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不穏な王都編

聖女はやっと騎士と会う事が

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「なかなか上がってこないわね」

「うん…大丈夫かな…」

「きっと錠剤を飲ませたりしているのでしょう」



私たちは真っ暗な穴の中を見ながらヴェルとティルが登ってくるのを今か今かと待っていた。

数分経ったところで、後ろの方からたくさんの人の足音が聞こえてきた。

私はその音に気がつき後ろを振り向く。


そこにはフードを目深に被った人が6人立っていて、皆が私たちを見てくすくすと笑っているようだった。



「何よあんたたち」


リュカが相手を睨みつけながらそう問うと、1人の人物が少し前へと歩み寄ってきた。



「おや…皆さんお揃いのようで…おぉ、これはこれは聖女様じゃないですか。困りますよ…勝手に抜け出してもらっては…しかも子まで産んでいると…全く聖女というものはいつの時代も困った人が送られてくるのですな…」



その人物の言う言葉に残りの5人はうんうんと首を縦にふり、口々に話し始める。



「そうだ、そうだ。お前ら聖女はいつもそうだ。厄災を持って異世界からやってくる。」

「この世界を我が物顔で闊歩する様はいつの時代も見るに耐えん」

「私たちがこいつを殺そう!殺してしまえば全て解決する!」

「あれでも生きてるとか…本当に聖女って気持ち悪い…しぶとすぎ…」

「俺たちが経験した絶望を!恐怖を!こいつに経験させないといけないんだ!」



その言葉が私の耳に入ってこないようにレイが耳を塞いでくれているが…聞こえなくても、全身全霊をかけて皆が『聖女が憎い』と叫んでるのを感じる。

『以前召喚された聖女の誰かがこの人達やその血縁者に何かしたのだろうか?』私はそう思わずにはいられなかった。


(だって、何もしていない相手からこんなに恨まれる事はそうそう無いと思う。)


レイやリュカが私の代わりに怒ってくれているのが伝わってくる。

それが本当に嬉しいし、心が温かくなる。

私は抱いていた子供をそっとリュカへと託し、引き留めるレイを軽くいなして一歩前に出る。


(まだティルとヴェルは上がって来てない、少しでも時間を稼がないといけない。)

私はそう思い、口を開く。



「私がそんなに憎いですか?それは私だからでしょうか?聖女だからでしょうか?」

「…全く聖女というものには困らされるばかりですな」

「私はこの世界のことが全くわかりません。ここへ召喚されてからというもの、生活の違いや習慣の違いなどたくさんの事で頭を悩ませる日々です。…そんな中で1番私が困っているのはあなた達の行動です。」

「勝手にこの世界にやってきてなぜ悪戯に世を乱すのか…自分のいた世界で生きていてくれれば良いものを」

「私もこの世界に来たくてきたわけじゃないんですよ、強制的に連れてこられたんです。帰る方法もないと聞きました。」

「それによって苦しむ人がいても、最悪な死に方をする人が出ても、聖女は権力をかさに好き勝手な行動をとる…」

「それは…」



私たちの会話を他の皆は静かに聞いていた。

リュカやレイは私の意図に気が付いたようで、苦い表情をしながらも見守ってくれている。


そして私は…あわよくばこの人たちと話すことによって何かが変わってくれるんじゃないかと思い話をしていたのだが…この人たちは話をするだけであって私の話を聞いてくれているわけじゃない事がわかった。

相手は私に何か言いたいわけじゃないし、私の意見など全くもってどうでもいい事なのだろう。

私は目線を下げ、下唇を強く噛んだ。

口の中に血の味が広がり、レイがそれを嗜めてくる。


『私にはこの人たちを止めることはできない』と、話したことでより一層強く思わされるだけの結果に終わってしまった。

きっと今ここでこの人達を見逃せば、この先も理不尽に追いかけられ続けるのだろう。

私や周りの人や子供が狙われ、私はその度に絶望し後悔し涙を流すのだろう。


…殺すべきなのだろうか?相手が私を殺すつもりで来てるのだ…目には目を歯には歯をという言葉もあるのだ、そうすることが正しいのだろうか?


アニメや小説などのこういったシーンで主人公が心を決め敵を殺すシーンがあるけど、いざ私がその状況に置かれると即座に決断することができない。

第三者から見ればもっと簡単にどうすればいいかなんて決断ができるのだろうか?…当事者になればそれは簡単じゃない。


(どうすれば、どうすればいい?どうするべきなの?)


私はどんどん自分の思考にはまってゆく、体は小刻みに震え動悸もする。

そんな時、おもむろにリュカが口を開いた。



「あんたたちねぇ、なんか勘違いしてんじゃないの?」

「はて…?勘違いとはなんでしょう?」

「私もあんた達みたいな連中のことを少ししか知らないからわかんない事も多いんだけど、あんたたちは聖女がこの世界になんで来てるのか知ってるわけ?」

「自分の世界に嫌気が刺した者が聖女だ。この世界にやってきて暮らしを保証され生活しながら好きな男を夫とし、死ぬまで堕落した生活をおくりながら魔力の高い子を産むのだろう」

「違うわね。聖女はこの世界の人達が同意無しに無理矢理連れて来て、否応無しに永遠と子供を産まされ続ける人のことを言うのよ。」

「そんな筈はない。私はそんな事は知らない、全て出鱈目だ」

「出鱈目なんかじゃないわよ。」

「そもそもなぜそんな事がわかる!」

「それは私の祖母が前回召喚された聖女だったからよ。祖母からも母からも色々な話を聞いたわ」



リュカのその言葉に口を閉ざし何かを考えてる様子のフードの人物を私が眺めていると、不意にその後ろに並んでいた人達が気になった。

私は5人いる筈のフード集団に目をやるが、そこには4人しかいなかった。

『あれ?5人いたよね?』と私が考えたとほぼ同時に草むらから魔法が飛んできた。

その魔法に気が付いた時にはもう目前まで迫っていて、私は咄嗟に顔と頭を庇う様に両腕を顔の前でクロスさせた。

そんな私と同時に魔法に気付いたレイは、私とリュカを咄嗟に掴み結界を張ってくれていた。

けれど、結界が張られるよりも数秒早く魔法がレイへと着弾した。

中途半端に張られた結界が着弾と同時に張られる。

私たちを庇う様に魔法を背にしたレイの背中にはおびただしい数の切り傷が出来ていた。



「レイ!!」

「…すみません。油断してました」

「レイ、ありがとう。私も周りが見えてなかった様だわ…」



私はレイの背中を見て驚き、咄嗟に魔法を使おうとするが、それをリュカとレイに止められる。

リュカから子を受け取り、すやすや眠っているこの顔を見ながら気を落ち着かせる。



「錠剤を飲ませるから大丈夫よ、と言ってもあと3回分しかないわ。これからは特に慎重にしてちょうだい」

「優里様は魔法を使わないで下さい。こんなものはすぐに治りますので…」



そう言った二人は魔法が飛んできた方向とフードの集団へと、それぞれ向く様な形へと背中合わせになった。

結界があるから向こうから見えないとしてもだ。



「おや…結界ですか…困りましたねぇ…でも、次は必ず殺しますよ」



そう言って笑うフードの人を私が睨みつけていると、急にその後ろに居たフードの集団がざわめきだす。

何故いきなり騒めくのか全く状況がわからない私達の耳に、ずっと聞きたかった声が届く。



「何処にいるかわかんね…でもここら辺にいるんすよね?…え?本当にいるんすか?」

「結界に入ってるんでしょ、しっかりしてよ。」

「いやいや、結界とか全く俺知らないんすけど?!」

「あーうるさい、早く敵倒しちゃってよ」

「いや…俺、重症なんすけど…」

「えぇ?優里にほぼ治してもらったから目玉あるんだろ?」

「あ、目玉…ほんとっすね。じゃあ軽症…な訳ないじゃないっすか!!」



…。

緊張感がない会話をティルとヴェルの二人がしていた。

私はティルに肩を借りているヴェルの姿を見た瞬間にたまらず『ヴェル!』と叫んでいた。

ヴェルは私の声が何処から聞こえたかわからないらしく挙動不審になっていた。


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