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13 空をわたる

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 キ。

 お寺のわきで、のぼりの旗が、きしんだ。


「あの狼は霊体。霊体とやりぁえるのは、霊体だけだ……。祓ぇないなら、ぼくがあぃつとたたかぅ……」

 木の杖にしがみついて、餓鬼阿弥がふらふらと立ちあがる。


 ……戦う……?


 頭の中が白くなった。

 わたしが目にしているのは、自力で立つこともおぼつかない餓鬼阿弥だ。

 武器は、木を八角にけずっただけの杖。


 対して、俊敏で獰猛な肉食獣。


「そ、そんなの、ムリだよっ! 今の宝君じゃ、やる前に、やられちゃうっ!」


「そ、そうだぞっ! 宝、ヘンな気おこすなっ  あ、なぁ、またトライアングルを鳴らすってのは、どうだ? 狼は金音苦手なんだろ? オレ、じいちゃんの車から取ってくるっ!! 」


「早矢、ぅごくなっ!」


 餓鬼阿弥がのどから声をしぼりだした。


「……ぃま、ぅかつに動くな……」



 ふと、街灯の明かりがさえぎられた。

 瞬間、空に跳ぶ狼の姿を見た。


 二本の長い前足を泳ぐように、前にのばして。後ろ足で空を蹴って。

 狼がわたしたちの頭上をわたっていく。


 ガサ。


 狼は、お寺の裏のしげみに消える。


「……三回目……」


 宝君がうめいた。


 ザワ……。


 お寺の奥の小山で、木立が揺れている。

 カサカサと、枯れ葉が、風にあおられて、石段を横に動いていく。




 茂みから、狼がおどりでた。

 わたしたちの頭上に、裂けた口がせまってくる。



「きゃああああっ!! 」



 これが、狼の復讐っ!? 

 わたしたちは、「人間」の代表として、この狼に殺されるのっ!?



「香蘭っ!! 」


 ぐいっと、腕を引かれた。ほおが早矢のトレーナーに、ぽすっとぶつかる。見あげると、早矢のとがったあごが目の前にあった。


「だ、だいじょうぶかっ!? 」


 汗をしたたらせ、早矢が腕をまわして、わたしの頭を守っている。


「あ、ありがと。早矢……」



 夜空に、長い木の棒がつきあがった。

 天へとのびる柱のように。



 グェエエエエっ!! 



 獣のつんざき。


「……宝っ!」


 早矢の胸で、わたしも早矢と同じものを見ていた。


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