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窓の外から微かに聞こえる小鳥の声。
部屋のカーテンは隙間なくきっちりと閉じているけど、体内時計がもう朝だと告げている。
目が覚めるか覚めないかの微睡みの中、僕はふかふかの掛け布団に潜り込んだ。
もしかしたら、一日の中でもこの時間が一番幸せな瞬間かもしれないね。
ぬくぬくしながら僕はすぐ側にある体温に抱きついた。
ーーーーんー?
そういえば僕、抱き枕なんて持ってたっけ?
絡めた足をそろそろと外し、抱き枕からそっと離れ……られない、だと!?
離れるどころか抱き枕から生えた腕に抱き寄せられ、僕はぴたりと抱き枕にくっついてしまった。あ、いい匂い……じゃなくて!
「やあ、おはようニコ。良い朝だね」
やっとのことでできた抱き枕との僅かな隙間を利用して、錆びた金属のように『ギギギ……』と顔を上げると、とっても良い笑顔の抱き枕にぽかんと開けた口を塞がれた。
「……んんっ、んっ」
息継ぎの合間に何度も角度を変えて僕の口腔を蹂躙する抱き枕さま。ええ、ええ、もちろん舌も突っ込まれましたとも!ていうか、寝起きのお口は雑菌の宝庫なのに、朝から濃すぎませんか!?いや、寝起きでなければいいと言ってるんじゃないですよ!?
「目が覚めたかい? おや、またそんな可愛い顔をして。足りなかった? 仕方がなーー」
「あ、あ、アンソニーさま!? なにするんですか! というか、なぜここに貴方がいるんですか!?」
「なにって……可愛い私の婚約者へ目覚めの口づけをしたのだけど?」
「いやいやいや、そうじゃなくて、なぜ今、ここに、アンソニーさまが? 学園はどうされたんです? いや、それよりマーシー、マーシー!?」
僕がわたわたしながらマーシーを呼ぶと、ベッドのすぐ側から「おはようございます」と、穏やかなマーシーの声が聞こえた。
「今朝はきちんと起きられましたね。さあさあ、殿下をお待たせしてはいけません。お支度をいたしましょうね」
掛け布団を捲られ、呆けている間にベッドから追い出される僕。後ろを振り返ると既にミルがシーツを剥がしてベッドメイキングーーって、連携良すぎてびっくりだよ!そしてアンソニーさまは、なに当たり前の顔してお茶飲んでるんですか?
「ふふふ、相変わらず小鳥でも飼っていそうな髪型だね」
小鳥なんて飼ってませんし、これは髪型ではなくて寝癖です。
さて、ところ変わってここは応接室。アンソニーさまと僕の向かい側にはクリス父さまとミシェル母さまがいます。だからなんなの、この状況?
「では、改めて。おはようございます、義父上、義母上」
「おはようございます、アンソニー殿下」
「さっそくだけど話を進めていいかな? 僕も暇ではないのでね」
暇でないなら、とっとと学園にお戻りあそばしてくださいませ。
「ニコが、私以外の男に興味を持っているらしいと小耳に挟んだのだけど。しかもその男、私と同じ歳だというじゃない?」
「ーーは?」
僕が?男に興味?
確かに興味はあるけど『男』ではなく『男×男』ですが?そこんとこ大事なので間違えないように。
「いえ、アンソニー殿下。ニコが、ではなく相手がニコに興味を持っているようなのです」
ミシェル母さまの言葉ににこりと笑顔を見せるアンソニーさま。
「うん。私の方でもすぐに調べたのでわかっているよ」
「ではーー」
「だけど、大切な婚約者のことなのだから、私にもひと言欲しかったよね。水臭いじゃないか」
ああ、なんとなく読めました。多分、ピンク頭の人のことを言っているのでしょう。
「それは、」
「母上から口止めされたってところかな? そんなに心配しなくても、学業を疎かになどしないのになあ。第一、学園で学ぶ内容など既に全て頭に入っているのだけど」
仕方がないなあと、わざとらしいため息を吐くアンソニーさま。
手のひらを上に向けて肩を竦めるとか、欧米か!?いや、異世界か。
「まあいい。この件に関しては、私に預けてくれないかな。大丈夫、悪いようにはしないよ。その男、学園でも色々とやらかしていてね、最近ちょっと目に余るようになってきているんだ」
「殿下」
「さて、それじゃあ私は学園に戻るとしよう。ニコ、僅かな時間だったけど会えて嬉しかったよ」
そう言って僕の額にキスをすると、アンソニーさまは見送りは結構と言い残して学園に戻って行きました。なるほど、授業が始まる前に立ち寄ったんですね。だから早朝だったと。
ちっとも爽やかでない、嵐のような朝の出来事でした。
ていうか父さま、ちょっと屋敷のセキュリティを見直しましょうか?でないと僕は、おちおち二度寝もできないではないですか。
その後ーー。
しばらくアンソニーさまが僕の元を訪れることはありませんでした。
さ、寂しくなんてないんだからね!?
部屋のカーテンは隙間なくきっちりと閉じているけど、体内時計がもう朝だと告げている。
目が覚めるか覚めないかの微睡みの中、僕はふかふかの掛け布団に潜り込んだ。
もしかしたら、一日の中でもこの時間が一番幸せな瞬間かもしれないね。
ぬくぬくしながら僕はすぐ側にある体温に抱きついた。
ーーーーんー?
そういえば僕、抱き枕なんて持ってたっけ?
絡めた足をそろそろと外し、抱き枕からそっと離れ……られない、だと!?
離れるどころか抱き枕から生えた腕に抱き寄せられ、僕はぴたりと抱き枕にくっついてしまった。あ、いい匂い……じゃなくて!
「やあ、おはようニコ。良い朝だね」
やっとのことでできた抱き枕との僅かな隙間を利用して、錆びた金属のように『ギギギ……』と顔を上げると、とっても良い笑顔の抱き枕にぽかんと開けた口を塞がれた。
「……んんっ、んっ」
息継ぎの合間に何度も角度を変えて僕の口腔を蹂躙する抱き枕さま。ええ、ええ、もちろん舌も突っ込まれましたとも!ていうか、寝起きのお口は雑菌の宝庫なのに、朝から濃すぎませんか!?いや、寝起きでなければいいと言ってるんじゃないですよ!?
「目が覚めたかい? おや、またそんな可愛い顔をして。足りなかった? 仕方がなーー」
「あ、あ、アンソニーさま!? なにするんですか! というか、なぜここに貴方がいるんですか!?」
「なにって……可愛い私の婚約者へ目覚めの口づけをしたのだけど?」
「いやいやいや、そうじゃなくて、なぜ今、ここに、アンソニーさまが? 学園はどうされたんです? いや、それよりマーシー、マーシー!?」
僕がわたわたしながらマーシーを呼ぶと、ベッドのすぐ側から「おはようございます」と、穏やかなマーシーの声が聞こえた。
「今朝はきちんと起きられましたね。さあさあ、殿下をお待たせしてはいけません。お支度をいたしましょうね」
掛け布団を捲られ、呆けている間にベッドから追い出される僕。後ろを振り返ると既にミルがシーツを剥がしてベッドメイキングーーって、連携良すぎてびっくりだよ!そしてアンソニーさまは、なに当たり前の顔してお茶飲んでるんですか?
「ふふふ、相変わらず小鳥でも飼っていそうな髪型だね」
小鳥なんて飼ってませんし、これは髪型ではなくて寝癖です。
さて、ところ変わってここは応接室。アンソニーさまと僕の向かい側にはクリス父さまとミシェル母さまがいます。だからなんなの、この状況?
「では、改めて。おはようございます、義父上、義母上」
「おはようございます、アンソニー殿下」
「さっそくだけど話を進めていいかな? 僕も暇ではないのでね」
暇でないなら、とっとと学園にお戻りあそばしてくださいませ。
「ニコが、私以外の男に興味を持っているらしいと小耳に挟んだのだけど。しかもその男、私と同じ歳だというじゃない?」
「ーーは?」
僕が?男に興味?
確かに興味はあるけど『男』ではなく『男×男』ですが?そこんとこ大事なので間違えないように。
「いえ、アンソニー殿下。ニコが、ではなく相手がニコに興味を持っているようなのです」
ミシェル母さまの言葉ににこりと笑顔を見せるアンソニーさま。
「うん。私の方でもすぐに調べたのでわかっているよ」
「ではーー」
「だけど、大切な婚約者のことなのだから、私にもひと言欲しかったよね。水臭いじゃないか」
ああ、なんとなく読めました。多分、ピンク頭の人のことを言っているのでしょう。
「それは、」
「母上から口止めされたってところかな? そんなに心配しなくても、学業を疎かになどしないのになあ。第一、学園で学ぶ内容など既に全て頭に入っているのだけど」
仕方がないなあと、わざとらしいため息を吐くアンソニーさま。
手のひらを上に向けて肩を竦めるとか、欧米か!?いや、異世界か。
「まあいい。この件に関しては、私に預けてくれないかな。大丈夫、悪いようにはしないよ。その男、学園でも色々とやらかしていてね、最近ちょっと目に余るようになってきているんだ」
「殿下」
「さて、それじゃあ私は学園に戻るとしよう。ニコ、僅かな時間だったけど会えて嬉しかったよ」
そう言って僕の額にキスをすると、アンソニーさまは見送りは結構と言い残して学園に戻って行きました。なるほど、授業が始まる前に立ち寄ったんですね。だから早朝だったと。
ちっとも爽やかでない、嵐のような朝の出来事でした。
ていうか父さま、ちょっと屋敷のセキュリティを見直しましょうか?でないと僕は、おちおち二度寝もできないではないですか。
その後ーー。
しばらくアンソニーさまが僕の元を訪れることはありませんでした。
さ、寂しくなんてないんだからね!?
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