本物の聖女は国外追放

さくらもち

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一話

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「ふぅーっ、今日も仕事終わったぁぁ」

 背筋を伸ばし、息を吐く。聖女である私の仕事は山程で、怪我人の治療、浄化、などなど。
 寝る時間なんて少ししかない。けれども、私は好きだった。やり甲斐を感じていた。
 国から保護されて、やっと家族から解放され、優しい人々、感謝の言葉。

「婚約者は邪魔、だけどね…」

 はぁ…と深いため息をついた。

 聖女となった私は王子の婚約者となったのだが、あの王子が好きになれない。

「今日もお疲れ、自分」
       *   *
 そんな、幸せな日々をしていただけだった。
 悲劇は突然に、とある天気の良い朝の日。王子、婚約者から呼び出された。

 そこには、私の両親、妹、もちろん婚約者もいて、護衛が沢山。
 そして、妹は私を見て、こう言い放った。

「お姉様…っ!私が寝込んでいる時に、私が…聖女なのに……」

「は…?」

 思わず思考停止してしまった。
 妹は病弱で心優しい令嬢、というレッテルをはられているが本当は違う。
 普通に元気だし、私に対しては嫌がらせを超えていじめをしてくる。

「聖女は一人しかいないんだけども?」

 やっと出てきた言葉はそれだった。
 聖女は一人しかいない、国を守る大事な聖女。一人しかいないはずなのだ。

「……しらばっくれる気なの?お姉様は…優しいと思ってたのに…」

 顔を両手で覆い隠し、まるで本当に泣いてるような声を出してきた。
 私だからこそ、わかる。本当は泣いていない事を。

「もう!やめるんだ…っ!!クレア!お前が偽聖女なのはわかってる!!ここで自白したら、するだけでいいんだ……っ」

 精神科行ってこい

 ふと、その言葉が口から出そうになったが、ぐっと喉まできて抑えた。
 婚約者までもがそうやって言ってくるのは、流石にどうかと思う。

「なら、ルリ。適合成検査は?診断書、見せて、それで聖女かどうかわかるでしょ?」

 はぁ…と今までにないほどの深く、深海よりも深いため息を吐きながら、腕を組んだ。
 その返答に妹、ルリは迷ったのか嘘泣きしたまま反応がない。

 適合成検査というのは、簡単に言うと得意属性。聖女かどうか判断できる大切な事だ。
 十六歳になれば、それは強制的にやらされ、もしも聖女だったら国から保護される。

 私はそれをやり、今ここにいるが、妹は「具合が……」と言って休んでた気がした。
 二次検査的なものもあるが、それもご都合の具合悪い詐欺で休んでいた。

 必然的に沈黙が流れる中、婚約者フェルクが、私に近づき、乱暴に肩を掴んできた。

「………おい!自白しろ!!お前の妹は本当に聖女なんだ!ルリは優しいから、世間に自分が聖女だということを隠しているんだぞ!!」

「なら、口外すれば良いのでは?」

「な……、く…っ!お前みたいな心の汚い婚約者はいらん!!」

「……はいはい、どうぞご勝手に」

 手ではいはい、というジェスチャーをし、離れてくれというように一歩後退った。
 フェルクは離れてくれたが、顔を顰め、なんとなく怒っているのがわかる。

「あなた…!自分が何言ってるかわかってるのっ!!!!」

 それよりも怒っていたのは、先程の会話を聞いていた母だった。
 怒声を浴びせられる。

「私は、本当の事を言ったまでです。聖女は私です」

 胸を張って堂々と言える事。

「お姉様、最後まで罪を認めてくださらないのね……とんだゴミ姉だこと」

「此方としても苦しいが、偽聖女という罪すらも認めないなんて……っ、お前を国外追放する!!」


 やっぱり……こいつらは馬鹿だ…

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