【本編完結】壁にはなれなかったけど、せっかくなので堪能させていただきます!

とがきみえ

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24.5①

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※ニコとピンク頭のマティスくんが書店で遭遇する少し前です。





 危惧していた事態が起こった。

 卒業を控えた三年生の婚約が破談になったのだーー立て続けに三件も。しかも三件の婚約破談について、全てにマティス・バークレーが関わっている。
 婚約破棄を言い渡されたのはマティス・バークレーの取り巻き連中で、婚約者がありながら彼にのぼせ上がり婚約者を放ったらかしにしてしまった。まあその程度なら、今後の態度を改めると反省して頭を下げればよかったのだけど、取り巻き三人のうち一人が校舎の影でマティス・バークレーと抱き合い口づけしてをしていたのだ。それを見かけたのが取り巻きの婚約者本人だったため、その場で婚約破棄となってしまった。
 しかも残りの二人もマティス・バークレーと似たようなことをしていたのが発覚し、それぞれ婚約破棄となってしまった。
 当事者らには申し訳ないが、ダメになった件の婚約が、政治的に関連のほぼない騎士爵家や男爵家、それに平民の商家だったことがまだ不幸中の幸いか。

「ーーふむ」
「どうかされましたか?」

 報告書を前に私が首を傾げると、側近のエドワード・トナーも同じように首を傾げた。
 エドは宰相の息子で私のひとつ年上、侯爵家の嫡男だ。頭の切れる男で、将来的には私の右腕となって動いてもらいたいと思っている。現在は主に私の学園生活のサポートをしている。

「先日の三件の婚約破棄についての報告書だよ」

 私がそう答えるとエドの表情が苦いものとなる。
 実はエドマティス・バークレーが入学してからというもの、彼にまとわりつかれている一人だ。もちろん相手になどしていないが。

「この男、なにを考えているんでしょうかね。狙ったように複数の高位貴族の子息へ擦り寄るだけでなく、その一方でこの報告書にあるような行為をしているとは常識を疑いますよ」

 少々潔癖なところのあるエドはマティス・バークレーのことを毛嫌いしている。元々の性格もあるが、貴族、特に爵位が上がるにつれて処女性が求められるため、誰かれ構わずというのはエドにとって信じられない行為なのだ。

「まあね。それより私はこの『破棄にかかる慰謝料をマティス・バークレーは支払っていない』という点が気になっているんだよね」
「どういうことでしょう?」
「あのね、本来ならマティスが支払う慰謝料を取り巻きたちが出しているんだ。それぞれ狙ったように金銭的に裕福な家だから、二人分の慰謝料を支払うのも可能なのかもしれないけど、不自然だと思わない?」
「確かにそうですね。取り巻きの息子本人たちならわからなくもないですが、実際に支払うのは彼らの家ーーよく自分の息子の婚約がダメになった原因の者の慰謝料を支払う気になりますね」
「エド、マティスのスキルってなにか知ってる?」
「確か【補正】でしたか……」

 この【補正】というスキル。前例がないもので詳細もよくわかっていない。一時はとても注目されたが【補正】というこれといった特徴のない名称から、たいしたことのないスキルだろうと早々に周囲の興味も薄れてしまったらしい。

 だけど、これがもし皆が思っていたのと違っていたら?

 常々、マティスは自分のことを物語の主人公だと公言している。
 周りは彼のことを空想癖のある少々頭の作りが残念な人間だと認識しているが、これが本当に彼が物語の主人公だったら?

「ーーーー主人公補正?」
「アンソニー様?」
「いや、なんでもない。ねえエド、もし周囲が自分の都合の良いようにされるとしたら怖いと思わない?」
「自分の都合の良いように補正ですかーーまさか」

 エドの顔色が変わる。

「そうなんだよね。彼のスキル、前例がなくて詳しいことが知られてないけど、これがもし自分の都合の良いように【補正】されるものだとしたら?」
「それは恐ろしいですね……なんでも自分の思う通りになるなんて」
「でもね、その割には私やエド、それにマティスにまとわりつかれている者の多くが彼のことを相手にしていないよね。人によっては毛嫌いしている者もいるし。私は彼のスキルが影響するのにはなにか条件のようなものがある気がするんだよね」
「なるほど。確かに強力なスキルには発動条件のあるものがあると聞きます」
「今回の慰謝料の支払いについても、多分、彼のスキルが働いていると思う。これは早目に対策を取っておかないと、また似たようなことが起こってしまうね。私は彼のスキルも含め、このことを母上に報告しておくよ」
「では私は父に。父から各貴族家へ注意喚起してもらいましょう」
「そうだねーーああ、バークレー男爵家の耳には入らないようにしておいて。マティス本人に警戒されたら動き辛くなるからね」
「承知いたしました」

 さて、さっそく母上に報告を上げなければ。私の予想だけれど、マティス・バークレーのスキル、周囲の者を自分の都合の良いようにをかけるものだとして、母上には通用しないが父上には効果があるような気がする。まずあり得ないだろうと思うけど、父上と彼を接触させないようにしないと。

 私とニコの未来に少しの憂いがあってもいけない。ニコに関係しそうな事柄については特にだ。

 ニコは今、なにをしているのだろうか。
 少しは私のことを考えてくれているだろうか。



 窓から晴れた空を見上げる私には、ニコが自宅の庭の片隅で今日も日課となった他人の逢瀬のをしているなど想像も出来なかった。
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