感によってほど良く中和され、徐々に冷静さを取り戻していった。
「ちなみに、この子はウチで飼ってる猫のささみ」
「にゃーん!」
直樹の紹介にあずかったささみは元気よく鳴いてみせた。
「おお! か、かわいい!!」
そう言いながら、ポブロトがトコトコと自分の方へ歩み寄ってきたので直樹は一瞬ドキッとしたが、しゃがんでささみの体を撫でるポブロトのデレデレ顔を見て安心した。
猫好きに悪い人は居ないからな……って、コッチにも猫はいるのだろうか?
「あっ、ナオキさん。いつこちらへ?」
ひとしきりささみを撫で終えたポブロトは、立ち上がりながら直樹に向かって言った。
「いつ……って、昨日の夜だけど、ここは一体……」
「なるほど、来たてほやほやだ! それじゃ、さぞかし戸惑ってるでしょう?」
「ああ、その通り。なんでうちのリビングの外が森になったのか、この杖は何なのか、黒いスライムは何だったのか……」
「ははっ、結構結構。その様子からして、こっちの世界に来て最初に遭遇した人間が僕だったみたいね。よしっ、一から説明差し上げます!」
ポブロトはそう言って、右手の親指を眉間に当てると同時に右足を前に出すというポーズをとる。
直樹は、その動きに関してはちょっとよく分からないものの、ポブロトの言葉には頼もしさを感じた。
「それじゃ、早速だけどこの杖について……」
直樹が最初の質問を切り出そうとしたその時。
「あっ、マズい! ナオキさん、ささみさん、ちょっとこっちへ! ほら、早く早く!!」
ポブロトはなぜか急に慌てだし、道沿いから森の中へと後ずさりしながら直樹たちを手招きした。
何が何だか分からないものの、緊迫感に満ちた彼の表情を察し、されるがまま森の中へと入っていく直樹とささみ。
「ふぅ……ここなら大丈夫かな」
ポブロトは木と木が密集している場所に立ち、空を見上げた。
何を確認しているんだろう……と、直樹も顔を上げてみる。
さっき居た場所との違いがあるとすれば、空の面積だろうか?
木々の葉が重なり合ってることで、かなり日射しが遮られているのが目に付いた。
そして、僅かに見える水色の空に何かが飛ぶ姿。
「あれは……飛行機? それともヘリコプターか……」
直樹の呟きに対して、ポブロトの耳がピクッと動いた。
「いや、違います。ほら、よーく見てみてくださいな」
「えっ、それじゃ一体……」
直樹は顔を上に向けたまま目を細めてみた。
確かに、よく見てみると金属という感じは全くせず、どちらかというと……
「鳥……かな? 翼で羽ばたいてるように見えなくもないような……」
「ああ、惜しい! 正解は……ドラゴンです!」
「あっ、そうだ。首も長いし尻尾もあるし……って、ええ!? ド、ドラゴン!!」
「にゃ、にゃにゃにゃん!?」
直樹と一緒にささみも驚きの声をあげた。
その様子を見て、ポブロトは不敵に笑った。
「フフフ、ドラゴンが空を飛ぶ姿なんて日常茶飯事ですよ。我々の住む世界<ロフミリア>ではね!」
「ロフ……ミリア?」
「ええ! 人間と魔物が共に暮らす世界、ロフミリアへようこそ!」
ジャジャーン、という効果音がピッタリはまりそうなノリで、ポブロトは両手を大きく広げてみせた。
決まった、というドヤ顔を浮かべる陽気な商人に対し、直樹は「あ、そりゃどうも……」と何とも言えない顔で返す。
なぜなら、数ある謎の中で解明されたのはまだこの世界の名前だけであり、なんで日常茶飯事のドラゴンから身を隠さなきゃいけないのかという件が気になって仕方が無かったからである。
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