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70 プロポーズ
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ぼんやりと目が覚めゴロリと寝返ると、支度を終えた姿のミハイルが私の枕に寝ている。
鼻先が触れ合う近さで紫の瞳にじっと捉えられ、ぼんやりと口を開いた。
「怖いよ」
「一言目がそれか」
「んー、ミハイル・・・」
「僕はここにいる。可愛い寝顔をずっと見ていたいが、そろそろ起きる時間だ」
握られた手を抱きしめていると、ミハイルの嬉しそうな声が聞こえる。
「今日、僕は半休なんだ。昼には王宮に居るから、そっちまで迎えに行こう」
「うん・・・」
「寂しい思いをさせて、すまない」
「ほんとだよ」
「このまま一緒に休もう」
「それは大丈夫」
パッとミハイルから手を離して、起き上がると洗面所へ向かう。
ミハイルが後ろからついてくるので、気にせず支度をしていた。
「僕は寂しい!」
「お昼には会えるでしょ」
「朝、王宮まで送っていく」
「ミハイルはもう支度を済ませてるってことは、早く家を出た方がいいんじゃないの?」
「そうだ」
「この家からだと王宮すぐそこだし、いいよ大丈夫」
「家から見送ろう」
とりあえず彼の言うことを聞きながら、ヘアセットをしてもらう。昨日の歯型は首元の方なので、編み込みのポニーテールになっていた。
(少し首の詰まった服を着たら、なんとかなるな)
朝食を手早く食べると、ミハイルと玄関に向かう。
見送られるのは初めてなので、嬉しい気持ちで振り返ると、ミハイルに抱きしめられる。
「行ってらっしゃい、マール」
「行ってきます、ミハイル」
首に腕まわすと、ちゅっと唇にキスをして離れた。
「もう終わりか」
「もー、じゃあ少し屈んで」
嬉しそうに屈んで目を瞑るミハイルの顔に手を添えて、さっきよりも長く唇を合わせる。
離れようとしたら頭を押さえられて、さらに口が塞がれた。
「んんん!んっ・・・んあぁ」
抵抗せずに唇を受け入れていたら、舌が入ってくる。
応えるように絡ませていたら、幸せに満たされた紫の瞳と目が合った。
「はぁ、マール」
「はあっ、朝から濃厚過ぎるよ」
「じゃあ夜ならいいのか」
「そうだね、楽しみだね」
「やっぱり待てない」
家に引き込まれそうになるのをなんとか抜け出し、やっと家から出られた。
最後は幸せそうなミハイルに手を振って、王宮までの道を早足で歩く。
(幸せだな・・・)
だけど、私が好きって言う度にミハイルは不安そうだった。
昨日のミハイルを表情を思い出し、胸が痛む。
このまま私の気持ちは信じて貰えず、許されないまま結婚するのだろうか。
(それは、幸せ・・・なのかな)
彼に恋に落ちたからこそ、幸せになって欲しい。
落ち込む気持ちに、歩くスピードが遅くなると、隣から背中を押される。
「先輩!遅れますよ!」
「あれ、いたんだ」
一緒に早足で歩き出す。
「ずっと隣で話しかけてたのに。ひどい」
「ごめん、ごめん。アルノーも今日遅いんだね」
「寝坊しちゃって、寝癖も直せてないんすよね」
耳の横にぴょんとはねた黒髪が、歩く度に揺れている。
「ふふっ」
「もー、笑わないでくださいよ!」
はねた髪を見て、笑い合いながら支援室の塔まで来たので、足を緩める。
「耳にかけたら、誤魔化せるんじゃない?」
「はねてる所わからないんで、先輩やってください」
「はいはい」
足を止めて頭を屈ませるので、はねた黒髪に触れる。
サラリと指を通し、ジャラりとピアスが揺れる耳にかけた。
露になった青い瞳は、照れるように私を眺める。
思いもよらない近さに、後悔した。
(あ、やっちゃった)
サッと離れると、顔が赤くなったアルノーと目が合い、視線を逸らして歩き出す。
「先輩!置いてかないでくださいよ!はねてるとこ、どうなりました?」
見上げると、黒髪を耳にかけて露になった泣きボクロと見覚えのあるピアスがよく目に付くようになっていた。
はねた髪は少し残っていて、また揺れている。
「んー、ちょっと残ってるけど、可愛いってことにしといたら?」
「それならいいっすね」
はねた髪を揺らす彼は、満足そうに頷いていた。
「この髪型似合ってます?」
「うん、アルノーは顔立ちいいから何でも似合うんじゃない」
「先輩も今日の髪型可愛いですね」
「はい、どうも」
ひどいと隣から言われている言葉を聞き流し、魔法支援室で一緒に仕事に取り掛かった。
5年間、毎日こんな距離感だったので、つい彼に触れてしまう。
(気を付けよう。じゃないと・・・)
ミハイルを思い浮かべ、背筋がぶるりと震えた。
お昼になり、一旦片付けているとアルノーに呼ばれる。
「なんか王子様が迎えに来てますよ」
「えっ」
急いで部屋を出ると正装に着飾ったミハイルが立っていた。
私に膝枕をした時に読んでいた小説から飛び出して来たような姿だ。
キラキラと輝く王子様は、私に手を差し出している。
「迎えに来た」
「どうし、たの・・・」
支援室の方からみんなの暖かい視線を感じ、振り返るとユリアさんが微笑んでいた。
「マール、良かったわね。行ってらっしゃい」
その言葉に頷きながらも、王子様はかなりの注目を浴びている。
手を取ると、そこから王子様を連れ去るように研究室の方へ走り出した。
「なんでそんな格好なの!式典はまだ先でしょ!」
「僕のお姫様は照れているのか」
「出かけるって言ってたけど、舞踏会にでも行ってたの!?」
「マールとしか行かない」
「小説の中だけだよ!なんでこんなことに・・・」
みんなミハイルの姿を見て、目を奪われるように立ち止まる。
(朝はこんな格好じゃなかったのに!)
魔法支援室の塔を出ると、さらに周囲がざわめき出す。
急いで足を早めると、その先にミリアとクラリスが見えた。
「マール良かったね!」
「ふふふっ素敵だね~」
2人は私達を見て微笑んでいる。恥ずかしくなりながらも、手を振り返し早足で過ぎ去る。
「マール嬉しそうだな」
「どう見ても困ってるよ」
繋いでる手からミハイルの嬉しい感情が伝わる。
連れ去られている王子様の笑顔は、とても眩しく感じた。
周囲からの視線はみんな王子様を見ているのに、その紫の瞳は私しか映していない。
(今度こそ貴方は私の・・・もの)
みんなの視線からミハイルを奪うように、力強く手を引いて走り出した。
その気持ちに応えるように、ぎゅっと手を握られ、自然と笑顔になっていた。
魔法研究室の塔に入り廊下を走っていると、緑のふわふわの髪がこっちを振り向いた。なぜが私達と一緒に走り出す。
「あははっ!ミハイル最高だね」
「黙れ」
「13年も親友なのに酷くないか。あなたもそう思いません?」
「マールに話しかけるな」
「はいはい。じゃあね、王子様。頑張って」
ネルクは立ち止まると、手を振っている。
みんなの視線を振り切って、やっと彼の研究室に入った。
「はあっ、はあっ、ミハイル!!」
息を切らしている私とは反対に、キラキラとした王子様に抱き上げられた。
「マール」
息が上がりながら困惑した状況に、まだ飲み込めないでいる。ゆっくりソファーに座ると、王子様はキラキラと輝くオーラで私の瞳を覗き込んだ。
「その・・・今日の姿はどうだ」
「王子様だよ」
「マールが好きそうだ」
「そうだね、ミハイルとても格好良いよ。凄く似合ってる」
「じゃあ毎日これでいよう」
「私はいつものミハイルが好きだよ」
「後で君の好きなミハイルに着替える」
「ええ・・・」
着替えがあるならどうしてその格好なのかと、頭を抱えそうになる手を取られ、指輪に唇が落とされた。その姿に目が奪われる。
「今はマールだけの王子様だ」
私の理想の王子様に見蕩れていると、甘く溶けるような紫の瞳と見つめ合う。
顔がとても熱いが、それでも目の前の王子様に夢中になっていた。
「ミハイル・・・」
近づく王子様に、自然と目を瞑り甘い唇を受け止める。
甘さで胸いっぱいになり、ゆっくりと離れると微笑み合った。
お互いの表情は幸せに満ちている。
「ふっマール」
「ふふっミハイル」
「マールの視線を独占したい」
「ミハイルしか見てないよ」
「僕の全てを君にあげるから、マールが欲しい」
「プロポーズみたいだね」
「そうだ。返事は「はい」が聞きたい」
「私の返事はーーーー貴方が好き」
私の精一杯の気持ちを、貴方に伝えたくて
返事を「好き」と言ったのに
ミハイルはその言葉を悲しそうに受け止めていた。
(ミハイル、貴方が好きなんだよ)
信じて欲しくて、表情で気持ちを伝えるように、甘く蕩けるように見つめていたのに
目の前の王子様は、甘く見つめ返してはくれなかった。
私の気持ちが映らない瞳を覗き込む。
この時「はい」と言っておけば、良かったのだろうか。
私はまた、傷付いた貴方を瞳に映した。
鼻先が触れ合う近さで紫の瞳にじっと捉えられ、ぼんやりと口を開いた。
「怖いよ」
「一言目がそれか」
「んー、ミハイル・・・」
「僕はここにいる。可愛い寝顔をずっと見ていたいが、そろそろ起きる時間だ」
握られた手を抱きしめていると、ミハイルの嬉しそうな声が聞こえる。
「今日、僕は半休なんだ。昼には王宮に居るから、そっちまで迎えに行こう」
「うん・・・」
「寂しい思いをさせて、すまない」
「ほんとだよ」
「このまま一緒に休もう」
「それは大丈夫」
パッとミハイルから手を離して、起き上がると洗面所へ向かう。
ミハイルが後ろからついてくるので、気にせず支度をしていた。
「僕は寂しい!」
「お昼には会えるでしょ」
「朝、王宮まで送っていく」
「ミハイルはもう支度を済ませてるってことは、早く家を出た方がいいんじゃないの?」
「そうだ」
「この家からだと王宮すぐそこだし、いいよ大丈夫」
「家から見送ろう」
とりあえず彼の言うことを聞きながら、ヘアセットをしてもらう。昨日の歯型は首元の方なので、編み込みのポニーテールになっていた。
(少し首の詰まった服を着たら、なんとかなるな)
朝食を手早く食べると、ミハイルと玄関に向かう。
見送られるのは初めてなので、嬉しい気持ちで振り返ると、ミハイルに抱きしめられる。
「行ってらっしゃい、マール」
「行ってきます、ミハイル」
首に腕まわすと、ちゅっと唇にキスをして離れた。
「もう終わりか」
「もー、じゃあ少し屈んで」
嬉しそうに屈んで目を瞑るミハイルの顔に手を添えて、さっきよりも長く唇を合わせる。
離れようとしたら頭を押さえられて、さらに口が塞がれた。
「んんん!んっ・・・んあぁ」
抵抗せずに唇を受け入れていたら、舌が入ってくる。
応えるように絡ませていたら、幸せに満たされた紫の瞳と目が合った。
「はぁ、マール」
「はあっ、朝から濃厚過ぎるよ」
「じゃあ夜ならいいのか」
「そうだね、楽しみだね」
「やっぱり待てない」
家に引き込まれそうになるのをなんとか抜け出し、やっと家から出られた。
最後は幸せそうなミハイルに手を振って、王宮までの道を早足で歩く。
(幸せだな・・・)
だけど、私が好きって言う度にミハイルは不安そうだった。
昨日のミハイルを表情を思い出し、胸が痛む。
このまま私の気持ちは信じて貰えず、許されないまま結婚するのだろうか。
(それは、幸せ・・・なのかな)
彼に恋に落ちたからこそ、幸せになって欲しい。
落ち込む気持ちに、歩くスピードが遅くなると、隣から背中を押される。
「先輩!遅れますよ!」
「あれ、いたんだ」
一緒に早足で歩き出す。
「ずっと隣で話しかけてたのに。ひどい」
「ごめん、ごめん。アルノーも今日遅いんだね」
「寝坊しちゃって、寝癖も直せてないんすよね」
耳の横にぴょんとはねた黒髪が、歩く度に揺れている。
「ふふっ」
「もー、笑わないでくださいよ!」
はねた髪を見て、笑い合いながら支援室の塔まで来たので、足を緩める。
「耳にかけたら、誤魔化せるんじゃない?」
「はねてる所わからないんで、先輩やってください」
「はいはい」
足を止めて頭を屈ませるので、はねた黒髪に触れる。
サラリと指を通し、ジャラりとピアスが揺れる耳にかけた。
露になった青い瞳は、照れるように私を眺める。
思いもよらない近さに、後悔した。
(あ、やっちゃった)
サッと離れると、顔が赤くなったアルノーと目が合い、視線を逸らして歩き出す。
「先輩!置いてかないでくださいよ!はねてるとこ、どうなりました?」
見上げると、黒髪を耳にかけて露になった泣きボクロと見覚えのあるピアスがよく目に付くようになっていた。
はねた髪は少し残っていて、また揺れている。
「んー、ちょっと残ってるけど、可愛いってことにしといたら?」
「それならいいっすね」
はねた髪を揺らす彼は、満足そうに頷いていた。
「この髪型似合ってます?」
「うん、アルノーは顔立ちいいから何でも似合うんじゃない」
「先輩も今日の髪型可愛いですね」
「はい、どうも」
ひどいと隣から言われている言葉を聞き流し、魔法支援室で一緒に仕事に取り掛かった。
5年間、毎日こんな距離感だったので、つい彼に触れてしまう。
(気を付けよう。じゃないと・・・)
ミハイルを思い浮かべ、背筋がぶるりと震えた。
お昼になり、一旦片付けているとアルノーに呼ばれる。
「なんか王子様が迎えに来てますよ」
「えっ」
急いで部屋を出ると正装に着飾ったミハイルが立っていた。
私に膝枕をした時に読んでいた小説から飛び出して来たような姿だ。
キラキラと輝く王子様は、私に手を差し出している。
「迎えに来た」
「どうし、たの・・・」
支援室の方からみんなの暖かい視線を感じ、振り返るとユリアさんが微笑んでいた。
「マール、良かったわね。行ってらっしゃい」
その言葉に頷きながらも、王子様はかなりの注目を浴びている。
手を取ると、そこから王子様を連れ去るように研究室の方へ走り出した。
「なんでそんな格好なの!式典はまだ先でしょ!」
「僕のお姫様は照れているのか」
「出かけるって言ってたけど、舞踏会にでも行ってたの!?」
「マールとしか行かない」
「小説の中だけだよ!なんでこんなことに・・・」
みんなミハイルの姿を見て、目を奪われるように立ち止まる。
(朝はこんな格好じゃなかったのに!)
魔法支援室の塔を出ると、さらに周囲がざわめき出す。
急いで足を早めると、その先にミリアとクラリスが見えた。
「マール良かったね!」
「ふふふっ素敵だね~」
2人は私達を見て微笑んでいる。恥ずかしくなりながらも、手を振り返し早足で過ぎ去る。
「マール嬉しそうだな」
「どう見ても困ってるよ」
繋いでる手からミハイルの嬉しい感情が伝わる。
連れ去られている王子様の笑顔は、とても眩しく感じた。
周囲からの視線はみんな王子様を見ているのに、その紫の瞳は私しか映していない。
(今度こそ貴方は私の・・・もの)
みんなの視線からミハイルを奪うように、力強く手を引いて走り出した。
その気持ちに応えるように、ぎゅっと手を握られ、自然と笑顔になっていた。
魔法研究室の塔に入り廊下を走っていると、緑のふわふわの髪がこっちを振り向いた。なぜが私達と一緒に走り出す。
「あははっ!ミハイル最高だね」
「黙れ」
「13年も親友なのに酷くないか。あなたもそう思いません?」
「マールに話しかけるな」
「はいはい。じゃあね、王子様。頑張って」
ネルクは立ち止まると、手を振っている。
みんなの視線を振り切って、やっと彼の研究室に入った。
「はあっ、はあっ、ミハイル!!」
息を切らしている私とは反対に、キラキラとした王子様に抱き上げられた。
「マール」
息が上がりながら困惑した状況に、まだ飲み込めないでいる。ゆっくりソファーに座ると、王子様はキラキラと輝くオーラで私の瞳を覗き込んだ。
「その・・・今日の姿はどうだ」
「王子様だよ」
「マールが好きそうだ」
「そうだね、ミハイルとても格好良いよ。凄く似合ってる」
「じゃあ毎日これでいよう」
「私はいつものミハイルが好きだよ」
「後で君の好きなミハイルに着替える」
「ええ・・・」
着替えがあるならどうしてその格好なのかと、頭を抱えそうになる手を取られ、指輪に唇が落とされた。その姿に目が奪われる。
「今はマールだけの王子様だ」
私の理想の王子様に見蕩れていると、甘く溶けるような紫の瞳と見つめ合う。
顔がとても熱いが、それでも目の前の王子様に夢中になっていた。
「ミハイル・・・」
近づく王子様に、自然と目を瞑り甘い唇を受け止める。
甘さで胸いっぱいになり、ゆっくりと離れると微笑み合った。
お互いの表情は幸せに満ちている。
「ふっマール」
「ふふっミハイル」
「マールの視線を独占したい」
「ミハイルしか見てないよ」
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「プロポーズみたいだね」
「そうだ。返事は「はい」が聞きたい」
「私の返事はーーーー貴方が好き」
私の精一杯の気持ちを、貴方に伝えたくて
返事を「好き」と言ったのに
ミハイルはその言葉を悲しそうに受け止めていた。
(ミハイル、貴方が好きなんだよ)
信じて欲しくて、表情で気持ちを伝えるように、甘く蕩けるように見つめていたのに
目の前の王子様は、甘く見つめ返してはくれなかった。
私の気持ちが映らない瞳を覗き込む。
この時「はい」と言っておけば、良かったのだろうか。
私はまた、傷付いた貴方を瞳に映した。
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