私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第二章 心の霧

三十七話(アトゥム視点)

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「まさか驚かないとは………」

 彼女が眠った後もまだ驚いていた。

 魔法だって万能じゃない。けど、名前や心の隙を使えば、いとも簡単に相手を操れる。

 だから、ストームに目の前を真っ暗にさせ、パニック状態にし、眠らすという作戦だった。

 パニックになると人間誰しも正気を失う。
そこから心の隙がでるのだが、彼女は驚かなかった。

「せやな、想定外の事やけど最初に言った言葉が効いたのか素直に眠ってくれて良かったで……………けど、どうしてこんな回りくどい事をするん?」

 ストームがすやすやと気持ち良さそうに眠っているリリアナを持ち上げた。
 優しく大事な物を持つように。

 ストームの言うとおり、名前さえ聞かせればいいのだ。
 けど、本心が悩んでしまった。ストームだって同じだ。
 こんな汚れ仕事をしてたら、ストームだってにこにこしてても、傷ついてしまう。

 それにもっと責任を追わせるはめになる。

「いえ、ただ焼き鳥のお礼です。どうせ、記憶を消しますし、最終手段として真名を使うだけですよ」

「お前なぁ……んで、数年ぶりの外どうだったん?」

 呆れたような口調をしながらも、私に質問をした。
 外に出れないのも本当だし、神官に言われたことも本当だ。これ以外は全て本当としか言いようがない。

「………秘密です」

「全く……リリアナは神殿に置いとくん?」

「えぇ、そうしようかと。邪魔者はいなくなりましたしね」

 にこっと微笑みそう言った。
 邪魔な神官はもういない。それに、あの神殿では私が一番なのだ。
 だから、誰も何も言わない。

「神の使いが欺いていいんか?」

「おや?私はこの世界を、壊れた理不尽な世界を直すだけですよ。欺くなんてとんでもない。それに、私は秘密を公にしただけですが………」

 はて?というように首を傾げる。私は何もしていない。

 勝手にテンパって悪くしたのはあいつらだ。
 私はきっかけを与えただけ。

「兄ながら恐ろしいわぁ……」

「褒め言葉ありがとうございます」

 そうしてまた微笑んだ。

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