私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第二章 心の霧

四十三話

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「は……?」

 急展開の内容に思わずそう言葉をこぼす。いきなり、家族が死んだ。
この本なんとなく怖い。

「というか、アトゥムとストームか……?」

 そんな事に引っかかりながらもまた次のページを開いた。

      *    *

「え……あ、あ…?あああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 少年は驚きのあまり大きな大きな声を出してしまいました。
 あの嫌いな両親が床にはいつくばりながら、真っ赤に染まっています。

 そして、ソファの上には大好きだった弟も心臓をナイフで突き刺され真っ赤に染まっていました。

「な、治してあげるから……治してあげるからね」

 すぐさま弟の側により、弟を治そうと必死になり、すぐに能力を使おうとしました。

 けど、それは無理でした。

 なぜだか能力が使えなくなってしまったのです。
 きっとそれはとてつもなく不安で、パニック状態だったからでしょう。
 力が安定しなかったのです。

「なんで……このままじゃ…」

「………だ、め……」

「!!」

 掠れた声、けれど微かに聞こえたその声に反応し、少年は少しだけ不安が収まりました。

「……能力は、…癒やし、の能力は…寿命を、引き換え……に治すの。だから…駄目」

 途切れ途切れにけど必死に言ってくれる弟。
少年は辛くなり、ずっと弟といたいと思ってしまいました。

「け、けど…!それでも…っ!…………なら、僕の寿命あげる。全部、全部!」

「っ………」

「どうかどうか、弟の傷を治してくださいな」

 少年は弟を抱え込みながら、祈りに祈りました。
 見たこともない眩く優しい光が、二人を包みました。優しく暖かく。
 すぅーっと自然に弟の怪我も消えていきます。

「な、ら……自分は…〇〇の心臓を、造ってあ…げる………わい、の…名前は?」

 弟はそう言いました。
 弟の能力は何でも作れる代わりに、その重要差によって代償がありました。

 魔力をただ造り続けるだけなら、特にないです。
 けれど、人を生き返らせるなどとそういう必ず出来ないことは、代償が必要になってしまいます。

 それは、名前であり呪い。

「……アヌビスの名前はストーム。嵐になってずっと何度でも生まれておくれ」

      *   *

「へ……ということは、ストームってアヌビスって名前?ストームが死にそうになって、アトゥムは寿命を全部あげて、助けて。けど、ストームがアトゥムの心臓を作った」

 いや、ほんとどういうことだよ。

 そう思いながら、またページを開くと、そこから先はページが破れていた。
 次も次の次のページもずっとずーっとページが破れ続けていた。

『やっと見てくれたんね』

 関西弁にその馴染みにある声。
 けれど、少しだけ高くなっている声に違和感を覚えながらも振り向く。

「子供……?」

 見た目はストームだが、というか、背が小さい。子供っぽくて、声が少し高いのもこのせいだろう。

『子供ちゃうわ。その本を造った昔のアヌビスや』

「や、やっぱり、アヌビスってストームの事?てか、なんで子供、昔のストームがいるねん!」

『そういう仕様にしたからよ。お前の言ったとおり、わいは兄に心臓をあげた。その代わり、名前をあげたんや』

「はい?」

『だーかーらー』

 かくかくしかじかという様に説明をしてくれた。
 このストームは昔のストームで、この本は初めて造った本らしい。

 勝手にアトゥムの過去が描かれたのだとか。 

 そして、ここにいる可愛らしいストームは、この本が開かれたら召喚されるようにされてるとか。

 話は戻るがどうやら、ストームの真名はアヌビスという名前だったという。

 けど、あの一件にアヌビスは心臓を造りアトゥムにあげた。
名前であり呪い。

 それはアヌビスとアトゥムが離れぬようにアヌビスがアトゥムに自分の名前を変えるよういったのだという。

 その時は魔塔の主ではなかった為、禁忌の契約を行った。
 アヌビスが勝手に造った禁忌の魔法。

 造った心臓が壊れぬように、もうアトゥムがいなくならぬように、アトゥムに名前をあげたのだという。
 名前をあげ、アトゥムに名前を変えてもらう。

 これで、もうアトゥムからもストームから離れられないし、ストームもアトゥムから離れられない。

『いわば、王様と従者やな。王様も従者を裏切ってはいけないし、従者も王様を裏切ってはいけない、まぁ深く考えちゃ駄目よ。簡単に命を繋いだ仲だと思っときーや』

「おもくそ面倒くさいやん」

『せやろ?けど、わい達を殺した相手がわからんのよね』

「え、殺されたのは初耳」

『殺されたわ、誰かに。多分、神殿の連中らだろうけどな。目障りやったんろうな』

 かわいいちっこい姿のストーム可愛いなぁ……と思いながらも、多分聞いている。
 本当にこいつら兄弟も面倒くさいなと思う私であった。

「でもさ、この本の意図もわからないし、なぜ私がこの本開けた?」

『どっちの質問も知らんよ。もしかしたら、お前がアトゥムを助け………いや、それはないわ』

「ないとはなんだと!!」

『まぁ、いいわ…………お前はここからすぐに逃げろ』

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