私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第二章 心の霧

二十七話

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「いや、特にやることなくね?」

 仲直りし数日たった頃、やっと理解をしてしまった。

 仕事がほしい

 仕事がなくて別の意味で死にそうだ。
テクディアに何かほしいものがないかと言われたこともあるが、まずねえし。

「それでは、気分転換に外でも出てみては?」

「そうだね…………んで、なんで君達はここにいるのかなぁぁぁぁ!??」

 ここ私の部屋!

 大声でそう叫んだ。
 侍女達がぞろぞろと勢揃いでいるのいい加減やめません?
 出ていってほしい願望。

 何かないかと考えていると、ぱっと頭に浮かんだものがあった。

「あ……!クロ!!」

「クロ……とは?」

 知らなかった侍女達は全くわからないように首をかしげた。

「前にね、めっちゃ可愛かった天使な猫がいたんよ。あの毛並みはーーー」

「この猫ですか?」

 イリンが他の侍女達から布で包まれた動いている何かを受け取る。そして、それを私に見せた。
 布を受け取ると、包まれていてよくわからないが温もりを感じられる。

 その布を恐る恐るとり、覗き込んだ。

「え、クロ!??」

 そこにはいつもと変わらない綺麗な毛並みをしたクロがいた。
 にゃ~と優しい鳴き声をあげている。

「実はこの屋敷に入り込んでしまっていて…………」

「……尊い」

「へ」

「尊すぎるーーー!!!反則やん!」

 その日、私の叫び声が屋敷中に知れ渡った。

      *     *

 夜になり、外は真っ暗になる。ここらへんは星がよく見えない。
 ちょっとなら見えるが高いところじゃないと見れないのだ。

 私はクロを片手に屋根へと登った。クロだけは落とさぬように頑張ったがなんとか行けた。

「いや~、やっぱ星見えない……」

 上を見上げてもほぼ真っ暗で無数の光など見えるはずがなかった。
 クロは相変わらず鳴き声をあげている。

「クロ。私さ、星と月が好きなんだよね。夜中でも、夜中に起きてても、星とか月とかは綺麗に光ってるじゃん?だから、一人じゃないんだなって感じられるって、何話してるんだろうね」

 聞いてないと思っていながらも、独り言を呟く。
 クロはなんのなくわかってるのか、鳴き声をあげなくなった。

「それは日中もやろ?」

「残念ながらそーなんだよ!…………え?」

 乗りで返事をしてくれたので返したが、今気がついた。
 話してるの誰!??
 幽霊かな、怖すぎるだろう。

「せやなぁ……わいには何も言えへん」

「いやいや!?誰!!」

「え、クロよ?どうしたん」

「お前がな!!」

 クロの方へと向いた。クロは首を傾げているだけで普通に猫だ。
 いや、誰が返事したんだよ。

「まじで?……」

「まじに決まっとるやん?」

「は?猫が喋るなんて、あの青い狸しか見たことがないんですが!?」

「逆に見たことあるん!?ちゃうわ、猫型ロボットやろ!」

「メタくて怒られるわ!」

 双方で言い合いをしながら、とりあえず落ち着く。
 今思ったのだが、クロも喋る時、口とかが動いてたので、これ多分クロ。

「それであの、クロ……だよね?」

「せやから言っとるやろ?」

「それじゃあ、私が………」

「神とか天使とか言ってたのも知っとるで~」

 それを聞いてかぁっと顔が熱くなる。
 もはや、クロを処罰しようかと思ったが、さすがにクロは可愛いし、無理だ。

「まぁ、落ち着けばええねん」

「無理やん」

「即答やなぁ」

「クロは人間……?」

「あぁ、そうよ。わい、魔塔の主なんよ」

「まじワロタ」

 ほわわんとした口調で、なんだか裏がなさそうな感じがした。
 けど、魔塔の主なんて信じられない。

 というか、私は魔塔の主にすりすりしたりもふもふしたり、絶対いけないことをしている。

「あーそうそう。テクちゃんがきっとわいの事探しにくるへんなぁ」

「テク、ちゃん……?」

 名前がわかりそうでわからなそうで、首を傾げた。
 なんだろう。身近な人でテクが入る名前は知ってるが、本当にそうか信じられない。

「テクディアの事よ。魔塔と皇帝は深い関わりがあるんよね。せやから、君達が初めて合った時、テクちゃんはわいに用事があったんよ」
    
「お邪魔虫だった………」

「別に気にしとらんよ?テクちゃん、わいがこの屋敷内にいる事知ってるから、来ると思うで」

「あー、うん……………ま、いっか。名前は?クロじゃないでしょ?」

「名前………知りたいん?」

 私がそういうと、一気に空気が変わったような気がした。
 クロも少しだけ声が低くなる。

「もちのろん」

「………ええよ、ストームって言うんや」

 ストーム、嵐とかの意味が込められている。けど、もっと気になったのは、嘘臭かったのだ。
 少しだけ微笑むその姿がなんだか、嘘の笑顔に見えてしまう。

「……違くない?それ嘘の名前じゃないの?」

「へ…………あー、してやられたわ。君の言うとおりストームは嘘や。けどな、名前っていうのは一番の魂の縛り。いわば、弱みみたいなもんや。だから、力を持った者は仮の名前をつけることが多いんよ」

 やられたように、くすっと少しだけ笑った。姿形は猫なのに、美形と思ってしまう。

 名前に関しては確かにそうかもしれない。
 契約書とか書くとき、大体名前を書かなきゃいけないし、となると名前は大事なのがわかる。

「そっか、知られたら弱み握られたのと同じかぁ」

「せやなぁ……まぁ、でも君になら教えてあげてもええけどね」

「えぇ……こわっ」

「ま、君が知りたかったらよ?」

「遠慮します!」

 大声ではっきりとそう言った。

「わいの事ぎゅっとしてくれてもええんやで」

「それはします!」

「それはするんね」

 そんなこんなで、喋る猫との時間が増えていったのだーーー
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