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9 宝君のたどった道

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 わたしだけは、宝君の存在をわすれなかった。

 早矢も、餓鬼阿弥が見えるようになったとたんに、宝君の記憶を思い出した。

 生まれつきダリが見えるおじいちゃんは、宝君の存在を認めている。


 それは、ダリなどのいわゆる「霊」や「オバケ」を見える人の特権らしい。

 霊を視覚できる人には、霊体になった宝君の存在もわかるようだ。



 日が暮れかけている。

 縁側に足をおろして座るわたしの横に、早矢が餓鬼阿弥の土車を止めている。

 土車の上の餓鬼阿弥の姿を、わたしはまっすぐに見られない。


 宝君は、わたしのために、「自分のこと」をすべて捨ててしまった……。

 なのに……わたしは、宝君に何も返してあげられない。


 そんなの……重すぎる……。


「宝君、あのさ……」


 わたしは、自分の足を見おろして、つぶやいた。


「……な、に……?」


 宝君のかわりに餓鬼阿弥が答える。


「宝君は死んでないって、言ってたよね。閻魔様に、その姿にかえられてるだけなんだよね。ってことは、元にもどれるんでしょ?」


 餓鬼阿弥は口をつぐんだ。


 チラッと、土車の上を見ると、抱え込んだひざに視線を落として、考え込んでいるようだ。


「……香蘭ちゃ……んは、もと、にもどってほしぃの……?」


「あ、あたりまえだよっ!!  宝君だって、ずっとそのままじゃ、イヤでしょ? まさか、閻魔さまにこんな状態にされるなんて、思ってもなかったんだしっ!! 」


「……ぅん。さぃしょは、怖かった……よ。か、身体が動かないこと、オバケみたいな姿になった、こと。親やクラスメイトや……ぼくを知ってる人たちが……ぼくのこと、わすれてしまったことが……。

だ、だけど、餓鬼阿弥になったせいかな……? そぅいぅ感情はぅすれてぃったんだ。今はただ、ダリを祓うために……ここにぃる。ぼくは、怖くも、かなしくもなぃよ……」


 あるんだかないんだかわからない餓鬼阿弥の目が、ほほえんでいるような気がする。


「……それに」


 ミイラのような右腕がそろそろと、のびてくる。

 少しとまどいながら、ふわっと、わたしの頭の上に置かれる。


「……香蘭ちゃ、んが、ぼくのこと、知ってぃてくれるでしょ?」


 餓鬼阿弥の手のひらが、わたしの頭をなでる。


「……うん……」


 目を閉じて、あたたかい手のひらを胸に感じた。


 そうだ。これは、宝君の手のひら――。




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