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46 アルノー・リダウト ①

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翌朝お腹が減って早めに起きたがアルノーに心配されない為にも、朝からゆっくり湯に浸かりマッサージをしてなんとか顔の浮腫みを取る。
薄く化粧をするとピアスを試しやすいようポニーテールにし、今日は少し暖かいので薄手のワンピースで出かけることにした。

部屋を出ると、共有スペースでゆっくり紅茶を飲んでいるミハイルと目が合った。


ガチャン!!!


1階まで降りると彼が紅茶を置いて早足で近寄って来た。

「ちょっと出かけてくるね」

「その格好・・・」

「なに?おかしいかな?」

「1人で出かけるのか」

「違うよ、昨日の後輩に買い物付き合ってもらうの」

「・・・男か」

「そうだけど」

「男女2人で、出かけるなんてふしだらだ!」

「普通に後輩だし、それにあなたと結婚することだって知ってるし」

「・・・っ!そんな格好で出かけるなんて、相手は勘違いするかもしれないぞ」

「しないよ!ただの後輩だってば」

「はあ・・・どこまで行くんだ」

「わからないよ、彼が知ってるんだもん」

「わからないのにノコノコ付いていくのか!」

「案内してもらうんだから、仕方ないでしょ」

「・・・じゃあこれを持っていけ」

そういうと彼が魔法にかかる前から小指にはめていた指輪を外す。

私の手を取り、人差し指にそっとはめる。

(・・・っ)

思いがけない彼の行動に、心臓がドキリとしてしまった。


「昨日は夕食を食べていないだろう、そんな生活をしていたら体を壊すぞ。今日は特別に夕食を用意しといてやるから、夕食まで・・・いや、ティータイムまでには帰って来い」

「ええ・・・お母さんみたい」

「おか、お母さん・・・」


ミハイルと言い合っていると、あっという間に時間が経っていた。そろそろ行かないと、もう家の前まで来ているかもしれない。


「夕食はどうも、とりあえずもう行くね」

彼にずっと目の前に立たれて動けなかったため、横を通り過ぎ玄関へ向かう。

「おい、どこで待ち合わせなんだ」

「もう!ついてこないでよ」

「わざわざ僕が見送ろうとしているのに」

「頼んでないし!すぐそこだから見送りもいらない」

「なっ、そんなに邪魔されたくないのか!」

「そうだよ!じゃあもう行くね」


ガチャリと扉を開けると、もう既に来ていたアルノーと目が合う。

「ごめん、お待たせ」

「門限、守れよ」

背中から聞こえる声を無視してアルノーの元へ行く。

ミハイルとアルノーは目が合ったみたいで「今日はマールさんをお借りします」とそれだけ言うとアルノーは歩き出す。

家の方から視線を感じつつ、アルノーについていく。

(遅れたから、アルノー怒ってるのかな)

「今日休みなのにごめんね、案内してもらうことになっちゃって・・・お腹減ってる?言われた通りあの後寝たんだけど起きたら夜中でさ、夕飯食べ損ねちゃって私お腹ペコペコなの。昨日はアルノーのおかげで元気付けられたし、今日は私が奮発してご馳走するよ!」

「奮発しなくていいっすよ、別に怒ってる訳じゃないんで」


前に歩いていたアルノーが振り返る。

「ただ・・・嫉妬してました。俺の方が先に魅力に気付いてたのになって」

「嫉妬?」

「先輩、結婚するの早すぎっすよ」

「年齢としてはギリギリだったんだけど、決まったのは一瞬だったね」

アルノーはため息をつくとチラリと私を見る。

「結婚すると、こうしてずっと先輩といられるんすね」

「結婚しなくても、王宮で働いてたら一緒だよ」

「わかってないなあ・・・」

悲しそうにアルノーは笑う。

いつものおふざけなアルノーと雰囲気が違い戸惑った。

(休日に会うから?)


隣で歩くアルノーをチラリと観察してみる。

今日は黒髪が上げられていて、いつも前髪にかかっていた切れ長な青い瞳がよく見える。服装はシンプルで白いシャツの袖がまくられていて、そこから覗く色白い肌にジャラりと着けられたアクセサリーが目立つ。

綺麗な顔立ちのアルノーの耳に、今日もたくさんのピアスが着いている。

「アルノーはオシャレさんだね」

「ははっ、妹にもよく言われます」

「アルノーお兄ちゃんなんだ」

「うん、そうだよ。お兄ちゃんって呼んで」

アルノーは私の頭を撫でると、いたずらに笑う。

「私は妹さんじゃないよ」

「じゃあ、マールねーちゃん!」

「ふふっ、それでいいね」


目の前の馬車が横断するのを待つために私達は立ち止まる。

突然アルノーに腕をつかまれると、じゃらりとピアスが耳元に触れた。


「マール」


アルノーの近さにビクリと固まるが、なかなか動き出さない。

「ふっ、マールねーちゃんの腹の虫が叫んでるんで、お昼食べに行きましょうか」

「ちょっと、言わないでよ!」

いつものアルノーに戻り、私はホッとした。




アルノーのオススメのお店に連れてきてもらう。昨日の落ち着いた雰囲気とは違い、ここはまだ新しいのか綺麗なお店だ。

「メニューの中でこの3つ先輩好きそうっすけど、全部頼んで分けます?」

「うーん・・・そうしよ!」

アルノーが注文してくれる。

「よく私が気になってるのわかったね」

「ふっ、何年先輩と食堂でご飯食べてると思ってんすか」

「アルノーが入職してからずっとだから、5年だったよね」

「覚えててくれたんすね」

「そういえばアルノーとこうして出かけるのは、あんまりなかったね」

「ほんと後悔してます」

「後悔しなくても、いつでもご飯くらいご馳走するじゃない」


3品料理が揃い、アルノーが器用に取り分けてくれる。私はありがたく受け取ると、食べ始めた。

「・・・!!美味しい!さすがアルノーのオススメだけあるね」

「ふっ・・・良かったです。昨日夕飯食べてない分、いっぱい食べて下さい」

私の食べる姿を見て、アルノーも嬉しそうに笑った。


綺麗に食べ終えると、食後の紅茶を飲む。

(今日はアルノーによく見つめられる気がするな)

「そういえば先輩、今日の格好似合ってます」

「ピアスを試しやすように、してきただけだよ」

紅茶を飲みながら、耳が出るようにしたと指で伝える。


その仕草を見つめアルノーは甘く微笑んだ。


「かわいい」


ゴフッ

思わず飲んでる紅茶を零しそうになる。

「あーあ、せっかく可愛いワンピース着てるんだから、汚さないでくださいよ」

アルノーは立ち上がり私の席にこぼれてないか拭きに来てくれる。

「ア、アルノーが変なこと言うから」

「思ったことしか言ってないっすよ」

いつの間にか青い瞳との距離が近くなり、びっくりする。

「どこも汚れてないっすね」

「ありがとう・・・」



紅茶を飲み終えると、アルノーが支払ってくれていた。

「今日は私が払うよ!」

「先輩、今日ピアス買うんすよね、余裕残しといた方がいいっすよ」

「えっ、相場知らないんだけど、そんなに?」

急に財布の中が心配になる。

(あんまり高いと買えないかも・・・)

「ははっ、そんなに身構えなくても大丈夫ですって。値切ります」

「アルノーは頼れる男だね!」

アルノーの隣で拍手すると、少し照れたように笑う。

「ふっ・・・それに俺も新調したかったんで、一緒に買うと割り引いて貰えると思いますよ」

「アルノーがいて良かった!」

とりあえず持ち上げておく。

「先輩、勘違いするんでこれ以上は静かにしといてください」
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