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三話

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「白い、白い、白い~~!」

 先に進んでも進んでもずっとずうっーと白いセカイが広がっていた。
 まるで、果てしない砂漠を歩いているような気分だ。

『ワタシを……タス……ケテ』

小さな声で今にも死んでしまいそうな声で誰かが助けを求めていた。
 けど、その声は記憶のセカイに響くだけで僕には全くどこにいるのかがわからなかった。

「助けて……か。記憶のセカイ……僕にはわからないよ…」

 僕だって助けてほしい。あのツバサの事だってよくわかってないし、どうしてこのセカイに来たのかがわからなかった。

「お母さん帰ってくるよね……」

これは願望なのだろうか。叶わない夢なのだろうか。
 帰ってきてほしかった。笑って笑って普通に過ごしたいだけだ。

「帰ってくるよ。きっときっと……」

 その声はどんどん小さくなり、根拠のない事だった。
 あの日までは楽しかった。お母さんが僕を連れて家を出ていく時までは。

『タス……ケ…ロ』

「あぁ……っ!もう…っ!!うるさい…」

 その声はまた言い出して、何度も何度も何回も頭に響いた。
 この声はいつ鳴りやむのだろう。耳を塞いでもなぜか声が聞こえてきた。

「……?」

 いつの間にか、目の前には無数のブラックホールみたいな永遠の闇の穴ができていた。
そこから、声が聞こえた。それと同時に引き込まれそうになる。

 本当のブラックホールだからじゃない。その声に誘われるみたいだ。

「おい、惑わされるなと言っただろ?」

「ツバサ!??」

 一瞬目を閉じた瞬間、目の前にはツバサが立っていて、穴はなくなっていた。

「何…今の穴…?」

「お前に注意したはずだろ?記憶にーーは?ちょっと待て!見えたのか?聞こえたのか?穴と声が!!」

 今まで話していた中でも、特に大きな声で僕の肩を揺らした。
 あのツバサからこんな大きな声が出るなんてびっくりだ。

「助けてって言ってたけど……」

「あり、えない……カケラに惑わされても、一部の人間には声だけは聞こえることが知っていたが、穴すらも見える者がいたのか……」

「え?さっきの穴って……」

「あれこそが、記憶に惑わされる事だ。あの穴は記憶のカケラ、記憶にすらなれなかったカケラだ。記憶のカケラは楽、驚、悲、苦、にわかれている。簡単に言えば幸のカケラと不のカケラでわかれているんだ」

 指で四という数を表しながら話を進めた。ぶっちゃけあまりよくわかってはいないが、何となくはわかってきた。

「記憶、というものは特別でな。大体がカケラでなり損ないなんだ。カケラが集まって思い出や記憶になると言ったところだな」

「えっと、簡単に言うとあれはなんだったの?」

「運が悪いことに悲のカケラだな。悲と苦は不の種類に入る。幸のカケラならまだ良かっただろうが………」

 あはは、と苦笑いをした。どんだけ運がないんだ僕は。
 ということは、楽のカケラと驚のカケラはあまり害のないものだろう。

「とりあえず、記憶の穴とカケラの声が聞こえる者は惑わされやすいだろうから、僕も手伝おう」

「あ、ありがとう……?」
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