アンデッド、異世界を往く

Eine

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訓練初日

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目が覚めると、見慣れない岩肌が目に入った。
抉られたようなざらざらとした天井に、昨日の事は夢ではないんだなと悟る。

「いたた……」

硬い石の台で眠っていたので体のあちこちが痛む。
以前言った通り、アリーシャに案内された部屋は酷く汚い――というより朽ちて使い物にならなかったので、最初に目覚めた岩の部屋で寝ていたのだ。
ベルフェの案内された部屋は大分マシで、しばらく掃除していないのか埃は積もっていたものの、俺が案内された部屋と違って家具が朽ち果てている、なんて事はなかった。
ベルフェによると、昔使っていた事がある部屋なんだそうだ。
俺はよくアリーシャの事を知らないが、きっと本当にベルフェの事を嫌っていたわけじゃないのだろう。
入口に立てかけている石の板を、コンコンとノックする音が聞こえた。
入っても構わないと許可すると、ゆっくりと石の板が退けられた。

「おはよう、ユウキ。昨日はよく眠れたかい?」
「……この石の台の上でよく眠れると思うか?」
「いいや全く」

やってきたのはアリーシャだった。
彼女は昨日初めてあった時とそんなに変わらない、友好的な笑みを浮かべてそう尋ねてきた。
俺が問い返すと、アリーシャは首を横に振った。
なら何で尋ねたんだと呆れて問えば、わざわざ石の台で眠るのを選んだから、好きなのかなと思ってと答えたので、ネアが彼女の整理整頓や衛生管理が絶望的だと言っていた理由が分かったような気がした。

「今日から君は私の訓練を受ける事になる。訓練場所に向かうから、早く支度してくれ」
「……支度も何も、俺は着替えを持っていないんだが」
「あ、そうだった。まあそれもネアが用意して届けてくれるだろうし、それまではその格好で我慢してて」

そう言って彼女は部屋を出て行く。

「……何してるの?早く行くよ」

・・・

「――がっ、はあっ……ぐ……」

もう何度目になるだろう。
強い衝撃によって肋骨を折り、肺の空気を全て吐き出し、時には折れた骨が内臓に刺さったりして血反吐を吐きながら、地面をごろごろと転がっていく。
何とか受け身を取って立ち上がった頃には、もう追撃が来ていて、俺は何度もそれを繰り返していた。
どうしてか一向に痛みに慣れる気配はなく、既に立ち上がるより折れた骨を再生させる速度の方が早くなりつつあった。
……いや、こんなの訓練じゃねえって!!

「これぐらい避けれなきゃ、救世主は愚か人間の国に行く事すら困難だよ。ほら立ちなよ」
「ふざけやがって……」

何とか気合を入れて立ち上がる。
欠損したり怪我した部分は即座に再生できるわけだが、しかし体力までは回復されない。
段々立ち上がるのも辛くなってきたし、既に叫ぶ余裕もない。
それでも、こんな一方的にやられ続けているのは性にあわないし、一矢報いなければという反骨心がむくむく湧いてきて、俺を立ち上がらせる言動源になっていた。

「よし、その疲れきった状態で攻撃魔法を撃ってみて」
「攻撃……?」

アリーシャの言葉に首を傾げたが、すぐに初めて魔法を使った時の事を思い出した。
攻撃するための魔法というのがどんなものなのか、どうやって撃つのか、考えているものが正しいのか、何一つとして分かってはいない。
ただ魔法を撃とうと意識を切り替えれば、身体の中の血液の流れがいっそう早くなって、命令しろと騒いでいるような感覚があった。
自分にだって噛み付こうとするような荒くれのような魔力と呼ばれるものであろうそれを、ねじ伏せて、魔法を撃つ。

「――押し流せ……!!」
「しょ、障壁!」

ねじ伏せはしたが制御は難しかったので、その魔力を水に代えた上で、ある程度指向性を持たせて押し流すように水を放った。
彼女が慌てて呪文らしきものを叫ぶと、まるで見えない壁でもあるように、そこだけを避けて水が流れていく。
だがあれが一方にだけ展開されたものなら、まだ望みはある。
魔力で作り出した水流を強引に捻じ曲げて、アリーシャの背後から強襲させる。

「うわっ!?」

それに気付いたアリーシャは、慌ててその場を飛び退いた。
さっきまでアリーシャがいた場所を、大量の水が地面を抉りながら流れていく。

「ああもうっ――火よ歌い輪を成せフェアリーダンス・サラマンドラ!!」

再度アリーシャを狙った水流は、彼女の口にした呪文で発生した大火によって蒸発した。
俺は当てられなかったかと小さく舌打ちをする。

「君、本当は魔法を使った事あるんじゃないの……?」
「まさか。どうしてそう思うんだ?」

アリーシャは不審そうな表情で、拾った植物が毒か薬かを見定めようとするように、俺を見据えている

「……さっきの魔法は、威力だけ見れば私にも匹敵する。異世界の者は武に長けているという話は有名だが、今まで戦った事のある勇者だって、最初はただの才能ある人間だった。はっきり言って、君は異常だ」

そういえばベルフェも似たような事を言っていたなと思い出す。
一度目は怯えながら、二度目は呆れたように、そんな内容の事を口にしていた。
異常と言われたってできてしまったんだから仕方ないと答えると、アリーシャは溜息を吐く。

「自分の事なんだしもうちょっと気にかけなよ……」
「だって考えても仕方ないだろ。それより、ネアは?今日も来るって言ってたと思うけど」
「え、何の話?」

あれ、話してなかっただろうか。
俺は昨日アリーシャが帰った後ネアとした話を、要点だけ摘んで説明した。
アリーシャはこめかみを揉みながら深く溜息を吐く。

「君……あんまり人と話してこなかったタイプだろ」
「よく分かったな」
「分かるよ」

その行動を見ればね、と呆れ混じりに言う。
ネアが来るなら今日はここまでにしようというアリーシャの言葉に頷いて、結局この土や血で汚れた服はどうするんだと尋ねる。

「まあ、何とかなるよ」

アリーシャは適当に答えた。
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