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13 空をわたる
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しおりを挟むウォーン……。
ウォーン……。
まわりの山々から、遠吠えが返って来る。
山の木立が、天狗の団扇のようにゆれている。
木々の幹のすき間に、赤い火がふたつ、横にならんで灯った。
その横にもふたつ。
また、その横にふたつ。
煙草の火のような赤が、次々に増えていく。
川向こうの道路を見て、息を飲んだ。
何百もの赤い火が、道路をうめていた。
狼の眼だ。
黒い狼の群れが、道路にひしめきあっている。
グエッ! ゲエゲエゲエゲエ……。
目の前の狼が、地面に向かって何かを吐き出した。
「……うぇ」
早矢が、つられて、自分の口を片手で押さえている。
狼が吐いたものは、淡く青白い光を発していた。
光の中に、何か見える。
白装束をまとった女性だった。山伏の姿も見える。脚絆をつけ、地下足袋をはき、旅姿の者たち。
「だ……ダリ……?」
ダリたちだ。
狼がわたしの背中に取り込んだ、モノたち。
ひとつひとつが、青白い丸いシャボン玉となって、ぼんやりと地面から浮かびあがってくる。
……ヒトダマ……。
狼が吐き出したたくさんのヒトダマで、温泉街の夜空が青白く染まっていく。
とりまいていた狼の影が動きだした。
二本の前足をのばし、ポンッとはねて、空に跳びあがる。
一匹跳ぶと、となりの狼もそれに続いた。
ポンッポンッと、身軽に夜空に浮きあがり、ヒトダマを追っていく。
「お、狼の霊は……ヒトダマを食う気か……?」
早矢がゴクンとつばを飲む。
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