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11 送り雀と狼

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「……狼……?」


 ザワッと、風に木立がゆれた。

 遠吠えがきこえない。

 さっきまでは、頭が麻痺するぐらい、耳元できこえていたのに。


 あたりは杉の植林地だった。

 下草はほとんどなく、太い杉が、柱のように地面から垂直につきささっている。


「……ぉぉかみは……かや三本ぁれば、姿……隠す」


 餓鬼阿弥がつぶやいた。

 木々の合間から、むわっと、獣のにおいがただよってくる。


 チャ、チャ。

 チャ、チャ。


 カスタネットをたたくみたいに、送り雀が鳴く。


 パキ。


 左横の木の後ろから、小枝の折れる音がした。


 ピシ。


 音が一歩、近づいた。


 オオオオオ……。


 足元の土が震えている。

 振動が足に伝わり、ビリビリと体をかけのぼる。


 木々の間に、赤い、煙草の火のようなものがふたつ、横にならんで宙に浮いていた。


 オオオオオオオオオ……。


 四つ。六つ。赤い火が増えていく。

 八つ。十。十二。十四……。


 火ではない。


 赤い、狼の眼っ!! 


 オオオオオオオオ……。


 地面に口をつけて、狼たちが地吠えをする。


「た、た、宝……っ!」


 早矢が泣き声でさけんだ。


「お、おまえ! なんか、策ないかっ!? 」


「……さく……?」


 だけど、餓鬼阿弥も体を硬直させたまま、息を殺している。


 整列した杉林の上、月がうす雲から顔をのぞかせていた。

 月明かりに、くっきりと早矢の姿が照らされる。

 土にまみれたほおから、涙が線を引いて落ちていく。


「お、おまえ、香蘭を助けるために、餓鬼阿弥になったんだろっ!?  なのに、こんな! こんな、香蘭なんかに、かつがれてっ! 目も、耳も、口をきくこともおぼつかなくて! そんな姿で、本気で、香蘭を助けられるって、思ってんのかっ!?  

宝、おまえは、まちがったんだよっ! 餓鬼阿弥になんかなったって、人に助けられるばっかりで、人を助けたりなんか、できねぇんだっ!! 」


「……っ……」


 背中で、餓鬼阿弥の腕が動いた。

 ミイラのような体が、ずるっと、土の上にすべり落ちる。


「宝君っ!? 」


「……く……」


 餓鬼阿弥はその場にべしゃっと、くずれこんだ。


「宝君、早矢の挑発になんか、のらないでっ!!  歩けもしないのにっ!! 」




「……ち……がぅ……」


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