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20.5
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どうしていつも僕ばかりが貧乏くじを引くんだろう。
背中を刺されて思ったことがそれだった。
僕はなにも悪いことなんてしていないのに、絶対におかしい。男も女も関係なく、僕の見た目に惹かれてやって来るのはいつも向こうから。まあ、時々は僕から行くこともあるけど。
僕が魅力的すぎるのが悪いって自覚してるから、お詫びにみんな平等に愛してあげてるのに。みんな僕に文句ばかり。すごく理不尽。
その日はなんとなく朝から気分が乗らなくて授業をサボった。僕のことが大好きな教授の授業だから、ちょっとくらいサボっても大丈夫。後でごめんねメールしとかなきゃ。
僕の足は自然と行きつけのカフェへ。
実はここで時々見かける男の人がいて、ちょっと気になっている。
僕よりひと回りは年上っぽいおじさんなんだけど、ゴツい癖して目元が優しくて可愛いんだ。左手の薬指に指輪があるから結婚してるみたい。だけど、これまでだって結婚してても恋人がいても僕に惹かれる人はいたし、僕も誠実に愛してあげていたからその辺、拘りはないかな。
「ーーあ」
彼がいた。今日はついてる。授業サボって良かったー。
僕はいつものように、さりげなく彼の近くの席に着く。今日は隣の席を確保できた。
彼を密かに観察するのが僕の癒しの時間ーーなんだけど。
ちょっと元気がない?
気になった僕は、初めて彼に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
「いきなりでごめんなさい。なんだか具合が悪そうに見えたから」
僕がそう言うと、彼は困ったようにへにゃりと笑った。可愛いなあ。
それからぽつりぽつりと彼は話し始めた。とにかく誰かに吐き出したかったみたい。
お見合い結婚した彼の奥さんは人を好きになる気持ちがわからない人なんだって。
そして奥さんには内緒だけど、彼自身はバイセクシャル。
元々結婚する気はなくて、周囲が煩くなってきたのでお見合いで今の奥さんと三年前に結婚を決めた。当時の彼にとって奥さんのような人が都合が良かったから。
だけど三年も一緒に過ごすうちに彼は奥さんのことが好きになってた。
いくら自分が好きになっても相手は人を好きになれない人。打算で結婚した罪悪感もあって、これからどうしたら良いんだろうって悩んでたみたい。
「ねえ、考えるばかりじゃ暗くなっちゃうよ? こんな時は気分転換しないと。僕、今日は暇なんだ。これから遊びに行かない?」
なんだか放っておけなくて、僕は彼を誘ってカフェを出た。
面白そうなお店を冷やかして、ゲーセンに行って、映画を見て……彼と過ごす時間はすごく楽しくて、気づいたら休みの度に彼と遊びに行くようになっていた。彼からもなんとなく好意みたいなのを感じることがあったし。
この時が僕にとって一番ピークだったんじゃないかな。
だから、ちょっと調子に乗ってしまったんだ。
「家に遊びに行きたいな」
「ーーえ、それは」
「男同士だし大丈夫だって。普通なら変に思われることなんてないよ。もし奥さんに見つかっても、飲み友達だって言えばいいし」
渋る彼を強引に説き伏せて初めて彼の家に行った。
家の中には彼と奥さんがここで一緒に過ごしている痕跡があちこちにあって、何故だか悔しくて無性にこの空間を穢してしまいたくなった。
「触ってもいい?」
彼の返事を待たずに、僕は彼をリビングのソファへ押し倒して唇へ強引にキスをした。
舌で彼の口腔を犯す。最初は抵抗してたけど、そのうち彼も僕の舌に応えるように彼のそれを絡めてきた。
お互いの下衣を寛げて、熱くなった二人分の熱棒を一緒に握る。握ったまま少し擦っただけで彼のモノはすぐに固くなった。
三年もご無沙汰だったんだもの、仕方がないよね。
彼は後ろを使うのが初めてだったので解すのがちょっと大変だったけど、初めての人は僕も久しぶりだったので楽しかった。
時間をかけて指と舌で十分に解れたところで彼の中に入った。
言い訳じゃないけど、ここまでするつもりはなかったから生でしちゃった。
すごく狭いけど気持ち良い。彼も初めてだけどヨかったみたい。
動物みたいにお互い夢中で貪りあって、そして気づいたらーーーー。
チラッとしか見なかったけど、彼の奥さんはとても綺麗な人だった。
なにも言わずに出ていった奥さんを彼は追いかけて行った。とりあえず僕もその後を追う。
ついさっきまで僕しか見ていなかったのに。
今は奥さんしか見ていない。
面白くないなあ、つまんないよ。奥さんさあ、彼にあれだけ好かれてるのに気づかないなんてバカじゃないの?
いなくなっちゃえばいいのに。
そんなことを考えてたからバチが当たったのかな。
いや、僕は悪くない。僕はただ好きになっただけだもの。
奥さん、なにトラックに轢かれてるんだよ。あなたのせいで彼が泣いてるじゃないか。
つまんないなあ。
結局、彼も僕のモノじゃないーーそう自覚したらあっという間に熱が引いたのがわかった。
「う……ぐっ」
ぼんやりと二人の様子を眺めていると、誰かが僕の背中にぶつかった。背中を中心に広がる痛み。痛くて熱い。
立っていられなくて僕はその場に倒れた。アスファルトに僕の真っ赤な血が滲んで広がる。
トラックの事故に集まった野次馬が、今度は僕たちの方を向いて悲鳴をあげた。
煩いなあ、悲鳴をあげる暇があったら救急車呼んでよ。てか、僕を刺したの誰だよ。
ヤバい。心当たりがありすぎて笑えるんだけど。
ねえ奥さん、今日僕たち一緒に死んじゃうみたいだよ。
もしも生まれ変わるなら、今度は自分の好きなものばかりの世界がいいなあ。もちろん皆も僕のことが大好きで。
あ、最近ハマってたゲームの世界とか面白そう──。
ここで僕の意識が途絶えた。
背中を刺されて思ったことがそれだった。
僕はなにも悪いことなんてしていないのに、絶対におかしい。男も女も関係なく、僕の見た目に惹かれてやって来るのはいつも向こうから。まあ、時々は僕から行くこともあるけど。
僕が魅力的すぎるのが悪いって自覚してるから、お詫びにみんな平等に愛してあげてるのに。みんな僕に文句ばかり。すごく理不尽。
その日はなんとなく朝から気分が乗らなくて授業をサボった。僕のことが大好きな教授の授業だから、ちょっとくらいサボっても大丈夫。後でごめんねメールしとかなきゃ。
僕の足は自然と行きつけのカフェへ。
実はここで時々見かける男の人がいて、ちょっと気になっている。
僕よりひと回りは年上っぽいおじさんなんだけど、ゴツい癖して目元が優しくて可愛いんだ。左手の薬指に指輪があるから結婚してるみたい。だけど、これまでだって結婚してても恋人がいても僕に惹かれる人はいたし、僕も誠実に愛してあげていたからその辺、拘りはないかな。
「ーーあ」
彼がいた。今日はついてる。授業サボって良かったー。
僕はいつものように、さりげなく彼の近くの席に着く。今日は隣の席を確保できた。
彼を密かに観察するのが僕の癒しの時間ーーなんだけど。
ちょっと元気がない?
気になった僕は、初めて彼に声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
「いきなりでごめんなさい。なんだか具合が悪そうに見えたから」
僕がそう言うと、彼は困ったようにへにゃりと笑った。可愛いなあ。
それからぽつりぽつりと彼は話し始めた。とにかく誰かに吐き出したかったみたい。
お見合い結婚した彼の奥さんは人を好きになる気持ちがわからない人なんだって。
そして奥さんには内緒だけど、彼自身はバイセクシャル。
元々結婚する気はなくて、周囲が煩くなってきたのでお見合いで今の奥さんと三年前に結婚を決めた。当時の彼にとって奥さんのような人が都合が良かったから。
だけど三年も一緒に過ごすうちに彼は奥さんのことが好きになってた。
いくら自分が好きになっても相手は人を好きになれない人。打算で結婚した罪悪感もあって、これからどうしたら良いんだろうって悩んでたみたい。
「ねえ、考えるばかりじゃ暗くなっちゃうよ? こんな時は気分転換しないと。僕、今日は暇なんだ。これから遊びに行かない?」
なんだか放っておけなくて、僕は彼を誘ってカフェを出た。
面白そうなお店を冷やかして、ゲーセンに行って、映画を見て……彼と過ごす時間はすごく楽しくて、気づいたら休みの度に彼と遊びに行くようになっていた。彼からもなんとなく好意みたいなのを感じることがあったし。
この時が僕にとって一番ピークだったんじゃないかな。
だから、ちょっと調子に乗ってしまったんだ。
「家に遊びに行きたいな」
「ーーえ、それは」
「男同士だし大丈夫だって。普通なら変に思われることなんてないよ。もし奥さんに見つかっても、飲み友達だって言えばいいし」
渋る彼を強引に説き伏せて初めて彼の家に行った。
家の中には彼と奥さんがここで一緒に過ごしている痕跡があちこちにあって、何故だか悔しくて無性にこの空間を穢してしまいたくなった。
「触ってもいい?」
彼の返事を待たずに、僕は彼をリビングのソファへ押し倒して唇へ強引にキスをした。
舌で彼の口腔を犯す。最初は抵抗してたけど、そのうち彼も僕の舌に応えるように彼のそれを絡めてきた。
お互いの下衣を寛げて、熱くなった二人分の熱棒を一緒に握る。握ったまま少し擦っただけで彼のモノはすぐに固くなった。
三年もご無沙汰だったんだもの、仕方がないよね。
彼は後ろを使うのが初めてだったので解すのがちょっと大変だったけど、初めての人は僕も久しぶりだったので楽しかった。
時間をかけて指と舌で十分に解れたところで彼の中に入った。
言い訳じゃないけど、ここまでするつもりはなかったから生でしちゃった。
すごく狭いけど気持ち良い。彼も初めてだけどヨかったみたい。
動物みたいにお互い夢中で貪りあって、そして気づいたらーーーー。
チラッとしか見なかったけど、彼の奥さんはとても綺麗な人だった。
なにも言わずに出ていった奥さんを彼は追いかけて行った。とりあえず僕もその後を追う。
ついさっきまで僕しか見ていなかったのに。
今は奥さんしか見ていない。
面白くないなあ、つまんないよ。奥さんさあ、彼にあれだけ好かれてるのに気づかないなんてバカじゃないの?
いなくなっちゃえばいいのに。
そんなことを考えてたからバチが当たったのかな。
いや、僕は悪くない。僕はただ好きになっただけだもの。
奥さん、なにトラックに轢かれてるんだよ。あなたのせいで彼が泣いてるじゃないか。
つまんないなあ。
結局、彼も僕のモノじゃないーーそう自覚したらあっという間に熱が引いたのがわかった。
「う……ぐっ」
ぼんやりと二人の様子を眺めていると、誰かが僕の背中にぶつかった。背中を中心に広がる痛み。痛くて熱い。
立っていられなくて僕はその場に倒れた。アスファルトに僕の真っ赤な血が滲んで広がる。
トラックの事故に集まった野次馬が、今度は僕たちの方を向いて悲鳴をあげた。
煩いなあ、悲鳴をあげる暇があったら救急車呼んでよ。てか、僕を刺したの誰だよ。
ヤバい。心当たりがありすぎて笑えるんだけど。
ねえ奥さん、今日僕たち一緒に死んじゃうみたいだよ。
もしも生まれ変わるなら、今度は自分の好きなものばかりの世界がいいなあ。もちろん皆も僕のことが大好きで。
あ、最近ハマってたゲームの世界とか面白そう──。
ここで僕の意識が途絶えた。
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