38 / 46
27.5②
しおりを挟む
神殿長の話を要約するとーー
ここ最近の王都周辺の不穏な雰囲気はニコルのスキル【聖なる癒し】が大きく関係している。
元々このスキルは、創造神テリュースが己の愛子が現世で困らないようにと与えられたものだとされていて、スキルを得た者の心根によって様々な現象が起こる。
正しい心根、幸せな気持ちでいる分には特に問題はない。けれどスキル所持者本人が傲慢になったり、悪き心に染まってしまうと破滅ーー最悪、所持者本人の命を落とす。
これは創造神テリュースからの戒めと考えられている。人間で言えば、悪いことをしたわが子を叱るようなものだ。といっても神様なだけに人間のそれとはスケールが段違いなわけだが。
まあそんなわけで、今回。
長年生きてきて初めて感じた不穏な空気に、これは何かあるのではと踏んだ神殿長が副神殿長とともに神殿の書庫をひっくり返す勢いで調べたところ、今回の現象はニコルのスキルによる影響の可能性が高いのではという結果に至った。
「聞いたところによると、ご子息はずっと眠りについていて目を覚さないとか」
「ーーはい。治癒師に見てもらったのですが、健康上は特に問題はないようなのです。側から見ても息子はただ眠っているだけで苦しげな様子はありません。私たちもどうすれば良いのかわからなくて、ただ息子が目を覚ますのを待つしかできないのです」
ミシェルの目に涙が浮かぶ。
「ご子息にお会いすることは可能ですか?」
副神殿長の問いかけに、クリスとミシェルが一も二もなく頷いた。
「ーーーーこれは」
ニコルのベッドに近づいた神殿長が驚きに目を見開いた。
その隣では同じく副神殿長も言葉を失っている。
「何かあったのでしょうか?」
ミシェルを抱き寄せながらクリスが神殿長へ問いかける。
「ああ、失礼しました。驚くことに、ご子息の体は今、神気に包まれています」
「神気、ですか?」
首を傾げるクリスに副神殿長が神妙に頷く。
「はい。神気とは神が纏う神聖な気のことです。私や神殿長のように長年神に仕え、徳を積むことで神の力の一端を感じることができるようになります。神気が見えるのもそのひとつですーーですが、神気を身に纏うとは、ご子息はよほどテリュース神から愛されているようです」
「あの、そうだとして、息子は、ニコは大丈夫なのでしょうか?」
「今のところは問題はないと言えます。その証拠にひと月近く眠ったままなのに、ご子息に窶れた様子は見られないでしょう? ただ、このまま目覚めないでいると、テリュース神に神の世界へ連れ去られる恐れがあります」
「目覚めさせる方法はないのでしょうか?」
「そうですね……これは私と神殿長の予想なのですが、このような状態になる際、ご子息に強い衝撃というか言葉にできないほど絶望した出来事はなかったでしょうか? 恐らくテリュース神がこれ以上、悲しまないようご子息を眠りにつかせたのかもしれません」
さらに副神殿長は、ここ最近の悪天候や蔓延する不穏な空気は、ご子息に同情したテリュース神の悲しみと怒りから来ている可能性があると告げた。
「まずは、ご子息が絶望を感じた出来事を解決することから始めましょう。テリュース神が大丈夫、問題ないと認めれば、ご子息を目覚めさせるかもしれません」
クリスとミシェルが目を見合わせ頷き、神殿長は静かに目を閉じた。
※※※
ここはどこだろう。
櫻子が目を開けると、真っ白な空間にいた。
上も下も、右も左もわからない。両足が地に着いている感覚がないので、自分が立っているのか座っているのか、それとも浮かんでいるのかもわからない。
ええっと……確か、出張から帰ったら旦那が男と浮気してたんだよね。
それからマッチョなおやじ受けもアリよね、って思ってたらトラックが……。
「そうだ! 私、でっかいトラックに轢かれたのよ! えっ!? やっぱり死んだ? もうダメよねって思ったけど、やっぱりダメだったかぁ。てことは、ここってあの白い空間!? 私、これから転生とかしちゃうの!?」
(ーーーーちょっと、落ち着きなよ)
「えっ!? 何? 頭の中で声がするんだけど、もしかして神様的な存在とか?」
(ああ、まあ、そんな感じかな? 僕が造った世界では創造神とか言われてるよ)
「マジか……私、やっぱり死んだんですよね? これからどうなるんですか?」
(うーん、そうだね。もう一度、生まれ変わらせることもできるけど、今度は記憶も一緒にリセットしちゃうかな。記憶を残して転生させるのって、結構大変なんだよね)
頭の中に響く神様?の声がどうしようかと思案に耽っている。
が、それよりも櫻子は神様の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「もう一度?」
(そうそう。君、一度転生してるんだよ。で、前世で死んじゃうきっかけになった出来事と転生先でのとある出来事が絶妙にリンクしちゃって、ちょっと存在するのが危ない状態になったから僕が強制的に眠らせたんだ)
「はい?」
(ちょっと待って。今、記憶を送るから)
神様がそう言うと、櫻子の頭の中にニコルの記憶が流れ込んできた。
「あ……そうだ。僕はアンソニー様がピンク頭の人と一緒にいたのを見たんだった」
銀髪で紫の瞳の少年の姿になったニコルは、悲しげな表情で俯いた。
(ーーで、どうする?)
「どうするって?」
(このまま戻る? それでもいいけど、僕、君のこと結構気に入ってるんだよね。だから、できれば君に悲しい思いをして欲しくないんだ。それにほら、一番最初の世界で君が夢中になってたBL? 君の記憶を覗いたら、思考の半分以上を占めてたあれ。あれが面白くてね。僕が司る世界のひとつに、似たのがあったからそこに君を転生させたんだよ。ちなみに以前、君と同じ趣味の人にその世界を夢に見せて反応をみたらいい感じだったしね。まあ、手違いで、その場に偶然居合わせた別の魂も連れてきちゃったんだけど)
「僕の他にも転生した人がいたの?」
(転生というか、憑依? 乗っ取り? すごく我が強くて、病気で弱っててもうすぐ死ぬ予定だった子の身体を乗っ取ったんだよ)
「うわあ、なんか凄いね」
(君も知ってる子だよ。あのピンクの頭の)
「ええっ!? 本当に!?」
(なんかね、ゲーム? BLの。それにハマってたらしくて、転生した僕はこの世界の主人公! とか頭のイタい子でね、前世に引き続き今度も好き勝手しようとするものだから、あの子にはちょっと罰をね)
「それって神罰? 怖いんだけど」
(たいしたことないよ。魅了に近い力があるけど、従いたくないと思った人には全然効かないし、それにあの子には一生デキない仕掛けをしておいたんだ。いざ致しましょうってなった途端、へにゃってなる)
面白そうに神様が告げる。
「……え?」
(突っ込もうとしたら自分のが、反対だと相手のが。どれだけギンギンになってても、へにゃってなって入れられなくなるんだ。ちなみに手で触ってもらっても口を使おうとしても一緒)
「どれだけ悪いことしたのか知らないけど、ちょっとそれはかわいそうじゃないかな」
(うーん……じゃあ、自分でスる分には、へにゃらないようにしておこうかな。これで絶対に浮気はできないよ?)
そう意味深に神様が僕に言った。
(それで、どうする? 記憶は消えちゃうけどやり直す? それとも戻る?)
神様の言葉に僕は。
「うん。決めた。僕はーー」
ここ最近の王都周辺の不穏な雰囲気はニコルのスキル【聖なる癒し】が大きく関係している。
元々このスキルは、創造神テリュースが己の愛子が現世で困らないようにと与えられたものだとされていて、スキルを得た者の心根によって様々な現象が起こる。
正しい心根、幸せな気持ちでいる分には特に問題はない。けれどスキル所持者本人が傲慢になったり、悪き心に染まってしまうと破滅ーー最悪、所持者本人の命を落とす。
これは創造神テリュースからの戒めと考えられている。人間で言えば、悪いことをしたわが子を叱るようなものだ。といっても神様なだけに人間のそれとはスケールが段違いなわけだが。
まあそんなわけで、今回。
長年生きてきて初めて感じた不穏な空気に、これは何かあるのではと踏んだ神殿長が副神殿長とともに神殿の書庫をひっくり返す勢いで調べたところ、今回の現象はニコルのスキルによる影響の可能性が高いのではという結果に至った。
「聞いたところによると、ご子息はずっと眠りについていて目を覚さないとか」
「ーーはい。治癒師に見てもらったのですが、健康上は特に問題はないようなのです。側から見ても息子はただ眠っているだけで苦しげな様子はありません。私たちもどうすれば良いのかわからなくて、ただ息子が目を覚ますのを待つしかできないのです」
ミシェルの目に涙が浮かぶ。
「ご子息にお会いすることは可能ですか?」
副神殿長の問いかけに、クリスとミシェルが一も二もなく頷いた。
「ーーーーこれは」
ニコルのベッドに近づいた神殿長が驚きに目を見開いた。
その隣では同じく副神殿長も言葉を失っている。
「何かあったのでしょうか?」
ミシェルを抱き寄せながらクリスが神殿長へ問いかける。
「ああ、失礼しました。驚くことに、ご子息の体は今、神気に包まれています」
「神気、ですか?」
首を傾げるクリスに副神殿長が神妙に頷く。
「はい。神気とは神が纏う神聖な気のことです。私や神殿長のように長年神に仕え、徳を積むことで神の力の一端を感じることができるようになります。神気が見えるのもそのひとつですーーですが、神気を身に纏うとは、ご子息はよほどテリュース神から愛されているようです」
「あの、そうだとして、息子は、ニコは大丈夫なのでしょうか?」
「今のところは問題はないと言えます。その証拠にひと月近く眠ったままなのに、ご子息に窶れた様子は見られないでしょう? ただ、このまま目覚めないでいると、テリュース神に神の世界へ連れ去られる恐れがあります」
「目覚めさせる方法はないのでしょうか?」
「そうですね……これは私と神殿長の予想なのですが、このような状態になる際、ご子息に強い衝撃というか言葉にできないほど絶望した出来事はなかったでしょうか? 恐らくテリュース神がこれ以上、悲しまないようご子息を眠りにつかせたのかもしれません」
さらに副神殿長は、ここ最近の悪天候や蔓延する不穏な空気は、ご子息に同情したテリュース神の悲しみと怒りから来ている可能性があると告げた。
「まずは、ご子息が絶望を感じた出来事を解決することから始めましょう。テリュース神が大丈夫、問題ないと認めれば、ご子息を目覚めさせるかもしれません」
クリスとミシェルが目を見合わせ頷き、神殿長は静かに目を閉じた。
※※※
ここはどこだろう。
櫻子が目を開けると、真っ白な空間にいた。
上も下も、右も左もわからない。両足が地に着いている感覚がないので、自分が立っているのか座っているのか、それとも浮かんでいるのかもわからない。
ええっと……確か、出張から帰ったら旦那が男と浮気してたんだよね。
それからマッチョなおやじ受けもアリよね、って思ってたらトラックが……。
「そうだ! 私、でっかいトラックに轢かれたのよ! えっ!? やっぱり死んだ? もうダメよねって思ったけど、やっぱりダメだったかぁ。てことは、ここってあの白い空間!? 私、これから転生とかしちゃうの!?」
(ーーーーちょっと、落ち着きなよ)
「えっ!? 何? 頭の中で声がするんだけど、もしかして神様的な存在とか?」
(ああ、まあ、そんな感じかな? 僕が造った世界では創造神とか言われてるよ)
「マジか……私、やっぱり死んだんですよね? これからどうなるんですか?」
(うーん、そうだね。もう一度、生まれ変わらせることもできるけど、今度は記憶も一緒にリセットしちゃうかな。記憶を残して転生させるのって、結構大変なんだよね)
頭の中に響く神様?の声がどうしようかと思案に耽っている。
が、それよりも櫻子は神様の言葉に引っ掛かりを覚えた。
「もう一度?」
(そうそう。君、一度転生してるんだよ。で、前世で死んじゃうきっかけになった出来事と転生先でのとある出来事が絶妙にリンクしちゃって、ちょっと存在するのが危ない状態になったから僕が強制的に眠らせたんだ)
「はい?」
(ちょっと待って。今、記憶を送るから)
神様がそう言うと、櫻子の頭の中にニコルの記憶が流れ込んできた。
「あ……そうだ。僕はアンソニー様がピンク頭の人と一緒にいたのを見たんだった」
銀髪で紫の瞳の少年の姿になったニコルは、悲しげな表情で俯いた。
(ーーで、どうする?)
「どうするって?」
(このまま戻る? それでもいいけど、僕、君のこと結構気に入ってるんだよね。だから、できれば君に悲しい思いをして欲しくないんだ。それにほら、一番最初の世界で君が夢中になってたBL? 君の記憶を覗いたら、思考の半分以上を占めてたあれ。あれが面白くてね。僕が司る世界のひとつに、似たのがあったからそこに君を転生させたんだよ。ちなみに以前、君と同じ趣味の人にその世界を夢に見せて反応をみたらいい感じだったしね。まあ、手違いで、その場に偶然居合わせた別の魂も連れてきちゃったんだけど)
「僕の他にも転生した人がいたの?」
(転生というか、憑依? 乗っ取り? すごく我が強くて、病気で弱っててもうすぐ死ぬ予定だった子の身体を乗っ取ったんだよ)
「うわあ、なんか凄いね」
(君も知ってる子だよ。あのピンクの頭の)
「ええっ!? 本当に!?」
(なんかね、ゲーム? BLの。それにハマってたらしくて、転生した僕はこの世界の主人公! とか頭のイタい子でね、前世に引き続き今度も好き勝手しようとするものだから、あの子にはちょっと罰をね)
「それって神罰? 怖いんだけど」
(たいしたことないよ。魅了に近い力があるけど、従いたくないと思った人には全然効かないし、それにあの子には一生デキない仕掛けをしておいたんだ。いざ致しましょうってなった途端、へにゃってなる)
面白そうに神様が告げる。
「……え?」
(突っ込もうとしたら自分のが、反対だと相手のが。どれだけギンギンになってても、へにゃってなって入れられなくなるんだ。ちなみに手で触ってもらっても口を使おうとしても一緒)
「どれだけ悪いことしたのか知らないけど、ちょっとそれはかわいそうじゃないかな」
(うーん……じゃあ、自分でスる分には、へにゃらないようにしておこうかな。これで絶対に浮気はできないよ?)
そう意味深に神様が僕に言った。
(それで、どうする? 記憶は消えちゃうけどやり直す? それとも戻る?)
神様の言葉に僕は。
「うん。決めた。僕はーー」
41
お気に入りに追加
1,880
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる