とある令嬢の憂鬱

猫崎ルナ

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とある日の令嬢の呟き

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「ふふふ、そうでしたの?」
私の目線の先では嬉しそうに頬を染める女性が見える。

「そうなんだ。その時俺は思ったんだ…これが運命だと!」
男性はその女性をそれはそれは愛おしそうに見つめながら、何度も女性の髪に指を通している。

「愛してますわ、ルド様」
「もちろん俺だってエリーを愛しているよ」
女性がいつものように男性に愛を囁くと、男性もいつものように愛を囁きかえす。


見目麗しい二人が庭先で寄り添いながら会話をする様は、ここヴァイオレット公爵家の使用人達の士気を高める事になるのだが、思春期真っ只中の私にとっては恥ずかしい事この上ないのだ。

使用人や私のお友達は皆『仲がよろしくてとても羨ましいですわ』と頬を染めるのだが、私にとっては拷問でしかない。やめろとは言わないが、見えないところで愛を深めてほしい。

『君に関係あるのか』と言われると『はい』と答えるしかないのだ。だって私の目の前で愛を囁き合っているのはまごう事なく私のお母様とお父様であるからだ。

今でさえこのように仲がいい両親だが、元々は今とは真逆だったというので人生ってわからないものだなと私は思う。

私はホワイトローズ王国にあるヴァイオレット公爵家のリリー ヴァイオレット公爵令嬢として産まれました。

私が生まれる前はヴァイオレット公爵家はいい働き口ではないと言われていたらしいですが、今は募集をかけると即定員割れを起こすほどに人気です。

人気の理由は私のお母様にあります。

私のお母様はここへ嫁いでくる前は気が難しくわがまま、笑顔なんて見せないと言うような令嬢だったらしいのですが
私を出産したと共に苛烈な性格はなりをひそめ、そして笑顔溢れるようになったらしいのです。

以前とはまるで違う様子の母に皆は最初驚き、何か企んでいるのかも知れないとまで思ったそうです。

けれど、いつになっても以前のような振る舞いをしないお母様を皆は少しずつ信頼していったらしいのです。

ある時侍女長が、お母様の以前の行動について話を聞いてみたらしいのです。

すると、お母様は他人への愛情のかけかたや人との接し方がとても不器用な人だった事が判明したらしいのです。

新人メイドが些細なミスをしてしまった時にお母様はそのメイドが泣くほどにキツく怒ったらしいのですが、
言い方が悪かっただけであって言っていることは至極真っ当な事だったりと、思い出せば全ての事が言い方がキツかったり言葉が不足していただけだったと侍女長は言っていました。

わがままで高慢で気難しくて...と、嫁入り前に噂がありお父様もそういった人が来ると使用人達に明言していたからこそ、全てがそういったふうに捉えられてしまっていたらしいのです。

今の母しか知らない私はその話を侍女長から聞いた時、全く想像がつきませんでした。

だって、新人メイドが何か些細なミスをしてしまった時にお母様が目をつりあげ怒鳴る姿なんて想像もつきません。

『出産とは時に人の価値観が変わる事もあるのよ』とお母様はいつも私に困った顔をして言いますが、そこまで変わってしまう出産が少し怖い気もします。

まぁ、そもそも私は未だに婚約者もいませんし恋だの愛だの胸のときめき等は全くわかりません。

両親を見ていると胸がムカムカしますが。

お母様は私をそれはそれは愛してくれています、お父様のことももちろんですし、使用人一人一人にさえ感謝の気持ちや嬉しい気持ちなどの好意を惜しみなく伝えます。

他の高位貴族の方達が酷いわけではないけれど、やはり個々として認識してくれたり些細なことでお褒めの言葉をもらえたり挙句の果てには贈り物ももらえたりもするので、個々の使用人たちのやる気は他とは段違いなのである。

やる気があると使用人の質も向上しますし、屋敷の中の雰囲気も柔らかな春の日差しのような雰囲気を醸し出していてとても居心地が良いと、お友達を屋敷に招待する度に言われます。

そんなお母様やお父様や使用人達を私は尊敬しますし、大切に思っています。

ですが、もう一度言いますが私も思春期。

周りのお友達が色だの恋だのと楽しそうにしている時の話題に両親の話が上がれば恥ずかしくもなります。

あと、言われすぎて耳にタコが出来そうです。

あぁ、私は恋なんてできるのでしょうか?






そんな事を思っていた私がこの後とある令息と恋に落ちて大恋愛をし、貴族の間で二代揃っておしどり夫婦だと羨ましがられ、お茶会では毎回話に上がるほどになる日が来るなんて…今の私は知らないお話。
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