75 / 97
12 はるかなる熊野古道
2
しおりを挟む「……ごめんなさい」
わたしはぺこりと頭をさげた。
「……ごめん、じいちゃん」
「……ご、めんな……さぃ……」
早矢と餓鬼阿弥も、首をたらしてうなだれている。
「あ、ち、ちがうっ! おじいちゃんちがうの! 早矢と宝君は、わたしの暴走に巻き込まれただけでっ!」
「まぁ、わけは車ん中でゆっくりきかせてもらうわ。宝君、土車はどないした? えらい弱っとるやないか。ほら、じいちゃんの背さ、おぶされ」
餓鬼阿弥を背中に背負いあげると、おじいちゃんは、わたしと早矢を交互に見た。
「おまえらふたりは、まだ歩けるな。車は、下のほうに止めちょる。狼がまた来んうちに、はよ、もどるで」
おじいちゃんは、来た道にビニールテープを張っていた。
それを回収しながら、尾根をくだっていく。
尾根の西側の林道に、車が止まっていた。向けた懐中電灯のあかりで、熊みたいにずんぐりとした、紺色の四輪駆動車が闇に浮かびあがる。
「ほら、乗り」
おじいちゃんは、後部座席に餓鬼阿弥の体をもたせかけた。
早矢が、反対側のドアから、そのとなりに乗り込む。
「じいちゃん。頼みがある。これから宝を、湯の峰温泉につれていってほしい」
ドアを閉めると、早矢は低い声でつぶやいた。
「お、お願い! おじいちゃんっ!! 」
助手席に座ったわたしも、あわてて、おじいちゃんの横顔を見あげる。
おじいちゃんは、ハンドルをにぎって、前方をにらみつけた。
「――わかった」
紺色の四駆に、ライトが灯る。
林道をぬけ、車は、バス通りの国道を走りだした。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~
友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。
全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。
佐藤さんの四重奏
makoto(木城まこと)
児童書・童話
佐藤千里は小学5年生の女の子。昔から好きになるものは大抵男子が好きになるもので、女子らしくないといじめられたことを機に、本当の自分をさらけ出せなくなってしまう。そんな中、男子と偽って出会った佐藤陽がとなりのクラスに転校してきて、千里の本当の性別がバレてしまい――?
弦楽器を通じて自分らしさを見つける、小学生たちの物語。
第2回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
今日の夜。学校で
倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。
如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる
オオカミ少女と呼ばないで
柳律斗
児童書・童話
「大神くんの頭、オオカミみたいな耳、生えてる……?」 その一言が、私をオオカミ少女にした。
空気を読むことが少し苦手なさくら。人気者の男子、大神くんと接点を持つようになって以降、クラスの女子に目をつけられてしまう。そんな中、あるできごとをきっかけに「空気の色」が見えるように――
表紙画像はノーコピーライトガール様よりお借りしました。ありがとうございます。
せかいのこどもたち
hosimure
絵本
さくらはにほんのしょうがっこうにかよっているおんなのこ。
あるひ、【せかいのこどもたち】があつまるパーティのしょうたいじょうがとどきます。
さくらはパーティかいじょうにいくと……。
☆使用しているイラストは「かわいいフリー素材集いらすとや」様のをお借りしています。
無断で転載することはお止めください。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる