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14 よみがえりの地

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 東の空に朝日がさしていた。


 赤いのぼりがならぶ、神社の小山をくだり、つぼ湯のわき道の石段を通って、お寺の横から、温泉街へもどる。

 民宿の二階へ、階段をかけのぼると、正面の客室の半分開いたふすまが見えた。


 ドクン、ドクンと心臓が波打つ。


 苦しい。


 胸が苦しすぎて痛い。中に入るのが怖い。



「香蘭! なにしてたんやっ!?  早く、入りぃ!」


 おじいちゃんが出てきて、わたしの肩を部屋の中へ押した。


 ドクドクドクドク……。


 心臓の鼓動が早打ちしている。


 早矢の横に座って、わたしはおそるおそる、ふとんの中をのぞきこんだ。


「今、目覚めたんだよ」


 真ん中に敷かれたふとんのわきで、早矢がニヤっと笑った。



「……香蘭ちゃん……」


 宝君が、黒曜石みたいな瞳でほほえんでいる。



 ……すごい。


 宝君が目を開けている。

 ふとんの中から、左腕がのびてくる。宝君の指の腹が、さらりとわたしのほおをなでる。


 ……すごい。


 宝君が動いている。


 両手をのばして、宝君の左腕を、きゅっとつかまえてみる。


 やわらかい……。


 ちゃんとした感触がある。弾力があって、中は硬くあたたかい。


「……すごい。ホンモノだ。ダリでもないし、餓鬼阿弥でもない。ホンモノの宝君だ……」


「……香蘭ちゃん」


 宝君のほおが、レンゲの花のようなピンク色に染まった。メガネをかけていないから、女の子みたいな顔がよく見える。


「……ありがとう。香蘭ちゃんと、みんなのおかげで、もどって来られたよ……」


 もっとそばで顔を見たくて、身をのりだすと、横から「まったくな」と声がした。

 横で、早矢が腕を組んで、ふんぞり返っている。


「宝、おまえ、人に心配と、苦労ばっかかけやがって」


「早矢もありがとう。世話になりっぱなしだったね……」


 宝君がふんわり笑う。その笑顔に、早矢のとがった口元がゆるんだ。


「この借りは、あとで返してもらうかんな。――で、首はだいじょうぶか? アザで真っ青だぞ」


「あ……うん……」


 宝君はもぞっと、上半身を起こした。


「あれ? 体がかんたんに動く。生身ってラクだね。って、イタタタ……」


「だ、だいじょうぶ、宝君っ!?  首、やっぱり、そんなに痛いのっ!? 」


「ち、ちがうんだ。痛いのは首じゃなくって……足首」


「……足首?」


 宝君がかけぶとんをめくった。宿の浴衣から出ている右足首が、赤くはれている。


「運動会の組体操でひねったところ。まだ、治ってなかったみたい」


 ぽかんとしていると、となりでやっぱり、ぽかんと口を開けている早矢と目が合った。



 ……そういえば。そのせいで、わたしは、リレー選手をかわったんだっけ。


「そりゃ、つぼ湯で療養が必要やな」


 おじいちゃんが、やれやれと目を細めた。



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