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29 愛しのお姫様へ ①

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いつもより早い時間に目が覚める。
ミハイルは朝食を作ってくれているのか、今日は隣に温もりがなかった。


(そういえば、今日は式典に出席するって言ってたっけ・・・)


部屋を出ると、正装をした王子様が立っていた。前髪をあげているので甘い顔立ちがより目立ち、彼を飾る豪華な衣装はより輝く魅力を引き出している。


「おはよう、僕のお姫様」


跪くと私の手を取り、薬指に唇が触れた。

その光景は私が愛読している小説の憧れていたシーンそのものだった。

(これは・・・王子様がプロポーズを申し込む時の場面だ・・・)

息を飲むような美しい仕草に見蕩れてしまい目が離せない。心拍数が上がりすぎてそのまま倒れてしまいそうだ。

フラリと一歩下がると、掴まれていた手を引き寄せて目の前の王子様に支えられる。流れるように私をお姫様抱っこすると、よりキラキラと輝く顔が近くなり、直視ができなくなった。


「ふっ、そんなに喜んで貰えるなら毎日この格好でいようか」

「そんなの、心臓がもたない・・・」

「じゃあ、このままキスをしたらお姫様は恋に落ちるかな?」

「死んじゃうよ」

「それは、困るね」

目のやり場に困り、先ほどキスをされた左手を見つめる。魔力が込められていたのかキラキラと輝いている。それはまるで指輪のようにも見えた。

「指、光ってるように見えるんだけど・・・」

「ああ、今日はマールの傍にいられないから。僕からのお守りだよ」

「指輪、みたいだね」

(さっきの仕草もプロポーズみたいだったし・・・)

「僕の愛の形だよ」

「綺麗な魔力だね・・・でも、これって・・・」

「今日、だけね。長くは持たないから1日で消えるよ」

「そう、なんだ・・・」

「いつでも姫を迎えに行くよ」

王子様のような彼は甘く微笑むと、前髪に唇を落とす。私の顔はさらに熱くなり、恥ずかしさから逃げるように顔を逸らした。

「あんまり動かないで、落ちちゃうよ」

「もう、おろして・・・」

「だめだよ。もっと可愛い顔を僕に見せて?」

先程からいつもに増して甘すぎる言葉に気持ちが追い付けず、いっぱいいっぱいになる。

心臓の高鳴りから逃げるように、顔を逸らしていたら耳に熱い唇が触れた。

「好きだ」

「っ!!!」

「こっち、向いて」

(心臓が、もう持たない・・・)

頭が真っ白になり、ミハイルに真っ赤な顔を向けた。キラキラと輝くオーラを纏う紫の瞳に捉えられると、甘く見つめられる。

その表情に思わず息が止まっていると、甘い唇が優しく触れた。

「好き」

「んっ・・・」

「君が好きなんだ」

「はぁ・・・」

甘い言葉と優しいキスが交互に交わされる。

「ミハイル・・・」

「好きだよ、マール」

最後に微笑む彼の顔は、悲しそうだった。
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