魔物と共にこの過酷な世界を生きる。

やまたのおろち

文字の大きさ
上 下
56 / 61
2章

悪夢との邂逅

しおりを挟む


「ゴシャ?」

「いやいや、私のレーダーの方が正確ですわ。確かに、ここら辺にクラーケンがいるはずですわ」

「ゴシャー!」

「だーかーらー!間違いなくこれはクラーケンの匂いでしてよ!自分のミスを認めろですわ!」

「喧嘩するな!!」

神鯨も無事に仲間にできた俺たちは、クラーケンを捕まえようと探索していた。探索していたのだが…

「熱探知にそれらしきものが引っかかっていない?」

「ゴシャ」

アオが自信満々に肯定する。しかし…

「いーや、これは間違いなくクラーケンですわ。神にも誓いましてよ」

「フシュ?」

「いや、そっちの神じゃないですわ」

どうやらティルの匂い探知には引っかかっているようだ。何故だ?あ、もしかして…

「クラーケンってスキュラと同じく体温を変えれる能力持ちだったりする?」

これが答えだろ。自分でいうのもなんだが、素晴らしい推理力だ。それならば、ティルの言ってることが正しいな。

「そんな能力なかったと思いますわ。それができるのは私たちスキュラと磯撫でくらいしかいなかったと思いますわ」

磯撫でってこの前も聞いたな。結局あれってなんなの?しかし、それなら…

「じゃあなんでアオちゃんの熱探知に反応がないのかしら」

そう…海の中では熱探知能力が弱体化するとはいえ、流石にこれはおかしい。
アオは『何もいない』と言っているのだ。

「待て、"何もいない"?」

普通、アオの熱探知にはなんらかの生き物がひっかかる。微生物は流石に無理だが、小魚程度なら問題なく感知できる。それらが全ていない…?

「ここの水域はおかしい!離れるぞ!」

ここにいるのは、ただのクラーケンじゃない!おぞましい、おぞましい…別の何かだ!

しかし、逃げるという判断を下すには…もう、遅すぎた。

「ァアァ…」

おぞましい、黒と紫に汚染された巨大イカのクラーケン…全てを憎み、苦しみ、全ての生命体に害を為す存在となったクラーケン。

そう、あれは…

「ォォォ…!」
「悪夢クラーケン…!」

身をも滅ぼす悪夢に侵された、ナイトメア種。赤く濁った目がこちらを捉え、黒と紫の混じった触手をこちらへ向かって叩きつけてきた!

ナイトメア種は、元からその姿だったわけではない。かつてはふつうの魔物だった…
そのふつうの魔物が、増幅された悪意を抑えきれず変化した姿がナイトメア種なのだ。

ナイトメア種は、まるで悪夢にうなされているかのような鳴き声を上げる。それが名前の由来だ。
ナイトメア種にはもう意識はない。ただ、悪夢に侵されていない他の生命体の根絶を目指すのみ。まるでコンピューターのように、彼らは動いている。そして、ひとつ言っておかなければならないことがある。

ナイトメア種は、絶対に獲物を逃さない。
死を覚悟しろ。


「ファー!」

予想外の事態に咄嗟に反応できたのは、サルヴァントだけだった。彼は身を挺してなんとか悪夢クラーケンの攻撃を防いだのだ。

「逃げれるなら逃げた方がいいが…」

「あれは悪夢種。例え逃げたとしても絶対に地獄の果てまで追いかけてくるわよ」

冷や汗が、海にとける。生き残るには、あれを殺すしかない。

「あれと互角に渡り合えるのはクロム、おまえだけだ!ティル、ドラクイはクロムのサポート!サルヴァントは…な!?」

サルヴァントがクラーケンに触手で掴まれている!?サルヴァントはたちまち弱ってい…

「戻れサルヴァント、出てこいサルヴァント!」

俺は一度サルヴァントを杖の中に戻した後、再び俺の近くに呼び出した!サルヴァントはあの短期間のうちにかなり傷ついていた。

「まずい、ファラクは…無理か」

まだファラクは洞窟の中にいるらしく、呼び出すことができなかった。
今は神鯨のクロムが自慢の巨体で悪夢クラーケンと格闘しているが…だめだ、タイマン最強のように思われたクロムでも悪夢クラーケンには一歩及ばない。ドラクイやティル、サルヴァントのサポートもあってなんとか戦えている状況だ。

「アキモとコケコは…だめだ、危険すぎる」

サルヴァントがあの短期間のうちに傷だらけになるほどの強敵なのだ。アキモやコケコでは即死してしまうかもしれない。
同じ理由でリゲルやアオも悪夢クラーケンとは戦わせられない。

「ってまずい、ティルが掴まれている!」

クロムくらいの大きさになると掴まれないようだが、それ以外はばっちり掴まれる。俺は慌てながらティルを杖の中に戻しまた再召喚した。

「これはちとまずいですわね。肋骨が少々折れたかもしれませんわ…」

あの短期間でか。そこまでの破壊力をあの悪夢クラーケンは持ち合わせているのか。

「ギガヒール、ギガヒール…これでどう?少しはマシになったはずよ」

「チッ!できれば安静にしていたかったですわ」

サフンの回復により戦える状態にはなったようだが…ありゃ相当無理している。昔悪夢デスワームと戦ったことはあるが…それよりも遥かに強い。やはり、元の種族がクラーケンだからなのか?

「アァア!」

「フシュ…」

さっきまであのクラーケンは特定の誰かを掴んで集中砲火をする…という戦法だったのが、あまりにも俺のせいで逃げられすぎて腹でも立ってきたのか、戦法を変えたらしい。

自慢の触手たちを無差別に振り回し始めた!

「フシュ!」

彼らはクロムの後ろに隠れることで、なんとかあの攻撃をやり過ごせたみたいだ。

しかし、その判断がいけなかった。

「ァアぁ」

クラーケンが、ニヤリと笑った。いや、実際には笑っていなかったのだろう。だが…俺には、そう見えた。

「ァあァ!」

悪夢クラーケンの触手が、伸ばされた。その狙いはクロムでも、ドラクイでも、サルヴァントでも、ティルでもない。

俺とサフンだ。

「どうせそうやると思った!アクベス、コケコ、ヤツメ!」

「…!」

アクベスに触手から俺たちを守る壁となってもらい、アクベスの隙間からコケコとヤツメで反撃する!

「ァあアァ」

流石にコケコとヤツメの同時攻撃は効いたのだろう。奴は一瞬怯んだ。そう、一瞬だけ…
すぐにそれがどうした?とでも言いたげに攻撃を再開しようとした。

「ァアァ!」

全ての触手を振り上げ、アクベスを叩き割ろうとする!だが…

「させませんでしてよー!」
「ォォォ!」

サルヴァントやクロムたちが悪夢クラーケンに全力の体当たりをぶつけたことで、なんとかその攻撃をキャンセルすることができた。

「アクベス、大丈夫か…げ、甲羅が割れかかってる」

心配するなとでも言いたげにハサミを振り回しているが、どう考えてもかなりのダメージを喰らっていた。幸い、サフンの回復によってなんとか元通りとなったが。

「まだまだこの戦いは始まったばかり…これは、どうなる」

再び、冷や汗が海にとけた。





そしてまだ彼らは知らない…この戦いが、想像を絶する展開になるとは。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...