私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第一章 始まって仲直り

二十五話(ギクテッド視点)

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「ったく、なんでまたあの所に行かなくちゃいけないんだよ」

 月幸百が咲いているあの所へ向かうに連れ、行きたくないという意志と不安にかられた。
 あれはまだ母が死んで、父が嘆くだけで狂ってなかったときよくここに来ていた。

 あいつには思い出したくもないだろうな…

 自分の気持ちを隠すように戯言を呟いた。
 そして、目の前に白く綺麗な花びらが舞った。

 花びらで隠された先には、あの月幸百が月が出てないのに花を開いている。
 不思議な形でここに来たのも見るのもあの時以来だ。

「…やっとついたか。けど、ここにきて何の意味がーーーは……?」

 満面花畑の中、ただ一人そこで寂しく佇んでいた。テクディアだ。
 テクディアはまだこちらに気づいてない様子だった。

 なんであいつがこんな所に……

 俺は目の前の光景が不思議すぎて、声すらも奪われてしまった様な気分になった。

「…?箱を持ってるな」

 バレぬよう木影に隠れながら、テクディアの手元を見ると、真っ白に包まれた箱を持っていた。
 ちょっとした小物が入るくらいの大きさだ。

 テクディアはその箱を花が咲いていない地面へと置く。

 そして、数ある中の大きく一番綺麗な、月幸百の茎をおり、自分自身にちかづけていた。

 俺はわけのわからない行動により、困惑していた。あのテクディアは何をする気なんだ。

 そう思っていたのもつかぬま、テクディアは月幸百の花びらを食べた。

「は、はぁぁぁぁ!???待て!すぐ出すんだ!!!」

 大声で驚いたような、自分でも驚く大声を出した。テクディアも気がついたのか、すぐさま月幸百の花びらを出した。

 俺はテクディアの側まで全力で走り、持っていた花を奪い取る。
 その姿にテクディアは言葉も出なかったようだ。

「お…っ…まえ馬鹿か!!その花は猛毒だぞ!食べれば死ぬんだぞ!!!」

「別に大丈夫だろ?」

「はぁぁ??」

「僕達は幼い頃から毒の耐性を持ってるんだから」

「あ」

「それに昔は一緒に食べることが多かったからな。甘くてお前も好きだったろ」

 な、こいつなんでそんな事覚えてて……

 確かに皇帝になるならなくても、皇帝になれる血筋を持っていれば、どんな毒にでも耐えられるよう訓練されるはずだ。

 猛毒とはいえ、俺らにとっては無害だ。

 よく、甘くてどんな豪華な料理でもこっちの方が大好きだった。

「完全に忘れてた………じゃ、じゃないな。俺はお前のことなんて嫌いだからな!死んでも良かったーー」

 何言ってんだァァァァ

 死んでくれても良かったなんて嘘だ。しんでほしいなんて嘘だ。
 なんで、本心と裏のことが出るのか不思議すぎる。

「………これ」

 俺が苦悩している間、テクディアはあの白い紙製の箱を俺に向けた。

 というか、渡された。

 突然のことでもっと困惑していると、テクディアは

「ごめん」

 そう言い残し、去ろうとした。
俺はすぐさまその箱を開け、中身を見る。

「これ、ケーキか……?」

 一つに切られた三角のケーキ。チョコケーキで、周りにはホイップクリームも乗っていた。

 少しだけ不格好で、偏ってたりするところがちょくちょくあった。
 そして、ポイントとして置かれていたのは、月幸百の花だった。

 茎の部分はなくし、花だけの部分だけになっている。しかも、花が咲いていた。

 凍らせているのだ。花が咲いたまま凍らせているから、そのままの状態になる。

「ま、待て……!俺は!俺、は……」

 去ろうとしているテクディアに精一杯の声をだす。テクディアはこちらに振り向いた。

「俺はお前が嫌いなんだ…」

 ぽつりと本心を落とした。

「…………」

「お前はいつも誰かを頼ってくれなかった。お前はいつも自分で抱え込んでた。何をされても嫌だと言わなかった………そういうところがーー」

「っ………」

 俺の言葉にテクディアは驚いたようだった。そして、また気づいたようだった。

 俺がお前の事を嫌いだと。

「大嫌いなんだよ…っ…!!」

 どうか笑っていてくれ。どうか笑顔を失わないでくれ。
 俺には見せなくていいから、笑っていてくれ。

「確かに俺が悪いんだ………こうさせた俺が悪いんだ………けど、お願いだから…っ…俺には見せなくていいからずっと笑っていてくれ………」

 紛れもない本心だった。いつの間にか瞳には雫が沢山溜まっていた。
 ずっと言えなかった言葉がずっと留まっていて、そのかせが外れたみたいだ。

「なんて、な………俺はもうお前と会わない。仕事ももうやらなくてーー」

 涙をこらえて、それでも流れ出した涙を拭う。

「僕だってお前のことが大嫌いだ」

「……だろうな」

「馬鹿か。それを言わなかったお前が嫌いなんだ」

「は……?」

「それを言ったら、僕だって同じだろ。兄さんが言った言葉そっくりそのまま返すぞ?なんでそれをあげたと思ったんだ?」

「…………へ…?」

 重い沈黙がはしる。二人して「は?」「え?」という日本語として成立しない言葉しか喋れなくなった。

「あぁぁぁ!!もうじれったいなぁ!!!お前らもう付き合ったら!!付き合え!!」

「リリアナ!?」
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