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エディンバラ編 序章
子犬(たち)の表層
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グレーフライヤーズ・ボビー。そのモデルとなるスカイテリア、ボビー。その飼い主であるジョン・グレイは当時、エディンバラ市警に夜警として勤務する警察官だった。彼らがともに過ごしたのは約二年間。その間、片時も離れず過ごした二人だが、1858年、二月十五日。グレイが結核により死去する。
その後、彼は、エディンバラ旧市街にある、グレーフライヤーズ教会の墓地に埋葬された。そしてそれ以降、1872年に死亡するまでの約十四年間、ボビーはグレイの墓のかたわらで過ごしたという。
まさしく、日本で言うところの『忠犬ハチ公』。悲しくも心温まる、国民的な神話であり、物語。そして、実際に起きた実話だ。
「可愛いわたしは好きだけどね、ワンちゃん」
コートのポケットに手を突っ込み、ただただその銅像を見据える男に並び、少女はその像の鼻を撫でた。高さが足りなかったから、少しだけ、背伸びをして。
「俺が『先生』に拾われる前――話したっけな? 俺は盗みで生計を立ててたんだが、そんな貧困の極みみてえな俺からすら、こいつらは、たかろうとしやがってきたんだ」
「うん」
男の独白のような言葉に、少女は相槌を打つ。優しく。抱き締めるような声で。
「それ自体はいい。こいつらだって生きるのに必死だったんだろうからな。だがな、一度もなにもくれてやったことなんかねえのに、それどころか、執拗にまとわりついてくるこいつらを、俺は、何度も蹴り飛ばして、石を投げつけてやったっていうのに、次の日にはケロッとした顔で、またまとわりついてきやがった」
「酷いわね」
男の暴力についてだけ辛辣に感想を述べ、少女は少し、笑った。
「ありゃ、俺が『先生』に拾われる、ほんの少し前だったかな。冬で、雪が積もっていて、寒い日だった」
子どものような感想で、男は回顧する。
「死んでたんだよ。まとわりついてきていた、そのうちの一匹が。凍死だろうな。あの日は本当に寒かったから。人間ですら、あの冬には何人か死んでたよ。俺も、『先生』のとこに転がりこまなきゃ、同じ道を辿っていたかもしれねえ」
「そうね」
その現実を知っているかのように、少女は言う。あっけらかんと。当然のように。
そこで、二人は少し黙った。凍えた深夜のエディンバラで二度ほど、白い息が蒸気となって煙る。それほどの間。
「俺は、そいつを埋葬してやろうとしたんだ。べつに、それくらいの労力は屁でもねえ。食いもんをくれてやるわけじゃねえんだ。……哀れに思ったのかもな。少しの罪悪感くらい抱いたのかもしれねえ。まあ、結局それは、叶わなかったわけだが」
「どういうこと?」
少女の問いかけに、男は少し、言い淀む。が、やがて口を開いた。
「子犬がまとわりついてたんだよ。その亡骸に。たぶん、親子だったんだろ。そりゃ、自分の親になにするか解らねえやつを、そう簡単に近付けさせやしねえだろ。……結構噛まれたよ、あのときは」
「それで、犬が嫌いになったの?」
思い出し、苦笑いする男へ、少女は言った。長い話の割には子どもっぽい理由を語られて、呆れたように。
「嫌いっつーなら、食いもんたかりにきた段階で嫌いだったよ。だけど決定的だったのは、その次の日だな」
「次の日?」
少女はもう一度、白い息を吐いた。もこもこの毛糸の手袋。それをした上から、自分の手を温めるように。
そして男も息を吐く。男は空へ、その水蒸気を還してあげるように、見上げて。
魂が、昇って逝くように。
「今度はその子犬どもが食いもんをたかりにきやがった。前日のことなんて何事もなかったかのように。俺を威嚇したこと。俺に噛みついたこと。……自分の親が死んだことさえ。……もう、わけが解らなかったよ。怒り。敵意。あるいは悲しみ。こいつらは確かにそれを剥き出しにするのに、すぐにそれを忘れちまう。あの親犬に飯をやらなかった。間接的にその死に関わった俺にすら、すぐにへりくだって媚を売る。気持ちわりい。素直にそう思ったね」
そうして終わる男の話に、少女は、かける言葉を見つけられなかった。ただ犬の彫像を見かけて、不意に思い出した。だから話した。というわけではないのだろう。この場所で、いまのこの状況で、その話をしたのは、きっと――。
その姿を、誰かと重ねているから、なのだろう。
男にとってそれは、誰か、というほど具体的ではない。しかし、ある執事と、あるメイド。その二人を思い描いて、それを一般化してくくっていたから、だから、まあ、具体的といえば具体的ではあった。
思えば、たかが数か月の付き合いだった。だが、その内容は濃く、それゆえに数年来の付き合いがあったようにも感じてしまう、メイドと過ごした時間。メイドとして甘やかすだけでなく、ときに厳しく――いや、どちらかというと厳しいときの方が多かった気がする、彼女との関係。
そして、シャンバラで出会った、一人の執事。感情というものを知らずに育ったゆえに、感情というものを履き違えた、子犬みたいなやつ。
その二人――そしてその後ろにいる、彼らと同じ境遇の者たち。その、どこか達観した、つまらなそうな笑顔。すべてを見透かしたような、寂しそうな目つき。それを思い出し、男はやっぱり、白い息を吐いた。
「帰るか」
言って、振り返る。
「ええ、それがよろしゅうございます」
交差点。その角に建つ、べドラム劇場。その小さな城のような建物の上に立ち、そのメイドは声と、視線を落とした。そして、十メートルはあろうかというその高さから、ひと跳び、男の前に降り立つ。
「どうぞ、お早くお帰りください。ハク様」
それは、いつも通りのメイド服に、マーガレットに編まれた髪。どこにでもいそうな姿であるが、間違いなく男や、少女たちの見知ったメイド。
アルゴ・バルトロメイだった。
*
「メイ……」
「メイちゃん!」
男の驚愕よりも早く、少女がメイドに駆け寄った。だが、寸前で、それは阻まれる。
「お下がりください。お二人ともです」
それはメイドと同じ姿恰好の、もう一人のメイド。まるで彼女が二人に分身したかのように瓜二つだが、よく見れば、背の高さがやや違い、顔つきも、二人目の方がどことなく幼い。
彼女は自身の体長を越えるほどの長い棍を持ち、少女と、遅れて動き出そうとしていた男をも威圧する。無理に通り抜けようとすれば迷わず攻撃してきそうな勢いで。
「あなたも下がって、フレスカ。大丈夫。以前のご主人様にお別れを言うだけですから」
メイドは言って、もう一人のメイドの肩に手を置く。そのもう一人は、機械的な無表情で「かしこまりました」と、棍を下げ、数歩引いた。
「メイ……」
「ハク様。お久しゅうございます。……いえ、ハク様にとってはさほど、お久しぶらないのかもしれませんね」
砕けた言葉を放ち、一歩、男に近付く。だが、その顔は微塵も揺るがず、むしろ警戒に顔を力ませているようにも見える。
「おまえも、お久しぶらねえ顔してやがるぜ。不思議だな。俺がシャンバラに行って、六年経ってるはずなんだがな」
男は、自分で言う通りに変わっていないメイドを見る。面と向かっている相手がそうするように、自らも警戒を返しながら。
「そのようなことはございません。これでも小皺が増えました。メイクでうまく隠しておりますので、見た目には解らなくとも仕方ありませんが」
メイドは言うと、自らの頬を少し撫でた。仕草はやや照れるようでもあったが、やはり表情は変えないままに。
だから、少女の言っていた『離反』という言葉を噛み締める。その、敵対的なワード。言葉はいつものメイドなのに、その表情や、距離感は徹底して、敵対しているのだ。
「……んで、『お別れ』ってのはなんだ? 聞いてやるよ」
男は警戒をさらに強めて、問いかける。よもや攻撃されるとは思わないが、それでも。
「ええ。……このアルゴ・バルトロメイ。一身上の都合で、ハク様のお世話をやめさせていただきたく存じます」
「へえ、それで? なんか理由があんのか?」
「そうですね。……どうやらご存知のようですし、はぐらかしても無駄でしょう。……EBNAから招集がかかりました。これより無期限に、そちらの活動にかかりきりになりますので、ハク様にかかずらっている暇がなくなってしまったのです」
ここでようやく表情が崩れる。しかし、それは悪い方向へ。具体的には相手を小馬鹿にするような、とぼけたような表情へと。
「その、EBNAの活動ってのは、そんなに大事なことなのか?」
それは、当初からの疑問だった。いくら長年教育されたからといって、その組織からの招集は、それほどの強制力があるのか? という、疑問。
「ええ、まがりなりにも育ての親です。その親からの頼みですもの、なににも優先すべき理由となります」
「じゃあ、終われば戻ってこられるんだな?」
その言葉に、メイドは瞬間、眉をしかめた。
「ハク様。あなた様には、私などに構っているお暇はないと存じます。はっきりと申し上げますが、現在『異本』は世界的に知れ渡り、その流動性が増しております。この環境では、いつ誰が、世界を滅ぼすほどの『異本』を手にするか予想できません」
「聞いてるよ、その話は」
「でしたら――」
「そんなことはどうでもいい。それより、てめえが自分の意思に反して、無理にEBNAに強制させられてんじゃねえかってことを危惧してんだよ、俺は」
ややヒートアップしてくる男の言葉に、メイドは一度、息を吐いた。
「盗み。恐喝。強奪。詐欺。脅迫。傷害も、あるいは殺人まで。私たちは今回――いえ、以前からですか、なんでもやってきましたし、……やりますよ」
表情を機械に戻して、メイドは言った。むしろ男をねめつけるように。威嚇するように。
「……なんの話だ?」
男も最大級に警戒して、メイドを睨みつける。彼女が並べた犯罪行為にも、胸焼けしそうなほどに苛立ちながら。
「言いましたよね。早くお帰りになられた方がいいと」
メイドは言い、見下すように薄ら笑う。
「みなさまがお持ちの、多数の『異本』。……すでにそれを回収しに、私たちは向かっていますよ?」
その冷たい言葉に、男も少女も、背筋に悪寒を感じた。
その後、彼は、エディンバラ旧市街にある、グレーフライヤーズ教会の墓地に埋葬された。そしてそれ以降、1872年に死亡するまでの約十四年間、ボビーはグレイの墓のかたわらで過ごしたという。
まさしく、日本で言うところの『忠犬ハチ公』。悲しくも心温まる、国民的な神話であり、物語。そして、実際に起きた実話だ。
「可愛いわたしは好きだけどね、ワンちゃん」
コートのポケットに手を突っ込み、ただただその銅像を見据える男に並び、少女はその像の鼻を撫でた。高さが足りなかったから、少しだけ、背伸びをして。
「俺が『先生』に拾われる前――話したっけな? 俺は盗みで生計を立ててたんだが、そんな貧困の極みみてえな俺からすら、こいつらは、たかろうとしやがってきたんだ」
「うん」
男の独白のような言葉に、少女は相槌を打つ。優しく。抱き締めるような声で。
「それ自体はいい。こいつらだって生きるのに必死だったんだろうからな。だがな、一度もなにもくれてやったことなんかねえのに、それどころか、執拗にまとわりついてくるこいつらを、俺は、何度も蹴り飛ばして、石を投げつけてやったっていうのに、次の日にはケロッとした顔で、またまとわりついてきやがった」
「酷いわね」
男の暴力についてだけ辛辣に感想を述べ、少女は少し、笑った。
「ありゃ、俺が『先生』に拾われる、ほんの少し前だったかな。冬で、雪が積もっていて、寒い日だった」
子どものような感想で、男は回顧する。
「死んでたんだよ。まとわりついてきていた、そのうちの一匹が。凍死だろうな。あの日は本当に寒かったから。人間ですら、あの冬には何人か死んでたよ。俺も、『先生』のとこに転がりこまなきゃ、同じ道を辿っていたかもしれねえ」
「そうね」
その現実を知っているかのように、少女は言う。あっけらかんと。当然のように。
そこで、二人は少し黙った。凍えた深夜のエディンバラで二度ほど、白い息が蒸気となって煙る。それほどの間。
「俺は、そいつを埋葬してやろうとしたんだ。べつに、それくらいの労力は屁でもねえ。食いもんをくれてやるわけじゃねえんだ。……哀れに思ったのかもな。少しの罪悪感くらい抱いたのかもしれねえ。まあ、結局それは、叶わなかったわけだが」
「どういうこと?」
少女の問いかけに、男は少し、言い淀む。が、やがて口を開いた。
「子犬がまとわりついてたんだよ。その亡骸に。たぶん、親子だったんだろ。そりゃ、自分の親になにするか解らねえやつを、そう簡単に近付けさせやしねえだろ。……結構噛まれたよ、あのときは」
「それで、犬が嫌いになったの?」
思い出し、苦笑いする男へ、少女は言った。長い話の割には子どもっぽい理由を語られて、呆れたように。
「嫌いっつーなら、食いもんたかりにきた段階で嫌いだったよ。だけど決定的だったのは、その次の日だな」
「次の日?」
少女はもう一度、白い息を吐いた。もこもこの毛糸の手袋。それをした上から、自分の手を温めるように。
そして男も息を吐く。男は空へ、その水蒸気を還してあげるように、見上げて。
魂が、昇って逝くように。
「今度はその子犬どもが食いもんをたかりにきやがった。前日のことなんて何事もなかったかのように。俺を威嚇したこと。俺に噛みついたこと。……自分の親が死んだことさえ。……もう、わけが解らなかったよ。怒り。敵意。あるいは悲しみ。こいつらは確かにそれを剥き出しにするのに、すぐにそれを忘れちまう。あの親犬に飯をやらなかった。間接的にその死に関わった俺にすら、すぐにへりくだって媚を売る。気持ちわりい。素直にそう思ったね」
そうして終わる男の話に、少女は、かける言葉を見つけられなかった。ただ犬の彫像を見かけて、不意に思い出した。だから話した。というわけではないのだろう。この場所で、いまのこの状況で、その話をしたのは、きっと――。
その姿を、誰かと重ねているから、なのだろう。
男にとってそれは、誰か、というほど具体的ではない。しかし、ある執事と、あるメイド。その二人を思い描いて、それを一般化してくくっていたから、だから、まあ、具体的といえば具体的ではあった。
思えば、たかが数か月の付き合いだった。だが、その内容は濃く、それゆえに数年来の付き合いがあったようにも感じてしまう、メイドと過ごした時間。メイドとして甘やかすだけでなく、ときに厳しく――いや、どちらかというと厳しいときの方が多かった気がする、彼女との関係。
そして、シャンバラで出会った、一人の執事。感情というものを知らずに育ったゆえに、感情というものを履き違えた、子犬みたいなやつ。
その二人――そしてその後ろにいる、彼らと同じ境遇の者たち。その、どこか達観した、つまらなそうな笑顔。すべてを見透かしたような、寂しそうな目つき。それを思い出し、男はやっぱり、白い息を吐いた。
「帰るか」
言って、振り返る。
「ええ、それがよろしゅうございます」
交差点。その角に建つ、べドラム劇場。その小さな城のような建物の上に立ち、そのメイドは声と、視線を落とした。そして、十メートルはあろうかというその高さから、ひと跳び、男の前に降り立つ。
「どうぞ、お早くお帰りください。ハク様」
それは、いつも通りのメイド服に、マーガレットに編まれた髪。どこにでもいそうな姿であるが、間違いなく男や、少女たちの見知ったメイド。
アルゴ・バルトロメイだった。
*
「メイ……」
「メイちゃん!」
男の驚愕よりも早く、少女がメイドに駆け寄った。だが、寸前で、それは阻まれる。
「お下がりください。お二人ともです」
それはメイドと同じ姿恰好の、もう一人のメイド。まるで彼女が二人に分身したかのように瓜二つだが、よく見れば、背の高さがやや違い、顔つきも、二人目の方がどことなく幼い。
彼女は自身の体長を越えるほどの長い棍を持ち、少女と、遅れて動き出そうとしていた男をも威圧する。無理に通り抜けようとすれば迷わず攻撃してきそうな勢いで。
「あなたも下がって、フレスカ。大丈夫。以前のご主人様にお別れを言うだけですから」
メイドは言って、もう一人のメイドの肩に手を置く。そのもう一人は、機械的な無表情で「かしこまりました」と、棍を下げ、数歩引いた。
「メイ……」
「ハク様。お久しゅうございます。……いえ、ハク様にとってはさほど、お久しぶらないのかもしれませんね」
砕けた言葉を放ち、一歩、男に近付く。だが、その顔は微塵も揺るがず、むしろ警戒に顔を力ませているようにも見える。
「おまえも、お久しぶらねえ顔してやがるぜ。不思議だな。俺がシャンバラに行って、六年経ってるはずなんだがな」
男は、自分で言う通りに変わっていないメイドを見る。面と向かっている相手がそうするように、自らも警戒を返しながら。
「そのようなことはございません。これでも小皺が増えました。メイクでうまく隠しておりますので、見た目には解らなくとも仕方ありませんが」
メイドは言うと、自らの頬を少し撫でた。仕草はやや照れるようでもあったが、やはり表情は変えないままに。
だから、少女の言っていた『離反』という言葉を噛み締める。その、敵対的なワード。言葉はいつものメイドなのに、その表情や、距離感は徹底して、敵対しているのだ。
「……んで、『お別れ』ってのはなんだ? 聞いてやるよ」
男は警戒をさらに強めて、問いかける。よもや攻撃されるとは思わないが、それでも。
「ええ。……このアルゴ・バルトロメイ。一身上の都合で、ハク様のお世話をやめさせていただきたく存じます」
「へえ、それで? なんか理由があんのか?」
「そうですね。……どうやらご存知のようですし、はぐらかしても無駄でしょう。……EBNAから招集がかかりました。これより無期限に、そちらの活動にかかりきりになりますので、ハク様にかかずらっている暇がなくなってしまったのです」
ここでようやく表情が崩れる。しかし、それは悪い方向へ。具体的には相手を小馬鹿にするような、とぼけたような表情へと。
「その、EBNAの活動ってのは、そんなに大事なことなのか?」
それは、当初からの疑問だった。いくら長年教育されたからといって、その組織からの招集は、それほどの強制力があるのか? という、疑問。
「ええ、まがりなりにも育ての親です。その親からの頼みですもの、なににも優先すべき理由となります」
「じゃあ、終われば戻ってこられるんだな?」
その言葉に、メイドは瞬間、眉をしかめた。
「ハク様。あなた様には、私などに構っているお暇はないと存じます。はっきりと申し上げますが、現在『異本』は世界的に知れ渡り、その流動性が増しております。この環境では、いつ誰が、世界を滅ぼすほどの『異本』を手にするか予想できません」
「聞いてるよ、その話は」
「でしたら――」
「そんなことはどうでもいい。それより、てめえが自分の意思に反して、無理にEBNAに強制させられてんじゃねえかってことを危惧してんだよ、俺は」
ややヒートアップしてくる男の言葉に、メイドは一度、息を吐いた。
「盗み。恐喝。強奪。詐欺。脅迫。傷害も、あるいは殺人まで。私たちは今回――いえ、以前からですか、なんでもやってきましたし、……やりますよ」
表情を機械に戻して、メイドは言った。むしろ男をねめつけるように。威嚇するように。
「……なんの話だ?」
男も最大級に警戒して、メイドを睨みつける。彼女が並べた犯罪行為にも、胸焼けしそうなほどに苛立ちながら。
「言いましたよね。早くお帰りになられた方がいいと」
メイドは言い、見下すように薄ら笑う。
「みなさまがお持ちの、多数の『異本』。……すでにそれを回収しに、私たちは向かっていますよ?」
その冷たい言葉に、男も少女も、背筋に悪寒を感じた。
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