私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第一章 始まって仲直り

十二話

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「うん、別の意味で死ぬ」

 あの後、あのメイド達に小汚いからと体全身をもっこもっこの泡で洗われ、綺麗な服まで用意してくれた。

 それ自体はいいのだが、なんだか本当にロボットみたいで怖い。

「圧よ!圧!!」

 何をしていても、じーっと見られるし、「出ていってくれません?」と、言ったがドアの前で待機される始末だし。

 一人になれたのは嬉しいが、あの人達は大丈夫だろうか。

 そして、一瞬考えてしまった。

「………ふ、私に脱走なんて造作もない!!」

 あくまでも少しだけだ。ちょっとした外出なら許してくれるだろう。

 それに、窓からなら逃げれる。幸いここは二階。怪我なんてしてもそこまで致命的ではないと思う。

 私はもうほぼ真っ暗になっている外を眺めながら、窓を限界まで開け、周囲を見渡した。視界が悪いし、少し肌寒いが、近くのものくらいなら見えた。

 そこには、何とか飛んだら行けるであろう大きな木があった。

 しかも、逃げる用かのように、太い木の枝が伸びている。飛び乗ったら、もしかしたらいけるかもしれない。

「うん、木がある。私に脱走をしろと?ありがとうございます」

 木にとりあえず感謝をする。そして、深呼吸をして息を整える。

 ジャンプをするので、落ちたら骨折をするかもしれない。ジャンプしなくてもするかもしれないが。

 木登りなら得意だし多分平気なはずだ。

「いっせーのーせ!!」

 目を閉じ、自分の少し控えた声と共に木の枝へと飛び移った。

「危機一髪……?」

 私が木の枝のおかげでぷらーんとぶら下がる。落ちずにいられたのだ。

 少しほっとしたのもつかぬま、木の枝がぼきっぼきっと不快な音をたててくるので、急いで他の頑丈な木の枝へと飛び移りながら、徐々に下へと降りていく。

 そして、何分かの決闘をしたあと、やっと自分の足が地面へとつく。

「よっしゃぁ!」

 思いのほか喜んでしまい、声を出してしまった。地面とはこんなにもいいものだっただろうか。

「誰だお前?」

 一人で喜んでいると、後ろに見たことのない人が立っていた。

 使用人、かと思ったが絶対これは違う。金持ちの服を着ている。

 しかも、妹みたいな宝石がじゃらじゃらついている服。顔は美形なのにもったいない。

「あぁ、お前あの出来損ない弟の婚約者か?は…っ…!可哀想だな」

「弟……?あぁ、クズの皇帝さん……あ、すみません。聞かなかったことに」

 思わず本音を言ってしまい、すぐに誤魔化した。けど、確かにテクディアに似ている気がする。
 悪い意味で。

「ん?まぁいいだろう。この俺様を見てみろ!!全てが完全無欠!まさに神!」

 あれ、待て。こんな痛いやつ見たことがあるぞ

 痛々しいやつ、それは結構見たことがあった。というか、うざいやつ。聞こえてくれなかったのは嬉しいが、見覚えのある言い方だ。

「どうだ!こんな俺様をかっこいいと思うだろ!!可哀想だな、あんな出来損ないの婚約者と結婚するなんて!」

 元婚約者と妹に激似ですやん。影武者かよ

 もはや、影武者としかいいようがない。自信満々に言っていて、自分が神だと思ってるやつなんて、あいつらしかいない。

 それに大声で言ってくるしやめてほしいのもある、けどそれ以上にテクディアの悪口が言われていることに、なぜかいらついた。

「俺様と暮らしたら良い暮らしが手に入るぞ?どうだ、あんなクズと暮らすなんて馬鹿馬鹿しいだろ?どうせ、無理矢理されたんだろ?望んでないんだろ?この俺様を見ろ!あの馬鹿を捨てろ」

 そして、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。

「………まれ」

「何だ、俺が神だと言うことに嫉妬したか?」

「黙れって言ってるんでしょうが!てか、神舐めんな!!」

 周りなど気にせずに大声でそう怒鳴った。
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