上 下
85 / 97
13 空をわたる

6

しおりを挟む

 ウォーン……。

 ウォーン……。



 まわりの山々から、遠吠えが返って来る。

 山の木立が、天狗の団扇のようにゆれている。


 木々の幹のすき間に、赤い火がふたつ、横にならんで灯った。


 その横にもふたつ。


 また、その横にふたつ。


 煙草の火のような赤が、次々に増えていく。



 川向こうの道路を見て、息を飲んだ。

 何百もの赤い火が、道路をうめていた。


 狼の眼だ。


 黒い狼の群れが、道路にひしめきあっている。


 グエッ! ゲエゲエゲエゲエ……。


 目の前の狼が、地面に向かって何かを吐き出した。


「……うぇ」


 早矢が、つられて、自分の口を片手で押さえている。



 狼が吐いたものは、淡く青白い光を発していた。

 光の中に、何か見える。

 白装束をまとった女性だった。山伏の姿も見える。脚絆をつけ、地下足袋をはき、旅姿の者たち。


「だ……ダリ……?」


 ダリたちだ。

 狼がわたしの背中に取り込んだ、モノたち。

 ひとつひとつが、青白い丸いシャボン玉となって、ぼんやりと地面から浮かびあがってくる。


 ……ヒトダマ……。


 狼が吐き出したたくさんのヒトダマで、温泉街の夜空が青白く染まっていく。



 とりまいていた狼の影が動きだした。

 二本の前足をのばし、ポンッとはねて、空に跳びあがる。


 一匹跳ぶと、となりの狼もそれに続いた。

 ポンッポンッと、身軽に夜空に浮きあがり、ヒトダマを追っていく。



「お、狼の霊は……ヒトダマを食う気か……?」


 早矢がゴクンとつばを飲む。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――? 弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。 第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!

今日の夜。学校で

倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。 如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる

オオカミ少女と呼ばないで

柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。 空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように―― 表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。

せかいのこどもたち

hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。 あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。 さくらはパーティかいじょうにいくと……。 ☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。  無断で転載することはお止めください。

処理中です...