上 下
19 / 97
3 あなたのいない世界

5

しおりを挟む

「ま~な~。たしかに。武はゲームしかしね~もんな。じゃあ、ズル姫、おまえがこの本、武のつくえに入れたんかよ?」


「ち、ちがうっ!」


 早矢にきかれて首をふったけど、本はもう、強引にわたしの手にもどされていた。


「気持ちわりぃから、コレは、おまえが返しとけ!」


 あとにのこされたのは、武のゲラゲラ笑い。

 武は、早矢たちとベランダ側の早矢の席に移動して、きのうやったゲームの話をはじめている。


 ……どういうこと……?


 わたしは本を胸に抱きしめて、教室の中を見まわした。

 廊下側の壁にかざられている、みんなの絵。

 宝君が描いた、校舎の絵があったところに、西宮さんの校庭のイチョウの絵がかざられている。


 後ろのロッカー。

 左から一番目。上から二番目の宝君の場所に、打石君のランドセルが入っている。

 緑化委員は、川村さんと、桑原さんにかわっていた。


 担任の服部先生が入ってきて、出席簿をとりはじめる。


「え~。網島」

「はい」

「上原」

「はい」

「打石」

「はい」


 有若宝君は、呼ばれない――。





「――なあ、横山。先生は、横山がこんないたずらをするヤツじゃないと、思ってたんだがな。なんか、クラスでそういう遊びでも流行ってんのか?」


 先生たちの声がとびかう職員室で。服部先生は、自分のつくえの前の回転いすにあさく座って、スポーツ刈りの頭をガリガリとかいた。


「もし、だれかにやらされたとかなら。ちゃんと話してくれ。横山を責めたいわけじゃないんだ。わけを話してくれなきゃ、先生にもわからないんだよ」


 一時間目が終わったあとで、わたしは職員室に呼び出された。

 警察から、学校に事情が伝わっていた。わたしが宝君をさがしていたことは、やっぱり、おとなの間で「いたずら」ということになっていた。


 だけど、わけがわからないのは、こちらのほうだ。


「だって……有若宝君は、本当にいるんだから……」


 胸に本を抱きしめて、同じセリフばかりをくり返してしまう。


「よし、横山。これを見てみろ!」


 先生はポンッと手を打って、くるっとイスの向きをかえた。つくえの引き出しをさばくって、キャビネ判の写真を引っぱり出してくる。

 春の修学旅行で撮った、六年生の集合写真だった。


「よく見ろ。この中に、その有若ってヤツはいるか?」


 いるに決まっている。


 雷門の赤い大提灯を、底からしげしげ見あげていた宝君の背中を覚えているから。

 わたしは、指でひとりひとりの顔をたどっていった。うちの学年は二クラスしかないから、さすがに六年間もいっしょにいれば、全員の顔を覚えてしまう。


 知らない顔はひとつもない。

 なのに、宝君の顔はない。


「――わかったか? うちのクラスには、横山の言う、有若宝ってヤツはいない。うちのクラスだけじゃなくて、この学年にも、この学校にもいない。それは確かだ。夢か何かと勘ちがいしてるんだろうけど、二度とこういう騒ぎは、起こさないように。いいな?」


 これ以上は、しつこくきけない。


「……はい」


 わたしはぺこりと頭をさげた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アイの間

min
児童書・童話
中学2年生の雪。 思春期の彼には、色々と考えることがあるみたいで…。

YouTuber犬『みたらし』の日常

雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。 二歳の柴犬だ。 飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。 まぁいい。 オレには関係ない。 エサさえ貰えればそれでいい。 これは、そんなオレの話だ。 本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。 無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

訳あり新聞部の部長が"陽"気すぎる

純鈍
児童書・童話
中学1年生の小森詩歩は夜の小学校(プール)で失踪した弟を探していた。弟の友人は彼が怪異に連れ去られたと言っているのだが、両親は信じてくれない。そのため自分で探すことにするのだが、頼れるのは変わった新聞部の部長、甲斐枝 宗だけだった。彼はいつも大きな顔の何かを憑れていて……。訳あり新聞部の残念なイケメン部長が笑えるくらい陽気すぎて怪異が散る。

夢✕恋グラフィティ

星乃びこ
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞エントリー作品】 中学1年生の御井悠花(ゆうか)は、学年トップの優等生。 小学生の頃から親に言われるまま塾、家庭教師と勉強漬けの毎日を送っていた。 「将来は良い大学に行ってお医者さんになるのよ」毎日のように、母親から言われてきたそのセリフ。悠花にとってはそれが普通。当たり前の日常だった。 しかし、そんな時。 「俺達と一緒に楽しいことしない?」 同じクラスの真田唯月(いつき)が関わり始めたことで彼女の日常は大きく変わり始めるー。

【小説版】怪獣の人~かいじゅうのひと~

TEKKON
児童書・童話
「朝、起きたら男は怪獣になっていた…!」 男は一体どうなってしまうのか?お気軽にお楽しみください。 ※ こちらは同タイトルのノベルゲームで   一番評判の良いシナリオを多少修正して   小説版にしております。    興味持たれた人はノベルゲームコレクションへ! 「怪獣の人」 https://novelgame.jp/games/show/4948 総選択肢:5、エンディング数:5 総文字数:約13000字 最長シナリオ:約8500字 最短シナリオ:約3000字

イービル・ゲート~退魔師・涼風夜空~

はじめアキラ
児童書・童話
「七不思議に関わるのはやめておけ」  小学六年生の、加賀花火のクラスに転校してきた生意気な美少年、涼風夜空。  彼は自らを退魔師と名乗り、花火に騎士になってくれと頼んできた――この学校にある、異世界へ続く門を封じるために。  いなくなったクラスメートの少女。  学校に潜む異世界からの侵入者。  花火と夜空、二人の少女と少年が学校の怪異へ挑む。

【完結】カラ梅雨、美津希! ―蛙化女子高生の日常―

ginrin3go/〆野々青魚
児童書・童話
完結しました! 川原美津希(かわはらみづき)は高校一年生。 彼女は憧れの先輩にひとめぼれしてしまい、カナヅチにもかかわらず水泳部へと入部してしまう。 いくら頑張ってもまともに泳ぐことすらできない美津希。 記録会を前にした練習で溺れてしまうという失態を演じ、とうとう退部を決意する。 その日の夜、彼女の身にとんでもないことが起こる。 SF(すこしふしぎ)系のぬるいお話。全11話 約2万2000字の短編です。 ※本作は奨励賞を頂戴した長編のプロトタイプ的な作品で、作中、似たシチュエーションがあります。 今回はあえてその部分は変更せず、そのまま公開いたします。

処理中です...