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晴れわたる青空にぽっかりと浮かぶ白い雲。
ぼんやりと空を仰ぐと、小鳥が戯れあうように楽しげな鳴き声をあげて空中を横切って行く。
平和だ。実に平和。
ーーーー隣の席に不機嫌さを隠しもせず憮然とした表情のクリス父さまがいなければ。
父さま……少し殺気を抑えないと、第二王子殿下がちびりそうな顔をしてますって。
「ニコル殿、菓子はお口に合わなかったかい?」
完全にクリス父さまにびびっている第二王子とは対照的に、第一王子のアンソニー殿下が和かにぼくへ笑いかける。
ええっと、確か八歳っていってたよね?クリス父さまの殺気をものともしないって何者?しかもやたらとキラキラしいし。この王子リアルで星背負ってる?
ぽかーんと向かい側に座っている第一王子を眺めていると、当のキラキラしたリアル王子がぼくに向けてにこりと微笑みました。この王子、自分の容姿の使い方を心得てるよ……。
結局、王族からの正式なご招待を無碍に断ることはできませんでした。
ぼくが熱で三日間寝込んでいる間、大人たちの間であれよあれよという間に、今日この日、顔合わせという名のお見合いがセッティングされてしまいました。
権力という見えない力にさすがのクリス父さまも屈するしかなく、悔しそうにしてました。ミシェル母さまはなにを考えているのか、普段と変わらずのほほんとしてたけど。
「ニコル殿?」
アンソニー殿下が首を傾げます。
たったそれだけのことなのに、シャラーンという効果音とともにキラキラしい星のエフェクトが殿下の周りを彩ります。いや、マジなんなのこの子。
とりあえず偉い人から話しかけられたのだから、ちゃんと応えなければ。
「ーーとてもおいしいです」
特にこのナッツを練り込んだクッキーが、サクサクした歯応えが癖になる美味しさです。
「うん。このナッツのクッキーが好きみたいだね。遠慮しないで良いからね」
さりげなくぼく好みのナッツのクッキーが入ったお皿を取りやすい位置に移動してくれます。
偉い人(王族)なのに気づかいもできるだなんて、なんて出来た八歳児。
第二王子の……名前なんだったっけ?ハミ◯ンくんだったっけ?
ハミチ◯くんもお兄さんほどは無理でも、せめてちびりそうな顔を客人の前で晒さないように頑張れ。六歳にして騎士団長の本気の殺気に当てられるという、貴重な今日の経験はきっと君の糧になるはず。
「ところでーー」
ぼくがナッツクッキーを味わいながら、しみじみとハ◯チン殿下の将来について考えていると、ふいにアンソニー殿下が口を開いた。
「ーー婚約発表はいつ頃が良いかな?」
「……ふぐっ」
あ、クリス父さまが飲みかけたお茶で咽せた。
お城の庭でのお茶会開始から、約二十分。まだ挨拶兼自己紹介とナッツクッキーの話しかしてないよね。唐突すぎて着いていけないんだけど。それに今回のお茶会はあくまで顔合わせのみのはず。
「だっ、第一王子殿下っ! 今日は単なる顔合わせのみ、こ、こ、婚約などとっ、突然そんな」
「うん? そうなの? 私は父上から今日は婚約者との顔合わせだと聞いていたのだけれど」
「はい?」
父さま、落ち着いて。八歳児に飲まれてるよ。
クリス父さまでは話にならなそうなのでミシェル母さまへ【救助求む】の視線を送ったーーのだけど。
にこにこと麗しい笑顔のミシェル母さま。だが、ぼくには見えた。こめかみにピキリと青筋が立っているのが……。
これはあかんヤツ。のほほんとしているようで、実はミシェル母さま最初から相当ご立腹だったらしい。
ここはぼくがひと肌脱がねば。
「こんやく? ですか?」
「そうだよ。ニコル殿、君は私の婚約者になるんだよ?」
「こんやくしゃ……ぼくはきょう、おうさまから、おうじさまとおともだちになってくださいっておてがみをもらいました。こんやくしゃではなくておともだちなら、なります」
「そ、そうです殿下。話が違います」
お、クリス父さまが持ち直した。
「ふむ……どうやらお互いの認識に相違があるようだね。私はニコル殿が婚約者だと嬉しいのだけれどーー父上、どういうことでしょうか?」
「ーーーーえっ?」
第一王子に話を振られ、これまで空気のように気配を消していた国王陛下がこっちを向きました。陛下、あなた今までずっとミシェル母さまのことを見てましたね?
「今日、私は父上から婚約者との顔合わせだと聞いていました。間違いありませんか?」
「えっ? えーと。そうだね、将来的に婚約者になる予定の子との顔合わせ……かな?」
「陛下?」
「な、なんだろうか? ミシェル」
ミシェル母さまの冷たーい声に、見えない尻尾をぶんぶん振って嬉しそうに反応する王様。威厳とか全然感じないのだけど。この国、大丈夫なの?いや、次期王様(第一王子)がしっかりしてるから良いの?
ちなみにクリス父さまのご機嫌は急降下中です。第二王子の顔色が紙みたいになってるけど大丈夫かな。
「今日はあくまでただの顔合わせのお茶会としてご招待頂いたと思うのですが、なぜ息子が婚約者に決まったかのような話になっているのでしょう?」
そうそう。あくまで今日はただの顔合わせ。しかも父さまと母さまから、気に入らなければ仲良くしなくても良いと言われている。
王子との婚約なんてまっぴらだけど、ただの友だちなら良いかな。面白そうだし。
「え、あ、でもミシェル、うちの息子のどちらかと一緒になれば、君の息子は王子妃だ。ゆくゆくは王妃にだってなれる。将来安泰だよ? 城で一流の教育を受けられるし良いこと尽くめだと思うなあーー息子のことが心配ならミシェル、君も息子と一緒に城に通うといい。うん、それがいい。そうしよう」
ああ、この横恋慕陛下、最初からミシェル母さまが目的なんだ。ミシェル母さまがため息吐いてます。
「ーーエレオノーラ様、陛下はこのように仰っておりますが?」
「なにっ!? エレオノーラっ!?」
「あらまあ。相変わらずの夫ですまないねミシェル、迷惑をかけたねーーーーさて、陛下?」
エレオノーラ様?の登場で顔色を変える王様と、すんごい迫力(物理)の美人……。
王様が小さく見えます。言葉のあやではなく、物理的に。
流れからいってこの人がエレオノーラ様。王妃様だよね。とにかくデカい。そしてマッチョ……軽く身長二メートルは余裕である。腰まである黒髪に絶対零度の氷のような水色の瞳、なんか凄い迫力美人なんだけど。
とりま、金髪緑目の王子二人の見た目は陛下に似たんだね。
そして修羅場の予感?
やべえ、おらわくわくすっぞ!
ぼんやりと空を仰ぐと、小鳥が戯れあうように楽しげな鳴き声をあげて空中を横切って行く。
平和だ。実に平和。
ーーーー隣の席に不機嫌さを隠しもせず憮然とした表情のクリス父さまがいなければ。
父さま……少し殺気を抑えないと、第二王子殿下がちびりそうな顔をしてますって。
「ニコル殿、菓子はお口に合わなかったかい?」
完全にクリス父さまにびびっている第二王子とは対照的に、第一王子のアンソニー殿下が和かにぼくへ笑いかける。
ええっと、確か八歳っていってたよね?クリス父さまの殺気をものともしないって何者?しかもやたらとキラキラしいし。この王子リアルで星背負ってる?
ぽかーんと向かい側に座っている第一王子を眺めていると、当のキラキラしたリアル王子がぼくに向けてにこりと微笑みました。この王子、自分の容姿の使い方を心得てるよ……。
結局、王族からの正式なご招待を無碍に断ることはできませんでした。
ぼくが熱で三日間寝込んでいる間、大人たちの間であれよあれよという間に、今日この日、顔合わせという名のお見合いがセッティングされてしまいました。
権力という見えない力にさすがのクリス父さまも屈するしかなく、悔しそうにしてました。ミシェル母さまはなにを考えているのか、普段と変わらずのほほんとしてたけど。
「ニコル殿?」
アンソニー殿下が首を傾げます。
たったそれだけのことなのに、シャラーンという効果音とともにキラキラしい星のエフェクトが殿下の周りを彩ります。いや、マジなんなのこの子。
とりあえず偉い人から話しかけられたのだから、ちゃんと応えなければ。
「ーーとてもおいしいです」
特にこのナッツを練り込んだクッキーが、サクサクした歯応えが癖になる美味しさです。
「うん。このナッツのクッキーが好きみたいだね。遠慮しないで良いからね」
さりげなくぼく好みのナッツのクッキーが入ったお皿を取りやすい位置に移動してくれます。
偉い人(王族)なのに気づかいもできるだなんて、なんて出来た八歳児。
第二王子の……名前なんだったっけ?ハミ◯ンくんだったっけ?
ハミチ◯くんもお兄さんほどは無理でも、せめてちびりそうな顔を客人の前で晒さないように頑張れ。六歳にして騎士団長の本気の殺気に当てられるという、貴重な今日の経験はきっと君の糧になるはず。
「ところでーー」
ぼくがナッツクッキーを味わいながら、しみじみとハ◯チン殿下の将来について考えていると、ふいにアンソニー殿下が口を開いた。
「ーー婚約発表はいつ頃が良いかな?」
「……ふぐっ」
あ、クリス父さまが飲みかけたお茶で咽せた。
お城の庭でのお茶会開始から、約二十分。まだ挨拶兼自己紹介とナッツクッキーの話しかしてないよね。唐突すぎて着いていけないんだけど。それに今回のお茶会はあくまで顔合わせのみのはず。
「だっ、第一王子殿下っ! 今日は単なる顔合わせのみ、こ、こ、婚約などとっ、突然そんな」
「うん? そうなの? 私は父上から今日は婚約者との顔合わせだと聞いていたのだけれど」
「はい?」
父さま、落ち着いて。八歳児に飲まれてるよ。
クリス父さまでは話にならなそうなのでミシェル母さまへ【救助求む】の視線を送ったーーのだけど。
にこにこと麗しい笑顔のミシェル母さま。だが、ぼくには見えた。こめかみにピキリと青筋が立っているのが……。
これはあかんヤツ。のほほんとしているようで、実はミシェル母さま最初から相当ご立腹だったらしい。
ここはぼくがひと肌脱がねば。
「こんやく? ですか?」
「そうだよ。ニコル殿、君は私の婚約者になるんだよ?」
「こんやくしゃ……ぼくはきょう、おうさまから、おうじさまとおともだちになってくださいっておてがみをもらいました。こんやくしゃではなくておともだちなら、なります」
「そ、そうです殿下。話が違います」
お、クリス父さまが持ち直した。
「ふむ……どうやらお互いの認識に相違があるようだね。私はニコル殿が婚約者だと嬉しいのだけれどーー父上、どういうことでしょうか?」
「ーーーーえっ?」
第一王子に話を振られ、これまで空気のように気配を消していた国王陛下がこっちを向きました。陛下、あなた今までずっとミシェル母さまのことを見てましたね?
「今日、私は父上から婚約者との顔合わせだと聞いていました。間違いありませんか?」
「えっ? えーと。そうだね、将来的に婚約者になる予定の子との顔合わせ……かな?」
「陛下?」
「な、なんだろうか? ミシェル」
ミシェル母さまの冷たーい声に、見えない尻尾をぶんぶん振って嬉しそうに反応する王様。威厳とか全然感じないのだけど。この国、大丈夫なの?いや、次期王様(第一王子)がしっかりしてるから良いの?
ちなみにクリス父さまのご機嫌は急降下中です。第二王子の顔色が紙みたいになってるけど大丈夫かな。
「今日はあくまでただの顔合わせのお茶会としてご招待頂いたと思うのですが、なぜ息子が婚約者に決まったかのような話になっているのでしょう?」
そうそう。あくまで今日はただの顔合わせ。しかも父さまと母さまから、気に入らなければ仲良くしなくても良いと言われている。
王子との婚約なんてまっぴらだけど、ただの友だちなら良いかな。面白そうだし。
「え、あ、でもミシェル、うちの息子のどちらかと一緒になれば、君の息子は王子妃だ。ゆくゆくは王妃にだってなれる。将来安泰だよ? 城で一流の教育を受けられるし良いこと尽くめだと思うなあーー息子のことが心配ならミシェル、君も息子と一緒に城に通うといい。うん、それがいい。そうしよう」
ああ、この横恋慕陛下、最初からミシェル母さまが目的なんだ。ミシェル母さまがため息吐いてます。
「ーーエレオノーラ様、陛下はこのように仰っておりますが?」
「なにっ!? エレオノーラっ!?」
「あらまあ。相変わらずの夫ですまないねミシェル、迷惑をかけたねーーーーさて、陛下?」
エレオノーラ様?の登場で顔色を変える王様と、すんごい迫力(物理)の美人……。
王様が小さく見えます。言葉のあやではなく、物理的に。
流れからいってこの人がエレオノーラ様。王妃様だよね。とにかくデカい。そしてマッチョ……軽く身長二メートルは余裕である。腰まである黒髪に絶対零度の氷のような水色の瞳、なんか凄い迫力美人なんだけど。
とりま、金髪緑目の王子二人の見た目は陛下に似たんだね。
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