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第二十八話 半月ぶりⅠ

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 何故かロロコに部屋を追い出された俺と水花。結局あの視線はなんだったんだ?
 ただまあ元々の目的である魔族との交戦許可は……あれ、貰えてなくない?

 もしかして不合格だったのか?

「春護、黒曜先輩のところ行こ!」
「うん、そうだね」

 気を取り直そう。
 謎の敵にやられた黒曜は半月前に意識を取り戻していた。寝たままで全身を包帯に包まれた姿だったけれど、黒曜は確かに生きていた。

 会いたければ好きに行けと前から言われていたけど、俺は目覚めの知らせを聞いた時以来、黒曜の元には通っていなかった。

 水花は一人で通っていたみたいだけど……うん、正直ちょっと気まずいかな。

 領地内を進み黒曜のいる病室に辿り着いた。
 この屋敷は全体的に畳張りで寝具はお布団だけど、ここはロロコの一存によってベッドになっている。
 白を基調にした部屋。いつだったか保健室をモデルにしているとか言ってたっけ。

「黒曜! 来たよ!」
「おおー! らっしゅいスイスイっ、今日もクールビューティーとサンシャインオーラを共存させるという、常人では出来ない奇跡的な美少女だねい!」

 クールビューティーとサンシャインオーラの共存? ついついそのまま繰り返したけど、確かにそうかもしれない。

 水花って常に無表情で外見ではクールだけど、表情筋たちがボイコットしているだけで割と感情的な方だもんね。

 サンシャインオーラ、つまり太陽みたいな女の子って意味なんだと思うけど……うん、そうかな。

 いつの日か水花が満面の笑みを見せてくれる時が来るのだとすれば、絶対に見たい。何がなんでも生き残ってやると思うね。

 そんな未来の話をしているけれど、重要なのは今だよね。

「やーやー、半月ぶりだねハルハル」
「仇は必ず俺たちが取る。だから早く治ってね」
「ちょっとっと、仇って普通死んでる時に使う言葉じゃないかい? 半分くらいは天国見えちゃったけど、見ての通りセクシーボディのまま復活してるんですけれどもねー、ねーっ!」

 水花とかから話には聞いてたけど、随分と元気だね。
 肺の殆どが使い物にならなくなったって聞いたけど、随分と良く喋るし呼吸だって安定しているように見える。

 ロロコの技術力は肺機能すら補えるって事か。とんでもないね。底知れぬ人だ。

 だけど、その姿はまだ見ていて痛々しかった。

 全身が包帯に包まれていて、その上から着物を着ている状態。
 髪は出てるけど片目を隠すように頭にも包帯が巻かれていて、片目と口元しか見えていなかった。

「身体はまだ動かないって言ってたよね」
「おっ、おおっ!? これはこれはまさまさまさかのエッチなイタズラをされてしまうって事なのかなかなかななっ!?」
「口は元気そうだね」
「つまりあーしの口を使うって事っ!?」
「……ねえ、怪我人なのを良い事にふざけ過ぎじゃないかな?」

 何も言う事なく自然と黒曜の側に行き、上半身を起こしてあげる水花。
 それだけじゃなくて彼女の身体を支えていた。

 そう、黒曜は身体を動かす事が出来ないでいた。ただしそれは故意的な事だとロロコは言っていた。

 黒曜は性格的にじっとしていられない。動けば傷が開き、治療時間が伸びる。
 そのため黒曜は身体が動かないように処置されているらしい。

 その事から来るストレスの反動なのかな。いつも以上に発言がやばいのは。

「あははっ、ごめんってばー。スイスイは良く来てくれるけど、他の奴らは来てくれないかんねー。退屈なんだー」
「えっ、黒曜ってぼっちだったの?」

 ピタリと動きを止める国。これは……やばいか?

「ねえ、ハルハル?」
「は、はい」

 普段より声が低くなり、ジト目を向けてくる黒曜。これは……やらかしたか?

「配慮って言葉知ってる?」
「……ごめん」

 なんだろう。知っちゃいけない一面を知ってしまったかのような、そんな感じがした。

「それからハルハル、それ勘違いだからね」
「え?」

 突然真剣な声色になった黒曜に驚くと、彼女は続けた。

「主様は確かにふざけてる事が多いけど、この国のために結構頑張ってるんだよ?」
「……ん?」

 突然話の規模が大きくなった気がするのは俺だけか?
 黒曜のぼっち疑惑から派生する内容とは思えなかった。
 でも、彼女は本気だ。それはわかった。

「自分で言うのもアレだけど、あーしって主様の部下でもトップクラスの実力だったりするんだよね。そんなあーしが負けた。これって結構な事だったりしちゃうんだよねー」
「……確かにそうなのかも?」

 権力者が従えている戦力の中でも上位が敗北してしまう。その事実は権力者にとって大きな意味があるんだと思う。

 ただ、ロロコって権力者らしい姿を見せた事がないんだよね。確かに少女隊という私兵団みたいな組織はあるけど、戦闘員というよりもロロコの退屈を紛らわせるためというか、遊び相手って印象が強い。
 まあ、ロロコが軽い性格をしているからそう思うのかもしれないけどね。

「今の戦力じゃーもしかして足りないんじゃね? そんな不安がムクムクとそり立った事により、どうやら応援を呼んだみたいだーね」
「応援?」

 ちなみに黒曜のアウトな発言に関してはスルーさせていただきます。キリがないからね。

「ほーりゃほりゃ、前に先っちょだけ話した事あるじゃん?? 主様のダーリン」
「……あー、言ってたね」

 知れば絶対に友人が落ち込む事になるであろう謎の存在。その話を聞いてから一ヶ月経ったけど、まだその存在を確認出来ていないんだよね。

 黒曜曰くロロコの旦那。
 ロロコ曰くただの友人。

 ……うん、結婚はしてないけど、友人以上の関係って気がするよね。
 友達以上、恋人未満。だけどおそらく高確率でロロコは好意があるんだと思う。そんな相手。

「旦那様も旦那様であーしらみたいな私兵団を従えてるんだよねー。総戦力でいったらこっちにゃ勝ち目なんてないくらいの組織」
「……えっ?」

 少女隊の総戦力を遥かに超える私兵団? そんなのを個人で従えてるなんて……危険過ぎる。

「あっ、今警戒したでしょ? 大丈夫大丈夫、あーし旦那様と会った事あるし、一緒にご飯とか食べた事あるけど、割と普通の人だよ。なんというか、あーしらにとっては親戚のお兄ちゃんって感じかねえ」
「……黒曜も結構懐いてる感じ?」
「おややー? もしやその感情は嫉妬ですかい?」
「……」
「えっ、黙るのやめてよ。なんか照れるじゃん」

 女友達に仲の良い年上の男性がいる。別に黒曜と付き合いたいとかそういう事は一度も考えた事ないけど……なんか嫌だね。

「大丈夫だってー、そもそも旦那様は主様のダーリンだし、略奪愛とか趣味じゃあーりませーん」
「えっ、意外」
「おい、ハルハルはあーしの事をなんだと思っているんだいっ!?」
「痴女」
「即答!?」

 身体を動かせないようにされているからジッとしているんだけど、黒曜ってそれでもリアクションが激しい。なんというか、動いてないはずなのにこういう動きをしたいんだろうなって事が簡単に想像出来た。
 これは騒がしいって表現するべきなのかな?

「先輩、あんまり興奮しないでよー。内側が裂けるよ?」
「興奮するとナカが裂ける!? どどど、どうしたのスイスイ! そんなイケナイ事を口にするだなんて、あーしの心のあーしがギンギンになっちまうぜ!」
「……訂正。お前はただの変態だ」

 頭にチョップしたいところだけど相手は怪我人だからね。流石に自重。
 治った頃に覚えてなー。

「まあ旦那様の部下がこっちに到着するまでまだまだ時間が掛かると思うけどねー。さー、誰が来るのかなー楽しみだなー」
「……」
「およよ? 何故黙るの? ……あっ、もしかしてそういう事? 帰って来た嫉妬心ってところかにゃー?」
「……」
「……わー、反応に困るんですけどー」

 応援とやらがどんな奴かは知らない。もしかすると凄く良い奴なのかもしれないけど、けどさ! なんか嫌だよね! 知らない男の話をするなーってなるよね普通。

「いやいやびっくり、まさかハルハルがあーしの事をそんなに想ってくれていたにゃんてにぇー」
「……違うし」
「わー、お子様みたいな拗ね方してる」
「拗ねてないし」
「わぁ、春護が珍しい状態になってる。ちょっと面白い」

 ついに水花まで弄ってくるようになったんだけど。まあ、俺が悪いってわかってるけどさ。さーっ!

「まあ意地悪はこれくらいにしてあげようじゃないかー。援軍って確定で女の子だよ。だからユーが考えている未来はナッシングざますわ」
「えっ、ロロコの旦那の私兵団なんでしょ?」
「そそっ、旦那様って基本的に男は従えないからね」
「……えっ、それって言っちゃアレだけど……いや、やめとくか」
「ヤバいと思った? そのとーり、旦那様も主様と同じでやべー人だぜぃ」

 言わない事によって曖昧にしておこうと思ってたのに、黒曜がすかさず確定させてくるんだよね。うん、知ってた。

「まあ、旦那様が直接来る事なんて滅多にないし、会う機会はないと思うよ」
「うん、出来ればその方が良いかな」

 ロロコ以上の危険人物かもしれないからね。……いろんな意味で。

「んー、一応フォローしておくけど、悪い人じゃないからね? 主様みたいにセクハラはしてこないもん」
「それを聞いて安心した」

 ロロコは少女隊へのセクハラが多いからね。そのイメージが強いから旦那とやらにも同じイメージをしちゃった。
 ロロコのセクハラは同性同士だからまだ許されるかもしれないけど、男が同じ事をしてたらやばいって言葉じゃ足りないくらいアウトだ。
 本当に杞憂で良かった。

「さーてと、随分と話が逸れたというか、本番前の準備運動にしてはお口の筋肉を随分と酷使した気がするけど、そろそろ本番しちゃおっか」
「そうだね」

 明らかに別の意味にしか聞こえないわざとらしい言い方を飽きる事なく再びしている黒曜だけど、前に宣言した通り反応なんてしません。

「反応足りなくてあーし悲しいなー」
「普段と違って言葉だけだからね。それだけじゃもう物足りないかな」
「口だけじゃ物足りない身体にされたったって事!? ハルハル調教完了って事っ!?」

 反応しない。絶対に反応なんてしてやらない。ただ思うだけなら良いよね。
 ……発言マジで終わってる。もはやセクハラじゃないか? 女から男にするセクハラも十分犯罪だからね?

 まあでも、今のは俺も悪いか。

「流石にそろそろ真面目に本番挿れるかー。スイスイも疲れちゃうもんね」
「アタシは平気だよ?」

 今の黒曜は自分の意思で身体を動かす事が出来ないようにされている。そのため本来なら座る事すら出来ないんだ。だからずっと水花が隣で身体を支えてるんだ。

「ちな、主様から魔族と戦う許可は貰えたの?」
「それが微妙なんだよね。クリスさんには認めて貰ったんだけど……」
「クリ先輩? えっ、なんでクリ先輩の事知ってんの?」
「あれ、水花から聞いてなかったの?」
「うん、話してないよ? でもそっか、先輩の先輩だったんだ」

 クリスさんは元々ロロコの部下だったらしい。今は卒業とやらをして自立しているけど元々は関係者だったのだから黒曜と関わるがあるとは思ってた。へえ、先輩と後輩だったんだね。

 確かに年齢的にもそんな感じか。見た目からじゃクリスさんの年齢なんて若過ぎてわからないけど、黒曜よりかはお姉さんって感じがするもんね。

 ちなみに黒曜の年齢も知りません。勝手に同い年だと思って接してる。仮に年上だったとした場合、今更態度を変える? いえ、ないな。
 黒曜さんって呼ぶ自分の姿を想像すると、ちょっとキモいか。

「へー、そうだったんだ。クリ先輩に認められたのならあーしも認めてあげる。主様の説得手伝うよーって言いたいところなのですが、はい」
「動けないもんね」
「そのとりー」
「まあ、その件は大丈夫だと思うけどね」

 多分だけどロロコは既に俺たちの事を認めてくれていると思うんだ。
 ただその事を言い忘れている、そんな気がした。

 俺のただの願望? いやいや、ロロコって結構ポンコツなところがあるからね。
 俺たちを揶揄うのに集中して言葉にするのを忘れたとか普通にありそう。

「それじゃあ二回戦ね」

 これはちょっとわかり難いというか、理解出来てしまった自分がちょっと嫌なんだけど、二つある本題の内、もう一つの方に移ろうって事だよね。

 なんだこいつは、一々そういう言い方をしないと死ぬ呪いにでもかかってるのか?

「イズキって娘と戦うんでしょ? 覚悟の方はどう、出来てる?」
「……うん、そりゃね」

 初めて戦った時は普通の模擬戦。お互いに殺意は高かったけど、水花は見学だったし、本気とは言えない戦いだった。

 でも次は違う。俺と水花は進化し、あの時とか明確な差がある。それに今度は水花も一緒に戦うんだ。その戦力は初戦と比べて何倍、いや何十倍にまで引き上がっているはずだ。

 だけどそれはイズキも同じ。彼女は火属性の魔法を得意としていて、室内では全力を出せないでいた。
 待ち合わせをした場所は橋。流石に橋の上で戦う気はないけど、屋外である事に変わりはない。
 思う存分炎が使える。

「勝てる自信はどれくらいかにゃ?」
「勝つよ。絶対に」
「……うん、強い目だ。だけど本当にわかってるんだよね?」
「わかってる。もう悩まない。全力をあいつに叩き付けてやる。そして、勝つ」

 イズキの本気がどれほどなのか、想像出来ない事しか想像出来ないけど、それでもやるんだ。

「わかった。ハルハル、スイスイ、二人ならやれるよ。勝ったらお祝いに三人で混浴旅行に行こうぜ!」
「うんっ!」
「水花!? 今明らかにおかしかったからね!?

 良い事言って終わるのかと思えば、黒曜はやはり黒曜だな!
 それからどっちにせよお前はまだ暫く動けないだろうがよーっ!



 そして、その日が訪れた。

   ☆ ★ ☆ ★
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