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六話

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「………?…こ、ここは…?」

 瞬きした、たった数秒間だけで、もう場所はあのセカイではなかった。

 今度は、廃墟のセカイといったほうがいいだろうか。道路など、そこらじゅうに寝転がっている子供たちがいた。

 誰も、服がぼろぼろで腕が木の枝みたいに細く痩せ落ちている。
 そして、所々になぜかセカイにヒビが入っていた。

「このセカイは記憶の中、どうやら記憶の持ち主は、廃墟に住んでいたらしいな。廃墟、しかもこんな所となると不の記憶に近いのかもしれん」

 自分の前には、やはりツバサがいた。どうやら、背景みたいなのが変わっただけで、自分達はそのままらしい。

 ツバサを見てはっとし先程まで、掴んでいた裾を離した。

「そっか、いらない記憶でも持ち主はいたんだもんね」

「そうだ。だが、いらない記憶は大体死者のモノが多い。まぁ、持ち主がわからないから断定はできないが………」

「持ち主、ね……いらない記憶って本当にいらないのかな…」

「は?」

 僕はいつの間にかそう呟いていた。だって、いらない記憶なんて本当にこの世に存在するのだろうか。

 夢だって、自分の娯楽の大切な記憶、として分類されないのだろうか。

「だって、例えば死者のいらない記憶がここに、記憶のセカイに送られたとするよ?でも、それは死者だろうが持ち主にとっては、大切なーーー」

「やめろ…っ…!!」

 ツバサが喘ぐように叫んでそう言った。僕は目を見開きながら、ツバサの顔を伺うがツバサの表情は唇を噛み締めていて今にも泣きそうだ。

「ツバサ………」

「あ…っ…、あぁすまない。それより、早く済ませてしまおう」

 ツバサはすぐに話を切り替え、何か言いたかったがなんと声をかけていいかわからなかった。

 だから、僕はそれ以上聞かないことにした。

「でも、このセカイに来て何をやるつもりだったの?」

「お前に記憶の耐性があるか、と、どうせだから少し体験してもらおうと思ってな」

「記憶の耐性……?」

「言ったろ?記憶に巻き込まれるって、それはな人それぞれで記憶に巻き込まれにくい人もいるんだ。だから、お前に記憶の耐性があるか調べようと思ったんだが……………平気そうだな」

 そう言われて苦笑いをした。僕は、どうして記憶の耐性というものがあるのだろうか。

 だって、このセカイは聞いたこともいたこともなかった。

「でも、耐性があると言ってもいつまでなら平気なの?」

「満月の日まで、だな。あれを見てみろ」

ツバサが空を指したので、言われたとおりに空を見上げた。

 そこには昼というのに輝いている月が二つあり、一つは普通の綺麗な黄金の月だ。
 そして、もう一つは闇に包まれてしまった真っ黒な月だった。

「あの二つの月は同時に満月へとなる。そして、満月になるとあの二つの月は重なり合い、もう帰れなくなってしまう。いや、正確には普通の月が黒の月に呑み込まれてしまうのだな」

「ということは、あの黄色の月が僕達のセカイを表してるってこと?」

「ご命令だ。だから、普通の月が真っ黒な月に呑み込まれてしまうと、自分達のセカイは消え去ってしまうぞ」

「何その決まり………」

 言われても覚えられる気がしなかった。満月というのは、月。

 月と太陽は真逆の星、この二つの月はそれも意味を表しているのかもしれない。

 自分達がいるのは表のセカイで、こういう知られていないセカイ、誰も知らないセカイが裏のセカイみたいな感じなのだろうか。

「このセカイは記憶のセカイだからな。記憶の住人には違和感なんて感じないんだ」

「違和感………ツバサはさ、記憶を忘れたら違和感があるって言ったでしょ?なら、記憶を失くしてしまったら違和感があるのかな」

「記憶を失くしたら、自分じゃなくなる」

そう言って、僕に質問させないくらいどこかに行くのか早歩きした。

 質問しようとしている場合じゃなく、ツバサの早歩きはどんどん早くなっていったので、すぐさま追いかけた。

「少しだけ体験してもらうかーー」
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