魔物と共にこの過酷な世界を生きる。

やまたのおろち

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2章

悪夢

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藻で肌を隠した緑髪赤眼の美少女がそこに佇んでいる。ただし……青く染まったタコの触手が、その美少女が只者ではないと示しているのだが。

「まさかこんな真夜中にスキュラと対峙する羽目になるとは…」
「できれば、ティルと呼んでほしいですわね」

「名前つきの魔物だと!?」

今まで仲間にしてきた魔物たちは基本名無しなんだが、このスキュラは持ってるんだ。てか、ここまで話が通じるなら平和に交渉とかできないのかな。

「なあ、俺たちってこうやって話通じるわけじゃん?ここは一つ、話し合いで和解するってのは…」

「なぜ見つけた獲物を逃さなければならないのです?」

「そうなるわよねぇ…」

人の言葉を理解し話せるといっても魔物は魔物。やはりこうなるのは必然か。

「うふふふふ、あなたたちは切り裂かれたらどんな悲鳴を上げてくれるのかしら?」

スキュラは不気味に笑う。…こいつもか。

かつてのファラクやヴァイたちと同じように、腐った悪意があるのだ。——昔の彼らには、まるで何者かに増幅させられたかのような邪悪さがあった。このスキュラも、同じだ。

妖艶の悪女が不気味に笑い、犬たちは遠吠えをする。俺たちがどんな攻撃をしてくるか、様子を見ているのか?……面白い。やってやろうではないか!

俺はサフンたちにこう指示を出した!

「逃げるぞ!もう目的は達成してるんだ!」
「え!?」
「!?」

そりゃ、逃げるに決まってんだろ。

「クェー!!」

キジクジャクとベガが全速力で来た道を戻っていく。もちろん…

「ちょ、ちょっと!ありえませんわ!!男なら正々堂々戦うのですよ!!」

「うっせー!!!!」

スキュラも全力で俺たちのことを追ってきている!!!これだから海なんて嫌いだ!

「ワンワン!」
「ツク!?」
「おい、犬の首で攻撃してくるのやめろよ!?」
「私の速さだと追いつけないんですもの、妨害するのは当然でしょう!?」

真っ暗な夜の中、海で生きるか死ぬかの必死の鬼ごっこをしている俺たち。ええい、そっちが妨害してくるならこっちもやってやるわ!

「ヴァイ、ちょっと火炎弾をぶち込んでやれ!」
「ガァ!」

俺はヴァイを杖から出し、火炎弾をスキュラにぶつけさせた!

「やってくれましたわね、この飛竜!いいですわ、こちらも誠意を見せてあげましてよ!」

スキュラが犬の首でヴァイを攻撃しようとした、そのときだった。

「いたっ!?」

槍が、スキュラに向かって突然飛びかかったのだ。

「あれは…デンキダツの群れか!?」
「騒ぎすぎましたわ…」

デンキダツの群れが、この鬼ごっこに乱入してきた…!!

「こ、この魚!地味に痛いから嫌いですわ!」

スキュラとデンキダツの群れが格闘している。群れといっても、俺たちが遭遇した群れと比べると圧倒的に小規模な群れだが。……逃げるなら、今だな。

「おい、あのスキュラがデンキダツに気を取られてるうちに逃げるぞ」

「ええ、そうね」 「クェ」

俺たちはスキュラにバレないようにそそくさと村へ帰った。


「よっしゃー!帰ってきた!」
「まさかスキュラと遭遇するとは思ってなかったわ…」
「ゴシャー…」

「ッ!」

あ、メアリが出迎えてくれた。地味に嬉しい。他の仲間たちは…流石に寝てるか。

「おかえり。随分遅かったやん?」

「あ、アガスだ」

「とっくに寝てるもんだと思ってたわよ」

「やっぱ仲間が帰ってこないと心配やん?ほら、みんなあの家で待っとるで」

あの家が俺がアガスたちにプレゼントした豆腐ハウスだ。外装はまあ…その…あれだが、中は一番広くて一番豪華。

外装を見せたときは流石の彼らも苦笑いしてたが、内装を見せた途端たちまち子供のようにはしゃぎ始めたのが結構印象に残っている。

流石に今日はもう疲れたので解散し、俺は我が家に帰宅した。

「たっだいまー!おっやすみー!」

もはやベッドに行く体力すら残っていないので今日はソファで寝ることにした。ソファに横たわると同時に俺の意識はあっという間にフェードアウトしていった…



普通、なんて誤魔化していた。なんにも、なかった。
別に、何かに虐げられていたなんてことはなかった。ただ、自分の人生に不安があった。怖かった。母や父はそんなこと気にしなくてもいいと言っていたが。そんな言葉で言い繕っても…自分の人生には何もないという事実は、決して変わらない。こうやって自分は何にもなれず朽ちていくのだろうか。

空虚に学校に通い、空虚に友達と遊び、空虚に勉強し、空虚な人生を送っていた。


「ッ!」

「うわ、びっくりした」

メアリの嘶きに起こされた。随分うなされていたみたいで、汗もぐっしょりかいていた。

最近、自分の元いた世界関連の悪夢を見ることが多い。——できるだけもう元の世界のことは思い出さないようにしているのだが。

「ッ!」

「ちょ、メアリさん?わかった、わかったから襟を噛んで引き摺るのやめて?」

こんなところで寝ていたら風邪をひくぞとメアリが俺の服の襟を噛み、ベッドまで引き摺っている。わかった、わかったから。

「ッ!」

「ぐふぁ!もうちっと優しくしておくれよ…!」

俺の扱い酷すぎないか?ま、いいや…

「じゃあ、おやすみ」

「ッ」

「君そこで寝るんだ…」

今度こそ俺は眠りについた。
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