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27 星が瞬く夜に

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あれからミハイルの言う通り、朝から晩まで毎日一緒に過ごしている。

朝一緒に起きて支度をしている間に作ってくれた朝食を食べ、魔法支援室まで送ってもらい、彼の研究室でお昼を食べて、水晶に連絡をして帰宅する。

一緒に帰れる日は夕食の献立を2人で考えながら食材を買い、作り方を教えて貰いながらミハイルがほとんど作った美味しい夕食を食べる。

たまに自分達の家周辺を散策がてらに、私の好きなカフェやケーキショップに寄って帰る日もある。

そんな一日が終わると、私と同じお風呂を使うようになったミハイルの香りに落ち着きながら、手を繋いで眠る。

最初はそんな毎日が続いていた。


だけど彼との生活は楽しいだけではなく、辛い時や悩んでいる時も一緒に過ごしてくれた。

私が仕事で落ち込んでいる時やイライラしている時は、いつも甘い紅茶を入れて優しく話を聞いてくれる。

自分の魔力のことで悩んでいたら、昔からずっと努力してきた彼の経験に基づいたアドバイスをしてくれる話は非常に興味深く参考になった。

国一番の魔力持ちのからのアドバイスで、少しずつ魔力の使い方を改善していけるようになり、ユリアさんにも褒めて貰えて自信が持てるようになった。


ミハイルに支えて貰ってばかりの私は、何か彼にできることはないかと提案したら、マッサージをして欲しいと言われたので、寝る前に彼の綺麗な手を揉みほぐしている。

別の場所をマッサージしようとすると、やんわり止められるので、せめて上達できるように、夕食後に共有スペースのソファーでマッサージに関する本を読んでいる。何故か彼も隣で、私の愛読しているミハイルにそっくりな王子様が登場する恋愛小説を読んでいる。

毎晩一生懸命マッサージしていると、もの凄く喜んでくれる。彼の魔力だったら簡単に疲れなど取り除けるはずなのに。



こうして1日のほとんどを、ミハイルと過ごしている。

そんな日常に飽きることはなく、むしろ離れている時にも、ふとミハイルのことを考えるようになっていた。


彼と出会うまで、ミハイル・エンリーと結婚するという実感など無かったが、この毎日の繰り返しを、一緒に生きていくことが結婚なのだと思えるほどに、私の気持ちは変わっていた。


******


残業を終わらせ、いつも通りミハイルと王宮からの道を帰っている。


寒いから空気が澄んでいるのか、夜空にキラキラと星が瞬いている。

いつもだったら星空なんてなんとも思わないが、今日は輝く景色を堪能したくて冷たい空気を一気に吸い込んだ。


「はぁ・・・さむっ」


ぶるりと震えると、隣にいる彼にマフラーを隙間なく直される。あたたかいマフラーに顔を埋めると、ミハイルの香りに寒い気持ちが落ち着いた。

彼の少し冷えた手を握り返し、ありがとうと微笑むと、隣で優しく微笑み返してくれる。

(幸せ・・・だな)

ミハイルが魔法にかかって、私の生活は一変した。

最初はこの変化についていけなかったが、今はむしろ・・・


「ねえ、ミハイル。家に帰ったら紅茶の入れ方教えてくれない?」




家に入ると、マフラーを外してくれる。自然と向き合う形になり、ミハイルの顔を見つめるが、そのまま横を通り過ぎ自分の部屋に荷物を置きに行ってしまった。

その後ろ姿を追いかけるように眺め、抱きしめられなかった気持ちを塞ぐように、自分の部屋に入って荷物をそっと置く。

(あの時みたいに、触れ合うことはなくなったな・・・)

新婚旅行から戻ってからも、彼の優しさは変わらない。だけどピタリとくっついていた温もりは離れてしまい、あの時に絡みついてた鎖が解かれた体には、寂しさが残った。


新婚旅行の思い出をぼんやりと振り返っていると、部屋の外から声をかけられたので、急いで扉を開ける。


「ふっ、そんなに慌てなくても僕は逃げないよ。一緒に紅茶入れてみようか」

「あ、そうだね!」


目の前の彼に思わず飛びつきそうになったが、グッと抑えて彼の後を追いかけるようにキッチンに入った。


お湯を沸かすところから、茶葉の説明まで丁寧にしてくれる。

あとは蒸らして置くだけになったので、自分でやると提案してみた。ミハイルは素直に頷くと、ソファーで座って待ってくれている。


(紅茶にも挑戦できたし、料理も最近切るだけしかまだ出来てないけど・・・いつか自分でも作れるようになったら、ミハイルに食べてもらいたいな)


「あ・・・」


時間がどれくらい経ったのかを忘れてしまい、もう感覚でミハイルの元へ持っていく。


教えて貰った注ぎ方で、彼に紅茶を手渡し飲んで貰うと、ミハイルが固まってしまった。

慌てて自分の分を口に付ける。


「う・・・渋い・・・」

「マール・・・美味しいよ」

「とても渋いって顔してるよ」

「ふっ、入れてくれてありがとう」

「ふふっ、練習するね」

「ああ、味見は僕にさせてね」

「ミハイルみたいに美味しく入れられるようになりたいな」

「ふふっ、可愛いね」

お互い笑い合っていると、頭を撫でようとする手が止まり、ミハイルが話題を変えた。

「そういえば最近忙しそうだね」

「え・・・うん。今日は魔法支援室でねーーーー」

いつも通り今日の出来事を話すが、ミハイルとの距離を感じる。

(私の話に耳を傾けるミハイルはいつもと変わらず楽しそうにしているのに・・・どうして・・・)

いつの間にか冷めた紅茶を見つめていると、紫の瞳に覗き込まれる。こんなに距離は近いのに、彼が遠くに感じた。

「どうしたの、マール」

「旅行に帰ってきてから、その・・・あんなに近くにいたのに・・・」

ずっと悩んでいたことを話すと、ミハイルに真っ直ぐ見つめられる。


「マールの気持ちを待つことにしたんだ」


(3ヶ月で魔法は解けてしまうのに・・・)


恋に落ちる魔法にかかってもうすぐ1ヶ月だ。


「ミハ、イル・・・」


しなやかな指が髪を掬いとると、唇が触れた。肌には触れていないのに、柔らかい唇の感触を感じる。


「マール、僕は幸せだよ」
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