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しおりを挟むアブラゼミの鳴き声と漁船のエンジン音。かけていく犬の荒い息づかい。
石段を十分のぼっただろうか。
シュロの木のわきに家が見えてきた。漁村を見おろす高台に建っている。
……ぼくんち。
玄関の引き戸から、すいと黒い影がつき抜けた。
ビクッと心臓がとびはねる。
つき抜けてきたのは、ぼくの胸くらいまでの身長の女の子だった。
おかっぱ頭で、前髪が目の上で切りそろえられている。
きのう見た……子……。
その子の口から、笑みがこぼれた。
集団から、みつあみの女の子がかけだしてきて、おかっぱ頭の女の子の手を取った。ふたり、手をつないで、列の中にかけだす。
社会の授業で習った、ハーメルンの笛吹き男の伝承を思い出していた。
町中の子どもを先導して、すべて連れ去ってしまう男の話。
今、この子どもたちを先導しているのは、男ではなくて、犬の群れだ。
犬がかけていく。夕日を浴びて。いくつもの黒い小山のように。
竜の背のような尾根を、息を切らして連なっていく。
あとを続く、十人、二十人、三十人の子どもたち。
手を取りあい、笑い、じゃれあいながら。
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