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もうひとつの策略
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あっという間に月曜日になった。私は、どう考えても頭のおかしい課長に何と言ってあのような行動を止めさせようか、この週末ずっと考えていた。
そして昼休み、私は彼をビルのベランダまで呼び出した。
「はぁ...」
ちゃんと納得してくれるかな...
私はため息をつきながら、待ち合わせ場所に通じるドアを開けた。
「真琴さん...」
先に待っていたと思われる課長は、ドアが開く音が聞こえると同時にこちらに顔を向け、座っていた椅子から立ち上がり私の方に歩み寄った。
「今日はどうしたんだ?」
彼の声と表情はどことなく嬉々としていた。
よし、言うんだ。
私は自身の拳を握り締め、覚悟を決めた。
「課長、もしかして蠣崎くんに何かしましたか?」
「は?」
私は、真実を問いただすために鋭く真剣な目付きで彼を見つめた。
「蠣崎くんが変な手紙をもらったって言ってたんです。明らかに脅迫めいた。」
「...それと私に何の関係が?」
彼は、眉間に皺を寄せて私を見下ろした。
「だって...私、知ってるんです。課長が私の机で怪しいことしてたの。」
私はついに言った。あの日見たものを。
「っ!」
その瞬間、課長はその瞳を開き、何か思い当たる節があるかのような表情を浮かべた。
「課長、蠣崎くんにあんなことするのはフェアじゃないです。お願いですから卑怯な真似はやめてください。」
「...」
「次に蠣崎くんから何か聞いたら、本当に怒りますからね。」
課長は、私の説教の間ずっと黙っていた。なぜかは分からない。しかし反論をしなかったということは、彼はあれをやったに違いない。少なくとも、私はそう判断した。
「二度とこのようなことが起こらないことを願っています。」
「...」
結局、彼は最後の最後まで無言を貫き通した。
これで収まるといいけど...まぁ、課長も悪い人じゃないだろうし私から注意されたらきっと止めるよね。
このときの私は、それくらいのことしか考えていなかった。しかし物事は私が考えるよりもさらに複雑で、私の思考の限界を大幅に超えていたのだった。
―――――――――――――――――――
「蠣崎くん、一応聞くけどあの手紙以外は変なことされてない?」
午後の休憩時間、私は蠣崎くんがが心配だったので彼にそんな質問を投げかけた。
「あっ、大丈夫です。」
「それなら良かった。また何かあったらすぐに言ってね。」
「え...でも良いんですか?」
「もちろん。だって心配だし。それに何か被害があったら危ないよ。」
「そう、ですか...//」
蠣崎くんは少し斜め下を向いて、その表情を隠した。
「あの、でも紺野さんは大丈夫ですか?」
「うん、私は別に何もないよ。」
「ストーカー被害とかは?」
「えーとね、んー、何て言うんだろ...」
本当のこと言う訳にもいかないしなぁ。
「僕、紺野さんの方がずっと心配です。確か電車通勤でしたよね?」
「うん。」
「それでしたら家まで送らせてください。」
「えっ?」
私は彼の申し出に一瞬戸惑ってしまった。
「お願いです。紺野さんに何かあったらと思うと気が気じゃないんです。」
蠣崎くんは小動物のようなキュルキュルした瞳をこちらに向け、そう懇願した。
「えーと、まぁ、その、ねぇ?家だってお互い遠いだろうし。」
「あのスーパーの近くだったら最寄りはきっと同じですよ。」
うっ、痛いとこ突かれた。やっぱりハッキリ断った方がいいのか。
「私は本当に大丈夫だから。」
「...もしかして、迷惑でしたか?」
「あっ、いやっ、そんなことはないけどさ...私といることで蠣崎くんにさらに危害が及ぶかもしれないじゃん?」
「僕は大丈夫です。これでも空手と柔道やってたんで。」
「お、おぉ...」
彼の意外な過去にびっくりしてしまい、私は少したじろいだ。
「でも本当にいいから。私のことは気にしないで。」
「...そう、ですか。」
私は結局、彼の善意を断った。なぜなら好きでもなく、友達ですらない異性とこれ以上一緒にいる機会を増やしたくなかったから。
「よし、じゃあ仕事始めよっか。」
「はい...」
これで、いいんだよね。
私は自分自身にそう言い聞かせて、作業に取り掛かった。
―――――――――――――――――――
今日は精神的に疲れたなぁ...
帰路についている間、私はこの日の出来事を思い出し、どことなく憂鬱な気分になっていた。
「はぁ~。」
私は肺に溜まっていた疲労を吐き出し、根拠のない不安に心を悩ませた。
カツ、カツ、カツ...
ふと、何か不審な足音が背後から聞こえてきた。
「ん?...はぁ?」
「ぁ...」
振り返ってみると、電柱の後ろに蠣崎くんと思われる人がこれ見よがしに隠れているではないか。
「何やってんの!?」
私はそう叫びながら彼に駆け寄った。
「えと...やっぱり紺野さんが心配で...」
蠣崎くんは俯いて、モジモジとしながら呟いた。
「...ごめんなさい。」
「いいけどさ...ビビっちゃうよこんなことされたら。」
「はい...」
彼は依然として私と目を合わせず、そして今にも消え入りそうな儚い声を出しながら小さく頷いた。
「それで、誰かヤバい人は見つけた?」
「いえ、まだ。」
「そう。それなら良かった。」
「でもまだ油断はできません。このまま一緒に行かせてください。」
「え、でも...」
「お願いです。」
蠣崎くんは私にすかさず被せた。そのキラキラとして、一点の曇りがない瞳を私のそれに向けながら。
...もう、こりゃ駄目だな。
私は蠣崎くんの諦めの悪さに一種の疲れを感じ、最終的には家まで送ってもらうことにしたのだった。
―――――――――――――――――――
そして翌朝、出勤しようとマンションを出た私は、予想外のことに出くわした。
「あ...紺野さん!//」
「は、はいぃ!?」
なんと、蠣崎くんがマンションの出入り口に立っていたのだ。
「どーしたの!?何やってんのこんなところで!」
「やっぱり紺野さんが心配で、朝と言えど一緒にいた方がいいかなって。」
マジかよ...
そこまでされるとさすがに言葉を失い、もう何を言っても彼には届かなさそうだと思った。
「はぁ...」
蠣崎くんが善意で一連の行動をやってくれているのは分かる。しかしこちらにも拒否権というものがあるのだ。私はそこにジレンマを感じ、思わずため息が出た。
まぁでも、事情を知らないならこんなことすんのも当たり前か。
「じゃあ、行きましょうか。」
「...そうだね。」
彼がどこか嬉しそうにしていた反面、私はそのあまりの気遣いに疲労が蓄積した。
蠣崎くん自体はいい人なんだけど、ちょっと過保護なんだよなぁ。
そして昼休み、私は彼をビルのベランダまで呼び出した。
「はぁ...」
ちゃんと納得してくれるかな...
私はため息をつきながら、待ち合わせ場所に通じるドアを開けた。
「真琴さん...」
先に待っていたと思われる課長は、ドアが開く音が聞こえると同時にこちらに顔を向け、座っていた椅子から立ち上がり私の方に歩み寄った。
「今日はどうしたんだ?」
彼の声と表情はどことなく嬉々としていた。
よし、言うんだ。
私は自身の拳を握り締め、覚悟を決めた。
「課長、もしかして蠣崎くんに何かしましたか?」
「は?」
私は、真実を問いただすために鋭く真剣な目付きで彼を見つめた。
「蠣崎くんが変な手紙をもらったって言ってたんです。明らかに脅迫めいた。」
「...それと私に何の関係が?」
彼は、眉間に皺を寄せて私を見下ろした。
「だって...私、知ってるんです。課長が私の机で怪しいことしてたの。」
私はついに言った。あの日見たものを。
「っ!」
その瞬間、課長はその瞳を開き、何か思い当たる節があるかのような表情を浮かべた。
「課長、蠣崎くんにあんなことするのはフェアじゃないです。お願いですから卑怯な真似はやめてください。」
「...」
「次に蠣崎くんから何か聞いたら、本当に怒りますからね。」
課長は、私の説教の間ずっと黙っていた。なぜかは分からない。しかし反論をしなかったということは、彼はあれをやったに違いない。少なくとも、私はそう判断した。
「二度とこのようなことが起こらないことを願っています。」
「...」
結局、彼は最後の最後まで無言を貫き通した。
これで収まるといいけど...まぁ、課長も悪い人じゃないだろうし私から注意されたらきっと止めるよね。
このときの私は、それくらいのことしか考えていなかった。しかし物事は私が考えるよりもさらに複雑で、私の思考の限界を大幅に超えていたのだった。
―――――――――――――――――――
「蠣崎くん、一応聞くけどあの手紙以外は変なことされてない?」
午後の休憩時間、私は蠣崎くんがが心配だったので彼にそんな質問を投げかけた。
「あっ、大丈夫です。」
「それなら良かった。また何かあったらすぐに言ってね。」
「え...でも良いんですか?」
「もちろん。だって心配だし。それに何か被害があったら危ないよ。」
「そう、ですか...//」
蠣崎くんは少し斜め下を向いて、その表情を隠した。
「あの、でも紺野さんは大丈夫ですか?」
「うん、私は別に何もないよ。」
「ストーカー被害とかは?」
「えーとね、んー、何て言うんだろ...」
本当のこと言う訳にもいかないしなぁ。
「僕、紺野さんの方がずっと心配です。確か電車通勤でしたよね?」
「うん。」
「それでしたら家まで送らせてください。」
「えっ?」
私は彼の申し出に一瞬戸惑ってしまった。
「お願いです。紺野さんに何かあったらと思うと気が気じゃないんです。」
蠣崎くんは小動物のようなキュルキュルした瞳をこちらに向け、そう懇願した。
「えーと、まぁ、その、ねぇ?家だってお互い遠いだろうし。」
「あのスーパーの近くだったら最寄りはきっと同じですよ。」
うっ、痛いとこ突かれた。やっぱりハッキリ断った方がいいのか。
「私は本当に大丈夫だから。」
「...もしかして、迷惑でしたか?」
「あっ、いやっ、そんなことはないけどさ...私といることで蠣崎くんにさらに危害が及ぶかもしれないじゃん?」
「僕は大丈夫です。これでも空手と柔道やってたんで。」
「お、おぉ...」
彼の意外な過去にびっくりしてしまい、私は少したじろいだ。
「でも本当にいいから。私のことは気にしないで。」
「...そう、ですか。」
私は結局、彼の善意を断った。なぜなら好きでもなく、友達ですらない異性とこれ以上一緒にいる機会を増やしたくなかったから。
「よし、じゃあ仕事始めよっか。」
「はい...」
これで、いいんだよね。
私は自分自身にそう言い聞かせて、作業に取り掛かった。
―――――――――――――――――――
今日は精神的に疲れたなぁ...
帰路についている間、私はこの日の出来事を思い出し、どことなく憂鬱な気分になっていた。
「はぁ~。」
私は肺に溜まっていた疲労を吐き出し、根拠のない不安に心を悩ませた。
カツ、カツ、カツ...
ふと、何か不審な足音が背後から聞こえてきた。
「ん?...はぁ?」
「ぁ...」
振り返ってみると、電柱の後ろに蠣崎くんと思われる人がこれ見よがしに隠れているではないか。
「何やってんの!?」
私はそう叫びながら彼に駆け寄った。
「えと...やっぱり紺野さんが心配で...」
蠣崎くんは俯いて、モジモジとしながら呟いた。
「...ごめんなさい。」
「いいけどさ...ビビっちゃうよこんなことされたら。」
「はい...」
彼は依然として私と目を合わせず、そして今にも消え入りそうな儚い声を出しながら小さく頷いた。
「それで、誰かヤバい人は見つけた?」
「いえ、まだ。」
「そう。それなら良かった。」
「でもまだ油断はできません。このまま一緒に行かせてください。」
「え、でも...」
「お願いです。」
蠣崎くんは私にすかさず被せた。そのキラキラとして、一点の曇りがない瞳を私のそれに向けながら。
...もう、こりゃ駄目だな。
私は蠣崎くんの諦めの悪さに一種の疲れを感じ、最終的には家まで送ってもらうことにしたのだった。
―――――――――――――――――――
そして翌朝、出勤しようとマンションを出た私は、予想外のことに出くわした。
「あ...紺野さん!//」
「は、はいぃ!?」
なんと、蠣崎くんがマンションの出入り口に立っていたのだ。
「どーしたの!?何やってんのこんなところで!」
「やっぱり紺野さんが心配で、朝と言えど一緒にいた方がいいかなって。」
マジかよ...
そこまでされるとさすがに言葉を失い、もう何を言っても彼には届かなさそうだと思った。
「はぁ...」
蠣崎くんが善意で一連の行動をやってくれているのは分かる。しかしこちらにも拒否権というものがあるのだ。私はそこにジレンマを感じ、思わずため息が出た。
まぁでも、事情を知らないならこんなことすんのも当たり前か。
「じゃあ、行きましょうか。」
「...そうだね。」
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