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おかしいなあ……なにかフラグになるようなこと、あったっけ?
僕とユーリ、そしてもう一人の護衛のメイナードさんの三人は、外から見られないよう馬車の中で身を低くしていた。あ、このメイナードさん、メイナード・ロンドさんがフルネームーーそうです。ユーリの上から二番目のお兄さんです。茶色の髪に緑の瞳はユーリと同じだけど、ゆるふわ天パのユーリと違ってメイナードさんは肩までのサラ艶ストレートの御髪をお持ちです。
毎朝、寝起き爆発状態の頭な僕……う、羨ましくなんかないんだからね!
「えっと、ニコル様? ユーリ、ニコル様はどうされてしまったんだ?」
「大丈夫だよ、ニコ様の意識が別の世界に飛んで行っているのはいつものことだから。そのうち戻ってくるから、放って置いて問題ないよ」
聞こえてるよ、ユーリ。近ごろユーリの僕に対する扱いが雑だよねー、と思っていたけどやっぱり気のせいじゃなかったんだね。僕は悲しいよ……こうなったら禁断の実の兄弟カプ妄想で自分を慰めるとしよう。
メイナードお兄さんは弟ユーリくんと違ってピュアなまま成長したご様子。優しげな雰囲気も僕的に高ポイント。よし、メイナードお兄さんは年上の優しげ美人受けにしてあげましょう。
「うん? 兄さん?」
「ーーいや、なんでもない。ちょっと悪寒がしたけど気のせいだ」
「大丈夫なの? 昔から兄さんは風邪をひきやすかったから。熱はーー」
と、無意識にメイナードお兄さんの額に伸ばしたユーリの手をお兄さんがさりげなく避けます。僕がいるからって遠慮しなくていいんですよ?兄弟の微笑ましいスキンシップじゃないですか。
「兄さん?」
「あ、いや。すまない。大丈夫、熱はないよ。それより今は俺にあまり近づかない方がいい気がするーーその……もし風邪を引いててお前にうつすといけないだろ?」
「わかったよ。だけど調子が良くないなら遠慮せずに言ってくれよ? それで屋敷に戻ることになっても、ニコ様は怒るような人じゃないからーーって、戻ってたんですねニコ様。ちょっとなに生温い目でこっちを見てるんです?」
「いいえ、なんでもないよ? 僕はただ兄弟の触れ合いに心を癒されていただけなのさ。いいなあ……兄弟って」
「なにを訳の分からないこと言ってるんですか。それより、申し訳ないのですが、今日のところはここで帰りませんか? あのピンクの髪の人、まだいるみたいだし。それに兄の体調が良くないようなんです」
馬車の窓からチラッと外を伺うユーリ。
今日は先日の市場調査のリベンジに件の書店へやって来たのだけど、なんとそこに例のピンク頭のマティスくんがいたんですよ。書店の入口横に人待ち顔で立ってるので、待ち合わせだろうと踏んだ僕たちはマティスくんがいなくなるのを馬車の中で待つことにしたのだけどーーうん、待ち人来らずみたいなご様子。ちょっとイライラしてるね。
馬車の中で(低姿勢で)プチお茶会をして待ったくらいだから、そこそこの時間は経ってるはず。
イライラするなら帰ればいいのになあ。
「ニコル様、他の書店ではダメなのでしょうか?」
「ダメではないのだけど、僕の目的の本があそこの書店にしか置いてないんだ。他だと売り切れでね」
「なるほど、そういうことですか。他で売り切れとなると……もしかしてそれは『薔薇の花園』という本では?」
うん?
「それなら自分も読みました。といってもまだ二巻までですが、なんと言っても主人公の相手に一途なところが良いですね。数々の困難を乗り越えながらもブレない恋心ーーあれほど相手から思われるのって男冥利につきますよね……って、すみません、ニコル様はこれから読まれるところだったのに、先に内容を言ってしまうのは良くないですね」
なんということでしょう!?わざわざ書店へ足を運ばずとも、こんなに身近に読者様がいたではないですか!しかも微笑ましい兄弟の触れ合いを披露してくれるというオプションつき!
このように優秀な人材がこのまま埋もれてしまうのは、主に僕の萌え補給の観点から言っても非常にもったいない。もったいないおばけが出る前に、今後の外出時の護衛はユーリとメイナードお兄さんの二人にお願いすることにしましょう、そうしよう。
「メイナードお兄さん、よかったら今度、その本を貸してもらえませんか? 今日のところはもう戻ることにしましょう。お兄さんの体調も良くないようだし、僕もその方が安心です」
「申し訳ありません、ニコル様。実を言うと、今日はユーリと初めて一緒に現場に出られるのが嬉しくて、昨夜は興奮して眠れなかったのです。こんなことで体調不良になるなど、お恥ずかしい限りです」
「本当だよ。兄さんのおかげで俺も昨夜は眠らせてもらえなかったんだから」
うん?
「翌日に備えて早く寝ろって言うのに、兄さんたら何度も(ニコ様の話を)強請るんですよ?」
「だって、しょうがないじゃないか。(ニコル様の護衛は)初めてなんだし、兄さんは本当に嬉しかったんだよ? 弟のお前と一緒に(護衛任務が)できるのが。(護衛対象の話を)よく知ってるお前に何度も頼んでしまうのも仕方ないじゃないか」
「ーーこれだから兄さんは。(真面目なのも)悪くはないけど、無理しないでよ。まあ、俺も……嬉しかったけどさ」
はい!最後にちょっと照れ顔のユーリくん、いただきました!
ありがとうロンド兄弟、君たちはやっぱり最高の人材だと思うよ。
そして、ありがとうマーシー、貴方の子育ては間違いなく素晴らしいと僕は思います。貴方が僕の乳母で本当に良かったです。
僕とユーリ、そしてもう一人の護衛のメイナードさんの三人は、外から見られないよう馬車の中で身を低くしていた。あ、このメイナードさん、メイナード・ロンドさんがフルネームーーそうです。ユーリの上から二番目のお兄さんです。茶色の髪に緑の瞳はユーリと同じだけど、ゆるふわ天パのユーリと違ってメイナードさんは肩までのサラ艶ストレートの御髪をお持ちです。
毎朝、寝起き爆発状態の頭な僕……う、羨ましくなんかないんだからね!
「えっと、ニコル様? ユーリ、ニコル様はどうされてしまったんだ?」
「大丈夫だよ、ニコ様の意識が別の世界に飛んで行っているのはいつものことだから。そのうち戻ってくるから、放って置いて問題ないよ」
聞こえてるよ、ユーリ。近ごろユーリの僕に対する扱いが雑だよねー、と思っていたけどやっぱり気のせいじゃなかったんだね。僕は悲しいよ……こうなったら禁断の実の兄弟カプ妄想で自分を慰めるとしよう。
メイナードお兄さんは弟ユーリくんと違ってピュアなまま成長したご様子。優しげな雰囲気も僕的に高ポイント。よし、メイナードお兄さんは年上の優しげ美人受けにしてあげましょう。
「うん? 兄さん?」
「ーーいや、なんでもない。ちょっと悪寒がしたけど気のせいだ」
「大丈夫なの? 昔から兄さんは風邪をひきやすかったから。熱はーー」
と、無意識にメイナードお兄さんの額に伸ばしたユーリの手をお兄さんがさりげなく避けます。僕がいるからって遠慮しなくていいんですよ?兄弟の微笑ましいスキンシップじゃないですか。
「兄さん?」
「あ、いや。すまない。大丈夫、熱はないよ。それより今は俺にあまり近づかない方がいい気がするーーその……もし風邪を引いててお前にうつすといけないだろ?」
「わかったよ。だけど調子が良くないなら遠慮せずに言ってくれよ? それで屋敷に戻ることになっても、ニコ様は怒るような人じゃないからーーって、戻ってたんですねニコ様。ちょっとなに生温い目でこっちを見てるんです?」
「いいえ、なんでもないよ? 僕はただ兄弟の触れ合いに心を癒されていただけなのさ。いいなあ……兄弟って」
「なにを訳の分からないこと言ってるんですか。それより、申し訳ないのですが、今日のところはここで帰りませんか? あのピンクの髪の人、まだいるみたいだし。それに兄の体調が良くないようなんです」
馬車の窓からチラッと外を伺うユーリ。
今日は先日の市場調査のリベンジに件の書店へやって来たのだけど、なんとそこに例のピンク頭のマティスくんがいたんですよ。書店の入口横に人待ち顔で立ってるので、待ち合わせだろうと踏んだ僕たちはマティスくんがいなくなるのを馬車の中で待つことにしたのだけどーーうん、待ち人来らずみたいなご様子。ちょっとイライラしてるね。
馬車の中で(低姿勢で)プチお茶会をして待ったくらいだから、そこそこの時間は経ってるはず。
イライラするなら帰ればいいのになあ。
「ニコル様、他の書店ではダメなのでしょうか?」
「ダメではないのだけど、僕の目的の本があそこの書店にしか置いてないんだ。他だと売り切れでね」
「なるほど、そういうことですか。他で売り切れとなると……もしかしてそれは『薔薇の花園』という本では?」
うん?
「それなら自分も読みました。といってもまだ二巻までですが、なんと言っても主人公の相手に一途なところが良いですね。数々の困難を乗り越えながらもブレない恋心ーーあれほど相手から思われるのって男冥利につきますよね……って、すみません、ニコル様はこれから読まれるところだったのに、先に内容を言ってしまうのは良くないですね」
なんということでしょう!?わざわざ書店へ足を運ばずとも、こんなに身近に読者様がいたではないですか!しかも微笑ましい兄弟の触れ合いを披露してくれるというオプションつき!
このように優秀な人材がこのまま埋もれてしまうのは、主に僕の萌え補給の観点から言っても非常にもったいない。もったいないおばけが出る前に、今後の外出時の護衛はユーリとメイナードお兄さんの二人にお願いすることにしましょう、そうしよう。
「メイナードお兄さん、よかったら今度、その本を貸してもらえませんか? 今日のところはもう戻ることにしましょう。お兄さんの体調も良くないようだし、僕もその方が安心です」
「申し訳ありません、ニコル様。実を言うと、今日はユーリと初めて一緒に現場に出られるのが嬉しくて、昨夜は興奮して眠れなかったのです。こんなことで体調不良になるなど、お恥ずかしい限りです」
「本当だよ。兄さんのおかげで俺も昨夜は眠らせてもらえなかったんだから」
うん?
「翌日に備えて早く寝ろって言うのに、兄さんたら何度も(ニコ様の話を)強請るんですよ?」
「だって、しょうがないじゃないか。(ニコル様の護衛は)初めてなんだし、兄さんは本当に嬉しかったんだよ? 弟のお前と一緒に(護衛任務が)できるのが。(護衛対象の話を)よく知ってるお前に何度も頼んでしまうのも仕方ないじゃないか」
「ーーこれだから兄さんは。(真面目なのも)悪くはないけど、無理しないでよ。まあ、俺も……嬉しかったけどさ」
はい!最後にちょっと照れ顔のユーリくん、いただきました!
ありがとうロンド兄弟、君たちはやっぱり最高の人材だと思うよ。
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