私の婚約者をとった妹は婚約者に絶望する

さくらもち

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第一章 始まって仲直り

十話

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「あの……」

 がたごとと少しだけ揺れる馬車の中、恐る恐る声をかけてみた。
 ずっと向かい合って沈黙なんてすごく気まずいことだ。

「どうしたんだ?」

「いきなり婚約を申し込むなんて頭いかれました?」

「あぁ、とっくのとうにな」

 冗談通じない

 別に本気でいったわけではないのだが、この人は冗談が通じないのか。

「サキラを助けてもらった礼でもある」

「サキラ……?あ、あの、使用人?」

「そうだが?」

「マジか……」

 こんな事なら助けなければ良かった。あの使用人が主人に言うというのは冗談かと思ったが、冗談じゃなかったようだ。
 ありがた迷惑というのはまさにこの事。

「頑張ろ……」

「別に不自由させるつもりはない」

「いやだって、テクディアさ……テクディアは皇帝だよね!?それが、問題的なんだよ!」

「は……?僕は皇帝の弟、兄の弟だが?」

 私の発言に驚いたような表情をした。

「えっと……書類少し見ちゃって。表向きの皇帝ってあんな書き方しないと思った。こんな書き方するのはテクディアだなって」

「書き、方……?」

 使用人達の書類を少しだけ見てしまった時、あの書き方は表向きの皇帝には書けない。
 昔から観察力だけは鋭いため、こういうのには違和感を覚えてしまう。
 人の性格や癖などは文章を書くときも、変わらない。

「刺々しいけど、どこか後ろめていてそれでも優しい、書き方?表向きの皇帝ってなんだか中身がないような気がしてたから……って、私頭イカれたかもしれね……」

 いつもあの皇帝を見て思ってしまうこと。
「無知」
 あの人は何にもわからずに過ごして、きっと自由にしてるんだろうな、という感じが見え見えだった。

「………そうか」

「まぁ、知らんけど」

「ふ…っ……たまにその言葉遣いが素に戻る?のは何なのだ…っ……」

 一つ笑いをこぼした。
 常識はわきまえているつもりだが、やはり私の本心、言い方の癖などは変わらなかった。
 だから、たまに素に戻ることがある。

「良くない?」

「あぁ、構わない」

 まるで、それが良いかというような、なんとも言えない表情をしていた。
 笑っているが、それでも笑ってない。

「お前は笑わないな」

 そう小さな声でぽつりとテクディアはつぶやいていた。
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