私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第二章 心の霧

三十六話

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「なんや花火見たかっただけ?」

 ドキドキしながら、アトゥムが連れて行く所へ向かうと、花火がよく見えるベンチだった。
 お祭りの夜は花火が中心と言っても過言ではない。

 ベンチの前には噴水があり、噴水を囲むように三つのベンチがある。

 ほっとしたのもつかの間、人が少ない事に気がついた。

 いや、人は少しいるが、全員私達の事を見えていないようだ。

「…?人少ないね。ここらへんって花火よく見えるんでしょ?もうすぐ花火が来るし………」

「貴方はどこに行きたいんですか?」

「へ?」

 その問いに驚いた。何も見ていなそうなアトゥムがそんなことを言ったのだ。

「私、なんとなくわかるんです。貴方は、貴方の心はどこにあるんですか?」

「いやいやいや!何言ってんの!?」

「だって、貴方は自分の感情を犠牲に人を救うのでしょう?だから、貴方の心の置き場はどこだと聞いているんです」

「………深刻だねぇ…まぁ、私の心の置き場はやっぱり推しかな!!推しは神だからね!」

 推ししか勝たんとはまさにこの事。
 猫だったり、昔やってたかっこいい奇術師も推しだった。

 でも、最近は推しがいないから嘘だけど。昔は推しが沢山いたなと思う。

「メタイんよなぁ……」

「ま、そういうもんだからね!」

 推しは好きとか応援する人やモノの事をさす。だから、別に間違ってはいないと思う。

「私はそういう事を言ってる訳じゃないんですが…………まぁ、いいでしょう。ストーム」

「はいよ!」

 なぜか威勢が良いストーム。

 うわ、こっわっっっ!

 アトゥムよりストームの方が百倍怖い気がした。変な問いはどうでもいい。

 けど、「いいでしょう」ってなに。私は何かテストをされていたのか。

 そんな時、途端に闇に覆われた。
 というか自分が真っ暗な世界に閉じ込められてしまったようだ。
 音だけ聞こえて、目が失明したみたい。

「おぉ~!なにこれ!すご!!」

「へ……?」

「はい……?」

 私が驚くのではなく、むしろ感激したのが驚いたのか、腰を抜かしたような声を出した。

「いやだってやばいよね?目見えないってこういう事か~勉強なったわ」

「驚かんとは………」

「あぁ、ストームが面白いとはこういう事なんですね……」

 なんの事だがさっぱりだが、嫌われてはないようだし良しとしよう。
 アトゥムの頭を抱え込んだ姿が目に浮かぶ。

「魔法でしょ?」

「せやなぁ、驚くかと思ったんよ?」

「はは…っ…!驚くわけーーえ……?」

 笑っていた、ただそれだけだった。
 けど、途端に眠くなって、意識が途切れていく。

 真っ暗じゃない。意識が塗りつぶされていくような感覚だ。

 声も出したくても出せない。
 私は精一杯だそうと、口を開いた。

「…っ……くそ…が」

 その言葉を残して、私は眠ってしまった。
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