【本編完結】壁にはなれなかったけど、せっかくなので堪能させていただきます!

とがきみえ

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27.5②

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 神殿長の話を要約するとーー

 ここ最近の王都周辺の不穏な雰囲気はニコルのスキル【聖なる癒し】が大きく関係している。
 元々このスキルは、創造神テリュースが己の愛子が現世で困らないようにと与えられたものだとされていて、スキルを得た者の心根によって様々な現象が起こる。

 正しい心根、幸せな気持ちでいる分には特に問題はない。けれどスキル所持者本人が傲慢になったり、悪き心に染まってしまうと破滅ーー最悪、所持者本人の命を落とす。
 これは創造神テリュースからの戒めと考えられている。人間で言えば、悪いことをしたわが子を叱るようなものだ。といっても神様なだけに人間のそれとはスケールが段違いなわけだが。

 まあそんなわけで、今回。
 長年生きてきて初めて感じた不穏な空気に、これは何かあるのではと踏んだ神殿長が副神殿長とともに神殿の書庫をひっくり返す勢いで調べたところ、今回の現象はニコルのスキルによる影響の可能性が高いのではという結果に至った。


「聞いたところによると、ご子息はずっと眠りについていて目を覚さないとか」
「ーーはい。治癒師に見てもらったのですが、健康上は特に問題はないようなのです。側から見ても息子はただ眠っているだけで苦しげな様子はありません。私たちもどうすれば良いのかわからなくて、ただ息子が目を覚ますのを待つしかできないのです」

 ミシェルの目に涙が浮かぶ。

「ご子息にお会いすることは可能ですか?」

 副神殿長の問いかけに、クリスとミシェルが一も二もなく頷いた。






「ーーーーこれは」

 ニコルのベッドに近づいた神殿長が驚きに目を見開いた。
 その隣では同じく副神殿長も言葉を失っている。

「何かあったのでしょうか?」

 ミシェルを抱き寄せながらクリスが神殿長へ問いかける。

「ああ、失礼しました。驚くことに、ご子息の体は今、神気に包まれています」
「神気、ですか?」

 首を傾げるクリスに副神殿長が神妙に頷く。

「はい。神気とは神が纏う神聖なのことです。私や神殿長のように長年神に仕え、徳を積むことで神の力の一端を感じることができるようになります。神気が見えるのもそのひとつですーーですが、神気を身に纏うとは、ご子息はよほどテリュース神から愛されているようです」
「あの、そうだとして、息子は、ニコは大丈夫なのでしょうか?」
「今のところは問題はないと言えます。その証拠にひと月近く眠ったままなのに、ご子息に窶れた様子は見られないでしょう? ただ、このまま目覚めないでいると、テリュース神に神の世界へ連れ去られる恐れがあります」
「目覚めさせる方法はないのでしょうか?」
「そうですね……これは私と神殿長の予想なのですが、このような状態になる際、ご子息に強い衝撃というか言葉にできないほど絶望した出来事はなかったでしょうか? 恐らくテリュース神がこれ以上、悲しまないようご子息を眠りにつかせたのかもしれません」

 さらに副神殿長は、ここ最近の悪天候や蔓延する不穏な空気は、ご子息に同情したテリュース神の悲しみと怒りから来ている可能性があると告げた。

「まずは、ご子息が絶望を感じた出来事を解決することから始めましょう。テリュース神が大丈夫、問題ないと認めれば、ご子息を目覚めさせるかもしれません」

 クリスとミシェルが目を見合わせ頷き、神殿長は静かに目を閉じた。





※※※





 ここはどこだろう。

 が目を開けると、真っ白な空間にいた。
 上も下も、右も左もわからない。両足が地に着いている感覚がないので、自分が立っているのか座っているのか、それとも浮かんでいるのかもわからない。

 ええっと……確か、出張から帰ったら旦那が男と浮気してたんだよね。
 それからマッチョなおやじ受けもアリよね、って思ってたらトラックが……。

「そうだ! 私、でっかいトラックに轢かれたのよ! えっ!? やっぱり死んだ? もうダメよねって思ったけど、やっぱりダメだったかぁ。てことは、ここって白い空間!? 私、これから転生とかしちゃうの!?」
(ーーーーちょっと、落ち着きなよ)
「えっ!? 何? 頭の中で声がするんだけど、もしかして神様的な存在とか?」
(ああ、まあ、そんな感じかな? 僕が造った世界では創造神とか言われてるよ)
「マジか……私、やっぱり死んだんですよね? これからどうなるんですか?」
(うーん、そうだね。もう一度、生まれ変わらせることもできるけど、記憶も一緒にリセットしちゃうかな。記憶を残して転生させるのって、結構大変なんだよね)

 頭の中に響く神様?の声がどうしようかと思案に耽っている。
 が、それよりも櫻子は神様の言葉に引っ掛かりを覚えた。

「もう一度?」
(そうそう。君、一度転生してるんだよ。で、前世で死んじゃうきっかけになった出来事と転生先での出来事が絶妙にリンクしちゃって、ちょっと存在するのが危ない状態になったから僕が強制的に眠らせたんだ)
「はい?」
(ちょっと待って。今、記憶を送るから)

 神様がそう言うと、櫻子の頭の中にの記憶が流れ込んできた。

「あ……そうだ。はアンソニー様がピンク頭の人と一緒にいたのを見たんだった」

 銀髪で紫の瞳の少年の姿になったニコルは、悲しげな表情で俯いた。

(ーーで、どうする?)
「どうするって?」
(このまま戻る? それでもいいけど、僕、君のこと結構気に入ってるんだよね。だから、できれば君に悲しい思いをして欲しくないんだ。それにほら、一番最初の世界で君が夢中になってたBL? 君の記憶を覗いたら、思考の半分以上を占めてたあれ。あれが面白くてね。僕が司る世界のひとつに、似たのがあったからそこに君を転生させたんだよ。ちなみに以前、君と同じ趣味の人にその世界を夢に見せて反応をみたらいい感じだったしね。まあ、手違いで、その場に偶然居合わせた別の魂も連れてきちゃったんだけど)
「僕の他にも転生した人がいたの?」
(転生というか、憑依? 乗っ取り? すごく我が強くて、病気で弱っててもうすぐ死ぬ予定だった子の身体を乗っ取ったんだよ)
「うわあ、なんか凄いね」
(君も知ってる子だよ。あのピンクの頭の)
「ええっ!? 本当に!?」
(なんかね、ゲーム? BLの。それにハマってたらしくて、転生した僕はこの世界の主人公! とか頭のイタい子でね、前世に引き続き今度も好き勝手しようとするものだから、あの子にはちょっと罰をね)
「それって神罰? 怖いんだけど」
(たいしたことないよ。魅了に近い力があるけど、従いたくないと思った人には全然効かないし、それにあの子には一生仕掛けをしておいたんだ。いざ致しましょうってなった途端、へにゃってなる)

 面白そうに神様が告げる。

「……え?」
(突っ込もうとしたら自分のが、反対だと相手のが。どれだけギンギンになってても、へにゃってなって入れられなくなるんだ。ちなみに手で触ってもらっても口を使おうとしても一緒)
「どれだけ悪いことしたのか知らないけど、ちょっとそれはかわいそうじゃないかな」
(うーん……じゃあ、自分でスる分には、へにゃらないようにしておこうかな。これで絶対に浮気はできないよ?)

 そう意味深に神様が僕に言った。

(それで、どうする? 記憶は消えちゃうけどやり直す? それとも戻る?)

 神様の言葉に僕は。

「うん。決めた。僕はーー」
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