1941年12月8日

醍醐

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第一話

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1941年12月8日 
太平洋で、米国太平洋艦隊が壊滅した。
「…………なんだと?」
俺は呆然と呟いた。
「いや、待て」
それはおかしい。
ありえないことだ。
だが、現実に米国太平洋艦隊は壊滅したのだ。
ハワイからフィリピンへ回航中の戦艦7隻を含む艦艇20隻が、突如として出現した謎の艦隊によって撃沈されたという情報が入ってきた。
米軍は、その正体を日本の潜水艦だと断定しているようだった。
そして、この事態を受けて、米国政府は対日参戦を決定した。
しかし、日本も黙ってはいない。
「ドイツには勝てんぞ!」
開戦後1年半にして、すでにドイツはヨーロッパの大半を制圧していた。
このままでは、遠からず英国本土にも上陸するだろうと言われている。
そんな状況なのに、なぜアメリカは日本に宣戦布告をしたのか?
「くそっ! 俺がこんなところに閉じ込められている間に、世界情勢が激変しちまったのか!?」
どう考えても、そう考えるしかない。
『おい、落ち着けよ』
と、そこで声をかけられた。
見ると、目の前に1人の少年がいた。
俺と同じぐらいの歳に見える。
「誰だ?」
『僕かい?』彼はふふんと笑う。
『僕は君さ!』
「なにぃ?」
『君は、もうすぐ死ぬんだ』
「えっ?」
いきなり何を言い出すんだろうか、こいつは?
『でも安心していいよ。僕がいる限り、君は死なないからね』
「お前はいったいなんだよ?」
『だから言ったろう? 僕は君だよ』
「意味がわかんねえよ」
『わからないかなあ? まあいいや。ところで、ちょっと聞きたいんだけどさ』
「なんだい?」
『今の世界について知りたくないか?』
「そりゃあもちろん!」
『じゃあ教えてあげよう』
「頼むぜ」
『まず最初に言っておくけど、僕らは間違っていたんだ』
「ほう」
『人間なんて、愚かしい生き物だ。自分たち以外の生物を奴隷のように扱う。家畜みたいに殺す。支配しようとする。侵略する。そして滅ぼそうとする。そうやって進化してきたんだ』
「うんうん」
『だけど、それが間違いだって気がついた。人間は神にならなくちゃいけないんだ』
「………………」
『他の動物を支配するんじゃなくて、逆に利用するべきなんだ。例えば、犬を使って人を殺すとか』
「おいっ!」
俺は思わず突っ込んだ。
「それだと、ただのテロじゃないか!!」
『何を言っているんだ! これは革命なんだよ!!』
「どこが革命だ!!」
『とにかく、人間の世界は間違った方向に進もうとしているんだ。それを正すために、僕たちが生まれたんだ』
「…………」
『僕の使命は、世界を正しい方向に導くこと。そのために、僕は君の力を借りて、この世界に正義をもたらすつもりだ』
「どうやって?」
『簡単さ! 君が魔王になればいいんだ』
「なんで俺が魔王になる必要があるんだよ?」
『それは、僕が君の代わりに、世界の支配者になるためだ』
「えーっ!?」
『大丈夫だよ。心配しなくてもいい。僕は君の分身だからね。君が死んでも、僕が残ることになるからね』
「そういう問題じゃない! だいたい、お前みたいな奴が世界の支配者になったら、世界はめちゃくちゃになっちまうぞ!!」
『そんなことはないよ。むしろ、世界は平和になるはずだよ』
「どうしてそう言い切れる?」
『僕がそう決めたからだ!』「…………」
『とにかく、僕を信じてくれ! 君は必ず、魔王になれるからさ』
「断る」
『なぜ?』
「俺には俺の人生がある。勝手に決められても困るだけだ」
『本当に?』
「ああ」
『…………そうか。残念だなあ』
少年はため息をつく。
『仕方がない。君はここで死ぬ運命にあるようだ』
「勝手に決めるな!」
『でも、それが君の運命だ』
「…………」
『まあ、僕に任せておきたまえ。僕がきっとうまくやるよ』
そう言うと、少年の姿が消えていく。
同時に、俺の意識も薄れていった。
***
目が覚めると、そこは病院のベッドの上だった。
どうやら、俺は助かったらしい。
しかし、あれは何だったんだろうか? 夢にしてはリアルすぎる。
まさか、未来の記憶というわけでもあるまいし…………。
俺の脳裏に、あの少年の言葉が蘇ってくる。
――僕がきっとうまくやるよ。
その言葉を思い出すと、なぜか胸騒ぎがした。
とても嫌な予感がする。
そして、その予感はすぐに現実のものとなるのであった。
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