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不穏な王都編
聖女は力の暴走中に子を産み落とす
しおりを挟む真っ暗な中閉じ込められて、もう何日こうしてるのだろうか?
一日も経ってない気もするし、もう何日もこうしてる気もする。
喉が渇いた、お腹がすいた、誰かと話したい、体が動かない。
そんな言葉が頭の中をぐるぐると回り続ける。
誰かが私のことを助けてくれるなんてもう楽観視はしていない、ここから助かるには自分自身が何か行動を起こさないといけない筈なのに…何も出来る気がしない。
そんな時、私は地面が揺れていることに気がついた。
ほんの少し…地面に寝そべっているからこそ気がつくことができた微細な揺れ。
何かが外で起こっているのだろうか?いや、自分の心臓の鼓動がそう思わせているのかもしれない。
私はもう、何も考えたくなくて目をつぶった。
その瞬間、私の寝そべっている地面がいきなり消えたのだ。
何を言ってるのかと思うだろうが、急に消えたのだ。
私はこの状況にとてつもない既視感を抱いた。
そう、この状況はこの国に来た時と同じなのだ。
私はまたどこかに召喚されてしまうのだろうか?
そんなことを考えながら私は落ちてゆき…そのまま気を失ったのだった。
「起きなさいよ。」
誰かが私のことを呼んでいる。
「起きなさいってば!」
「っ!」
私が驚き目を開けるとそこにはリュカがいた。
状況が飲み込めない私に向かってリュカが早口で話し始める。
「時間がないから簡潔に私の言うことに答えてちょうだい、あんたは今どこにいるの?何か今いる場所についてわかることを教えてちょうだい」
なぜ目の前にリュカがいるのか、私は助かったんじゃないのか、色々なことが頭の中を駆け巡る。
けれど、リュカの様子があまりにも真剣だったので要望通り、出来るだけ簡潔に答えてゆく事にした。
今いる場所はわからない事やセリナさんが来たこと、その時に話したことや今私の置かれている状況などを淡々と答えていった。
全て答え終わる頃にはリュカの顔色は真っ青で今にも倒れてしまいそうだった。
私が大丈夫なのか聞こうとした瞬間、視界がブレた。
私が見ているリュカや景色がミキサーで混ぜられてゆくようにブレる中『私たちが絶対に助けるから待ってなさい』と言うリュカの声を最後に、気づけば元の暗闇の中に私は戻っていた。
「夢…?」
私は全く意味がわからなくてしばらく呆然としていた。
あれは夢だったのか、夢じゃなかったとしたら何だったのか、何度も脳内で考えてみるがわからないままだった。
この世界には廃れつつあるが魔法があるのだ、リュカも魔法が使えたとしておかしくない。
さっきのリュカが魔法によるものなのか、私の妄想なのかはまだハッキリしないが…おかげで落ちていくだけだった気持ちが少し落ち着いた。
そうだ、何を私は諦めてるんだ。
今私が諦めたら誰がお腹の中の赤ん坊を守るんだ。
私はふらつく身体を床から起こし、ここから出るためにできることを探すことにした。
改めて探せば、もしかしたら…何かあるかもしれないと思ったのだ。
酸素が薄い今、無闇矢鱈に動く事は悪手なので先ずは今の状況をもう一度整理する。
床も壁も手が届く範囲で穴や隠し扉の様なものはなかった。
天井付近に無数の穴があったけれど今は無くなっている。
…もしかしたら天井付近の穴があった場所はここよりも壁が脆いかもしれない。
そんなことを考えた私はどこか登ることがないか探す事に。
「私は絶対ここから出てやる」
ボソボソと声にならない声で私はそう呟いた。
自分を鼓舞する為の言葉だったのだが、声を出したその瞬間…私の体に異変が起きた。
「これは…あの時と同じ?」
私の身体が薄緑色に発光し始めたのだ。
その光はじわじわと強くなり…『あ、これはヤバい』と思った瞬間、目が開けられなくなるほどの光が私を襲う。
咄嗟に目を閉じた私だが、体の奥からどんどん何かが抜けていく様な感覚があり不安になる。
「きゃあああ!」
どこにそんな力が残っていたのか、耳をつんざく様な叫び声が自然と口から漏れる。
それと共鳴するかの様に、自分の髪が…服が…バサバサと暴れ出す。
自分を中心に風の渦が出来始める。
目を開ける事も叫ぶ事を止める事も出来ないまま、自分の身体から濁流の様に魔力が出ていくのを感じていた。
訳がわからないまま、私はパニックに陥っていた。
壁や地面が嫌な音を立て始める。
このまま力を出し続けたらどうなるのかはわからない。ひとつわかるのは、このままだと壁や地面が吹き飛ぶと言う事だ。
けれど、力に弄ばれ続ける私はどうすることもできない。
力を出し過ぎて身体が強張る、頭もガンガンし始め手足の先が痺れ始める。
壁や地面がえぐれたのだろうか、私の周りの壁に固いものが当たるような音がし始める。
その音はどんどん多く、大きくなってゆき…最後には轟音と共に何かが壊れる音がした。
それと同時に止めることのできなかった力が急に収まり、私はその場に倒れ込んだ。
「し、死ぬかと思った…」
そうつぶやいて私は気を失ったのだった。
その時の私は気がついていなかった、その力の暴走の最中…子供を産み落としていたことを。
子供が産まれた瞬間に力の暴走が止まった事を。
膜の中でスヤスヤと寝ている我が子と私が対面するまであと数分。
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