聖女の子も聖女というわけか。

猫崎ルナ

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2聖女の子は

捧げる愛

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 気絶した彼がそろそろ起きてくる頃じゃないかと辺りをつけた私は使用人に頼んでいた朝食をとりにいき部屋に帰ってきた。
 この部屋にはまだ誰も入れる予定は無いので全部私がする事になるのだけれど、この時の為にたくさん練習をして来たので平気だ。
 
 部屋に私が入ると彼は目覚めていたので朝の挨拶をした。
 朝の挨拶ができる事が嬉しくて、ついつい笑みが深くなってしまう。いけないいけない、落ち着かなくちゃ。

 何も言わない彼の元へとゆっくり歩いてゆき、目の前に朝食を並べてゆく。
 そんな私の行動を彼はじっと見つめてくるので、指先が震えない様に気をつけるのが大変だ。
 彼にこのうるさいほど高鳴っている私の鼓動が聞こえちゃわないか心配しながらの配膳だ、失敗しない様に気をつけなきゃ。

 並べ終わった朝食を彼は静かに見つめる。
 もしかしたら毒とか入ってると思ってるかもしれないので、毒見をした方がいいか聞いてみたのだけれど…言いながら気が付いた。
 これ、スプーンもフォークも一つずつしか無いのだ。
 つまり…私が毒味をしたスプーンで彼が…。
 私はそれに気が付いた瞬間、顔が真っ赤になってしまった。頬が熱い。
 恥ずかしさを隠すように笑ってみたけれど、うまく笑えてるかわからない。恥ずかしい。

 彼はそんな私の様子を見て少しだけ瞳を揺らした。多分変な女だと思ったのだろう。
 私の顔と目の前に置かれた朝食を交互に見て彼は眉を少し寄せる。
 食べていいのか悩んでるのだろうか?
 そう思った私は思い切ってアーンしましょうかと言ってみた。

 最初に距離を積めることは大切だと誰かが言っていた気がするので、ちょっと攻めてみようと思ったのだけれど…ちょっと攻めすぎたかもしれない。
 その証拠に彼は目を丸くして私をみて何でと問いかけてきた。思わず問いかけてしまうほどの変な女が私の立ち位置になってしまう。

 どうにか挽回しなければと思った私は悩み…未来を見たなんて言えないので一目惚れだと言った。
 私が彼に対して恋心を抱いていることをまずは知ってもらわないといけないのだ。
 
 そう思った私だったけど、その場に流れた空気が何とも言えなくて、困ってしまった。
 ま、まだ早かったかもしれない…。攻めすぎたかもしれない。

 けれどそんな私の言葉に少し動揺を見せた彼だけれど、目の前の料理をじっと見つめた後、何かを決心したかの様な顔をしてフォークを持った。
 私のことをチラチラ見ながらゆっくり食事をする彼を見て、私は少し感極まってしまった。
 
 途中からは私のことなんて視界に入ってなくて、美味しそうに、美味しそうに…食事をする彼を見て本当に嬉しくなってしまった。
 彼がどんな人生を歩んできたかなんて私は知らない、けれど、これからの彼の人生が幸せでいっぱいになるように私は頑張ってゆこうと再度決意を固めた。

 彼が私だけに笑いかけてくれるように。
 私だけに愛を囁くように。

 優しく、優しく、甘やかし、真綿に包み込むように、私でドロドロに溶けてしまうように。

 
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