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十話

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「……ん…っ…………?」

 目を覚ますと、そこには見慣れない天井が目に写った。
 けど、ここは記憶のセカイではない。だからと言って、カケラのセカイでもなかった。

「起きたか?」

 横を見ると、ツバサの姿が目に写った。
 分厚い本を持っており、僕が目を覚ましたのに気づくと、ばんっと勢いよく本を閉じる。

「ここ、は………」

「まぁ、なんだ。僕の部屋みたいなものだ。ここでは、好きなものが好きなだけ手に入る。とは、言ってもここでは空腹がないから、食べ物なんていらないしな。あんまり使わなかったんだが…………」

 そこまで聞いて、ふと、自分が寝ているところがすごくふかふかな事に気がついた。

 起き上がり、自分の周辺を見回すと、ここが天秤付きベッドだと言うことがわかった。普通に結構高そうなやつだ。

 そういえば、こんなに気持ちよく寝れたのは何年ぶりだろうか。
 いつも寒い中地面で寝て、夜起きる事も何度も何度もあった。

 お父さんがいるときなんて、ベランダに放り投げられたり、殴られたり。

 一日中寝れないこともあった。

「もう少し寝てろ。僕は眠れないが、お前はまだ寝れる。まだ、記憶を忘れるほどの時間は経ってないと思うから大丈夫だろう」

「眠れない……?」

「ん?あぁ、言ってなかったな。僕はあまり寝れなくてな、数年間くらいは寝てない」

   眠れない

 その辛さを僕は知っている。寝たくても眠れなくて、けど、他の人は全員寝ている。

 このセカイに僕だけがたった一人になった様な気分になって、悲しくなる。
 朝に聞いた時の騒がしい声も、車の音も。
 全部、全部、消えてしまって、辛くなるその辛さは僕だって知っていた。

「それじゃあ……っ……」

 本を持っているツバサの腕を掴み、ベッドの中へと引きずり込んだ。
 ツバサは驚きのあまり声もだせないようだった。

「一緒に寝よう」

「は?だ…っ…だから!寝れないと…!!」

「目を閉じたらいつの間にか眠ってる……はず」

「いつの間にかって……お前なぁ」

 はぁと深いため息をついた。
 ツバサがベッドに入ってるせいか、とても落ち着く。

「そういえばさ、ツバサってこのセカイの管理人なんだよね。どうやって、管理人になったの?」

「……記憶のセカイの管理人になる条件は、人間じゃなくなったモノだ。僕はもう人間じゃない、その人間じゃないモノから管理人は選ばれる」

「へー、それじゃあ管理人はいつ変わるの?」

「一生変わらないが………って!人間じゃないのはスルーなのかよ!!」

 ツバサが思い切ってツッコんだ。だって、ツバサが人間じゃないのは薄々わかっていたことだし、怖くなんてなかった。

「まぁね、ツバサが人間じゃないのは薄々わかってたし………って、あれ?」

「……………」

 なぜかいきなり無言になってしまったので、ツバサを見ると、目を閉じて気持ち良さそうに寝ていた。
 よくこの状況で寝れるな、とは思う。

「寝れて良かった………」

 そう僕は安心した様に呟いた。
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