【本編完結】壁にはなれなかったけど、せっかくなので堪能させていただきます!

とがきみえ

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10.5②

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「ーーーーは? 申し訳ありません、もう一度お願いできますでしょうか?」

 耳にした言葉が理解できず、思わず聞き返してしまった。

「クリス・グランチェスト侯爵、奥方のミシェル殿、それに子息のニコルくんに陛下がお会いしたいそうだ」

 我が国の宰相であるマキシム・クローブからの呼び出しに嫌な予感はしたんだ。

「な、なぜ陛下が……?」
「先日、ニコルくんのスキル授与の儀があっただろう? その様子がさっそく陛下の耳に入ってなーーそれよりここには俺とお前しかいないんだから、畏まらなくてもいいぞ」

 宰相マキシムーーマックスと私は同じ侯爵家。家族同士の付き合いもあって、こいつとは幼い頃からの腐れ縁だ。学園にいた頃は、これに陛下とあと陛下の側近のニール・アードレを加えた四人でいつも連んでいた。

「ーー行きたくない」

 頭を抱えため息を吐く私を横目にマックスが苦笑する。

「まあ、お前の気持ちもわからんでもないがな。俺も仕事だし」
「陛下ーーあいつは俺のミシェルに気があるんだ! 正妃に息子が二人もいるのに」
「おいおい、不敬、不敬」

 マックスが可笑そうに目を細める。
 私がミシェルと付き合い始めた頃、陛下たちにミシェルを紹介してからというもの、ミシェルを見初めた陛下がやたらと私たちに絡んでくるようになった。私がミシェルと結婚してからは流石に則妃にとは口にしなくなったが、新婚当初、事あるごとにお忍びと称しては我が家を訪ねて来たものだ。
 ヘタに追い返すこともできず、当時、本気で謀反を起こしてミシェルとともに国を出ようと思っていたのも記憶に新しい。すんでのところで目の前の友人に阻止されたが。

「ミシェルに子ができてから少しは落ち着いたと思っていたのに」
「まあなあ……あれで、陛下にとっては一目惚れで初恋だったらしいし」
「はあ!? 人の、しかも友人の恋人になにが初恋だ! それは横恋慕というんだ。それに当時は陛下だって既に正妃を迎えていたじゃないか」
「陛下なりに、お前たちへは遠慮してたんだって。それに正妃とは政略結婚だ。生まれる前から婚約が内定していたんだからどうしようもなかったんだよ」
「あれで!?」
「あれで」
「ミシェル殿が懐妊して、やっと気持ちに区切りがついたようだったんだけどなあ」
「どういう意味だ?」

 マックスが可哀想な子を見るような目を私へ向けた。

「お前の息子のニコルくん、ミシェル殿によく似ているらしいな」
「……まさか」
「陛下の二人の息子、第一王子のアンソニー殿下は八歳、第二王子のハミエル殿下は六歳。ちょうど良い年頃だと思わないか? お前の息子が五歳の授与の儀を受けるのを知って、陛下が神殿に配下を置いていたらしい」
「な……っ」
「懐妊してからミシェル殿はあまり表に出なかっただろう? まあ、最初はミシェル殿の様子を知りたかったからだったのが、配下からミシェル殿にそっくりなニコルくんの話を聞いて陛下の目の色が変わったようだな。恐らく自分では叶うことのできなかった恋を息子にーーってところか? それに王子殿下のどちらかとニコルくんが結婚したら、ミシェル殿と縁続きになるしな」
「はっ、冗談じゃない。ニコはどこにも嫁がせん!」
「うわぁ」

 マックスがなんとも言えない顔をする。
 全く話にならん。自分の欲望のために我が愛息を犠牲にするなんて。
 第一、ニコルの気持ちはどうなる?私だって「父さまとけっこんするー」って言われてないんだぞ?それなのに他の男と婚約だなんて考えられん。

「とにかく、プライベートな顔合わせとはいえ王家の印の入った書状を渡されたんだ。よっぽどの理由でないと断ることは難しいぞ」
「……よっぽどの理由?」
「そうだな……とても体が弱く病弱で外出もままならないとか、見た目は可愛らしいが中身がとても残念だとか、救いようがないくらい頭が悪いとか?」
「ふざけるな! ニコはほっぺたつやつやの健康優良児だし、性格も素直で良い子だし、それにとっても賢いんだ! 三歳で読み書きを完璧にマスターして、五歳の今ではミシェルと一緒に古語で書かれた魔法書の解読をしているんだからな!」
「ーーーーは? それって本当の話なのか?」
「ああ! ニコはとても賢いんだ。おしゃべりはまだ少しおぼつかないが、そこもまたチャームポイントだ!」

 ニコの素晴らしさを聞いてマックスが驚きに目を瞠る。
 そうだろう、そうだろう。うちのニコルは特別なんだ。なんと言ってもニコルは私とミシェルの間に天から舞い降りた天使なのだから。

「なあ、うちの息子、今年で十歳になるんだが、もし殿下たちとの話が進まないようであれば……」
「だからニコはどこにも嫁がせんと言ってるだろうが! とりあえずこれは受け取っておく。話はこれで終わりか? なら私は帰る!」

 油断も隙もない。王族だろうと親友の息子だろうと関係ない。
 私はマックスから書状を奪い取ると、とっととマックスの執務室から出て行った。
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