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十二話

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「光………?」

 落ちていく中、数々の光が目にうつる。その中の一つの光だけが僕に集まってきた。
 とても温かい光で、ひと目見て幸の記憶だということがすぐわかった。

「温かい………」

 その記憶の近くにいるだけでも心も体もなぜか温まった。

 そして、ゆっくりと記憶に呑み込まれた。



「ここは……?」

 なんだか見たことがありそうなところで、懐かしさも感じてしまった。
 だからと言って、ここは僕が住んでいたところではないのに。

「誰の、何の、記憶なんだろ……」

 それを教えてくれないのか。

 辺りを見回していると、一人の男性へと目が行ってしまった。
 明らかに他の人とは違う。この人が記憶の持ち主なのだろうか。

「おいっ…!やめろってば…っ…」

 その人の周りには十数人の子供達が集まっていた。
 服を引っ張られたりして、やめろ、と言っているが笑顔で笑っていた。
きっと、この人は楽しいのだろう。
 よく見ると、そこは孤児院できっとそこの管理をしている人なのかもしれない。

「ねー、ゆうきせんせい!」

「おっ、どうしたんだ?」

「僕ね、うまく作れたの!」

「へー!すごいじゃないか!!」

 僕と少し似ている男の子が、不格好な折り紙の鶴を持って、祐希先生にみせていた。
 祐希先生は感心したように、男の子の頭を撫でている。

「テン、お前はすごいな」

「えへへ~」

「テン………?」

 この人もまた僕の名前を知っている。同姓同名?そんな訳ない。
 だって、その子は僕と見た目だってさほど変わりはなかった。

「僕、なの……?」

 この記憶は一体何なのだろうか。

「あとねー!友達ができたんだよ!!ツバサって言うんだけどね」

「おぉ、そうか、そうか!」

「友達になった覚えはないし、勝手に呼び捨てにしないで」

 テンが手を繋いでいるのはまさしくツバサだった。片手にはボールを持っていて、ちゃんと足もある。

 本当にツバサだ。少しだけ幼くなったくらいで、喋り方も何もかもツバサだった。

「ゆうきせんせい~!せまえもんまた描いてー!!」

「それより、ボールで遊びたい」

「えー、せまえもん描いてよ~!」

「ボール」

「せまえもん!」

 祐希先生は喧嘩している二人を止めようとするのに、必死だった。
 喧嘩している内に、ツバサが持っていたボールが手から滑り落ちた。
 ころころと転がり、孤児院を抜け横断歩道まで行ってしまった。

「ボールが……」

「こらこら、いい加減にしろ。ボールとってきてやるから」

 そういう言うと、祐希先生は信号が緑になったのを確認すると、横断歩道を渡り、ボールを取ろうとした。

キキーンッ

 ボールを手にとった途端、激しいクラック音にみまわれた。

 辺りは真っ赤な彼岸花の様な血で染まっていた。テンとツバサは呆然としていて、けど、祐希先生はぴくりとも動かない。

「なに…これ……」

 僕は状況が把握できないばかりに、一歩後退った。状況は変わりもしないのに、わかってることなのに。

『助けてやってほしいんだ』

 ふと、後ろから声が聞こえたので振り向くとその祐希先生がいた。
 けど、少しだけ半透明だ。

「何を……なんなの…?この記憶は…っ…!」

 喘ぐように、泣きそうな声でそう言うと、祐希先生は僕の頭にぽんっと手をのせた。

『大きくなったな、テン』

 その声を聞かせないでくれ。

「へ……?ぼ、僕は、お母さんを待ってただけで…!」

『気づかないのか?いや、いい。きっと、その先に行けばわかることだろう』

「その先……?」

 祐希先生が指を指した場所には色がごちゃごちゃになっている記憶を見つけた。
 あのツバサが持っていた日記と同じような色だ。

『俺はな、あそこで死んでしまった。それ自体はいいんだ……けど、そのせいでお前もあいつも、まだ俺を待ってる』

「だから、何を言って……!」

『テン、お前は俺を忘れてくれてありがとう。けど、存在意義まで忘れちゃ駄目だ。ツバサを、俺を消してくれ。死なせてくれ』

「……なんで、」

『俺を消してくれたら、あいつは孤独から救われるんだ。ツバサを頼んだぞ』

 そんなこと言われたって、そんな事頼まれたって、僕に何ができる。全く理解ができない。
 なら、この人はーー

「……なんで、逃げるんだよ」

『…逃げる、そうだな……俺は、逃げるんだよ。あいつをお前をおいていったのは俺だ』

「………」

 何も言い返せなかった。何がなんだかわからない、というのもあるが、それ以前に今の祐希先生の顔を見てると、息が苦しいのだ。

『この記憶を見るか、見ないか、それはお前の勝手だ。見たら、お前はきっと俺の事も思い出す。だが、約束してくれ……覚えてても忘れてほしいんだ』

「……わかった。忘れる、忘れるよ」

 納得した訳じゃない。
 ただ、忘れてはいけないと思ったからだ。忘れてはいけないから、忘れるのだ。

『あぁ、元気でな』

 そして、僕はまた記憶に触れた。
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