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44 喪失 ①

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次の日は休みのため、ゆっくり起きる。

時間を確認すると昼ぐらいまで寝てしまっていた。

3ヶ月ミハイルと一緒の寝室で寝ていたので、自分の部屋で目覚めたのは久しぶりだ。昨日は泣き疲れて寝てしまったので気が付かなかったが、ミハイルの温もりが隣にないことに寂しさを感じる。

「はあ・・・慣れていかないと、いけないよね・・・」


彼は休みの日も王宮にいるか自分の部屋にいるかで、ほとんど家では顔を合わせない。昨日、お互いに話す時間を少し取ろうと提案した手前、今日は家にいるのか確認するために部屋を出た。

ガチャーー

扉を開けるとミハイルが目の前にいた。

「びっ、くりした・・・どうして私の部屋の前に立ってるの?」

「その・・・昼だから、食卓を使う順番の確認に来た」

歯切れの悪い返事をする彼に顔を見られる。

「ひどい顔をしているな」

「わかってるよ。あなたみたいに綺麗な顔じゃなくてすいませんね、今洗ってきますよ」

嫌味っぽく言うと洗面所へ向かう。

鏡を見ると彼の言うとおり、目がパンパンだ・・・

泣き疲れた顔を水で冷やし、さっぱりする。

「はぁー・・・」

(今日は家にいる日なのかな・・・ちょっと1人になりたいし、気分転換にお昼は外で食べに行ってこよう)

出たところでまた彼が待っていた。

「まだなにか?あ、食卓ならあなたが先に使ってって返事してなかったね」

ごめん、と付け加えるが彼は何か話したげにこちらを見ている。

「その、昨日言っていたお互い話す時間を作るということだが、具体的にはどうしたらいい」

人と関わることを好まない彼なりに、昨日考えて譲歩してくれたのだろう。

「うーん、帰ってきた時に今日あったことを話すとか、お昼何食べたかとか、自分のことを話してみるのはどう?あなたはこんな会話、意味のないつまらないものだ!とか考えると思うけど、お互いのことを知るためにも、まずは些細なことから話さないと何も始まらないと思う」

「それは・・・そうだな」

納得してくれたみたいでホッとする。

「じゃあ私は外で食べてくるよ」

「ああ」

元のミハイルとはこんなやり取りでさえ、したことなかったなと考えると急成長を感じる。





簡単に準備を済ませ、共有スペースから彼の視線を感じつつ家を出た。

いつもだったらミハイルが隣にいる風景に1人で歩いていると、急に寂しさが込み上げてくる。自然とピアスをもうしていない耳に触れ、ピアス穴の手触りを感じていた。また泣きそうだ。

ミハイルを思い出さないためにも、いつもと違う通りで昼食を食べることにした。



カランカランーー

落ち着いた雰囲気の店に惹かれ店内に入ると、そこには見覚えのある姿が見えたので店を出ようかと振り返る。


「あれ、先輩じゃないっすか。今日は1人ですか?良かったら前の席空いてるんで」

折角1人でゆっくり出来るかと思ったが、アルノーに見つかってしまった。

「あれっ、・・・偶然だね」

引き返せなくなった私は諦めてアルノーの向かいに座る。

「今、俺を見て店を出ようとしてませんでした?」

「さすがアルノー、鋭いね」

「先輩わかりやすいっすもん」

「そうかな~ミステリアスな方だと思ってたんだけど」

「ははっ、ないないない!・・・で、先輩はどうしてそんな顔してるんですか?」

アルノーはさっきまでの笑顔が消え真顔になる。

「え・・・っと、それもお見通し?」

「はい」

私は深くため息をつくと、心配性のアルノーに全てを打ち明けた。

「・・・先輩はそれで結婚して幸せになれるんですか?ずっとその気持ち抱えたまま、一生あの人と過ごすんですか」

「そうだね・・・」

「全部おかしいですよ!結婚は勝手に決められ、自分に惚れる魔法にかかった相手を好きになって、魔法が解けたら好きじゃないって言われた相手と結婚するなんて」

「ちょ、ちょっと落ち着いて」

今にも立ち上がりそうなアルノーの手を掴むと、そのまま私の手首を掴み返された。

「・・・先輩、その結婚やめませんか」

私は首を横に振る。アルノーが話を聞いてくれただけも嬉しい。

「アルノー、私のことを親身に考えてくれてありがとう。私に、こんなにいい後輩がいてくれて幸せだよ」

「それなら、「お待たせしました。Bセットでございます」」

アルノーの言葉が丁度遮られ、掴んでいた手がパッと離れる。

私は続きを聞こうと、アルノーを見た。

「先輩、お腹すいてるんでしょ。食べちゃってください」

「ふふっ、それもバレてたんだ」

「ええ、でも気づくのが遅すぎました」

アルノーのよく分からない返事を受け流し、目の前の食事を楽しむ。



食べ終えるとランチの時間が終わり、店を出ないといけなかった。

「アルノー、本当にご馳走になちゃっていいの?」

「先輩元気なかったんで」

「ありがとう~!いい子だねえ」

私は背伸びしてアルノーの黒髪を撫でる。

「ちょっと、、乱暴すぎですって」

頭を撫でる手を掴まれる。

「そういえば、アルノーってたくさんピアスしてるよね」

掴まれた手の位置がちょうど耳にあり、そっとピアスに触れる。

ジャラリ・・・・

「うっ、いい加減にしないと・・・」

「オススメのピアスのお店教えてくれない?」

(・・・彼も昨日帰ってきたら違うものをしてたし、ピアス穴塞がるのは防止したいから新しいの買わないとね)

「はあ・・・なんつー顔してんすか」

「また顔に出てた?」

「そんなにあの人に惚れてたんですか?相手は先輩を好きになる魔法がかかってただけなのに?」

アルノーは先ほどの親身な態度ではなく、冷たい声で私の傷を抉ってきた。

「ア、アルノーには関係ない・・・」

思わず俯いてしまう。

「そうですね、気付くのが遅かった俺が悪いです」

青色の瞳に顔を覗き込まれる。

「先輩、明日も休みですよね。ピアスの店ご案内しますよ」

「今からじゃダメなの?」

「昨日ちゃんと寝ました?お腹も満たされて今にも倒れ込んで寝そうな顔してますし、今日はこのまま送ってくんで帰って休んでください」

「いや、流石に悪いよ。お店教えてくれたら、自分で行くし」

「いつも1人で何でもしようとし過ぎです。たまには人を頼ってください」

泣き疲れが残っているのか、頭が回らなくなってきているのは確かだ。

私は素直にアルノーに送って貰うことにした。

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