たぬき

くまの広珠

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 とにかく、窓を閉めよう。

 蚊帳の外に出て、畳を踏みしめ、窓の桟に手をかける。
 ひやりとほおを夜風がなでた。潮のにおいがする。

 ガサ……。

 畳の上で音がした。

 ――え?

 反射的にふり返る。

 夜風が窓から入ってきて、ぼくのほおをなでていく。


 蚊帳の中。


 さっきまでぼくが寝ていたふとんの上に、黒い頭があった。

 ぼくの胸くらいまでの身長。

 おかっぱ頭の……女の子……?

 切りそろえられた前髪が揺れる。
 濃い縁取りのまつげの中で、夜の海のようにのっぺりとした目が、ぼくを見すえる。

 ぞくっと、背筋が凍りついた。

 少女の細い足首が、ふとんの上に溶け込んでいく。白いブラウスの肩も、スカートのすそも部屋の闇に溶け込んで消える。

 黒い髪も目も、ほおも消えて、その場所には誰もいなかった。



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