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3 あなたのいない世界
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しおりを挟む「ま~な~。たしかに。武はゲームしかしね~もんな。じゃあ、ズル姫、おまえがこの本、武のつくえに入れたんかよ?」
「ち、ちがうっ!」
早矢にきかれて首をふったけど、本はもう、強引にわたしの手にもどされていた。
「気持ちわりぃから、コレは、おまえが返しとけ!」
あとにのこされたのは、武のゲラゲラ笑い。
武は、早矢たちとベランダ側の早矢の席に移動して、きのうやったゲームの話をはじめている。
……どういうこと……?
わたしは本を胸に抱きしめて、教室の中を見まわした。
廊下側の壁にかざられている、みんなの絵。
宝君が描いた、校舎の絵があったところに、西宮さんの校庭のイチョウの絵がかざられている。
後ろのロッカー。
左から一番目。上から二番目の宝君の場所に、打石君のランドセルが入っている。
緑化委員は、川村さんと、桑原さんにかわっていた。
担任の服部先生が入ってきて、出席簿をとりはじめる。
「え~。網島」
「はい」
「上原」
「はい」
「打石」
「はい」
有若宝君は、呼ばれない――。
「――なあ、横山。先生は、横山がこんないたずらをするヤツじゃないと、思ってたんだがな。なんか、クラスでそういう遊びでも流行ってんのか?」
先生たちの声がとびかう職員室で。服部先生は、自分のつくえの前の回転いすにあさく座って、スポーツ刈りの頭をガリガリとかいた。
「もし、だれかにやらされたとかなら。ちゃんと話してくれ。横山を責めたいわけじゃないんだ。わけを話してくれなきゃ、先生にもわからないんだよ」
一時間目が終わったあとで、わたしは職員室に呼び出された。
警察から、学校に事情が伝わっていた。わたしが宝君をさがしていたことは、やっぱり、おとなの間で「いたずら」ということになっていた。
だけど、わけがわからないのは、こちらのほうだ。
「だって……有若宝君は、本当にいるんだから……」
胸に本を抱きしめて、同じセリフばかりをくり返してしまう。
「よし、横山。これを見てみろ!」
先生はポンッと手を打って、くるっとイスの向きをかえた。つくえの引き出しをさばくって、キャビネ判の写真を引っぱり出してくる。
春の修学旅行で撮った、六年生の集合写真だった。
「よく見ろ。この中に、その有若ってヤツはいるか?」
いるに決まっている。
雷門の赤い大提灯を、底からしげしげ見あげていた宝君の背中を覚えているから。
わたしは、指でひとりひとりの顔をたどっていった。うちの学年は二クラスしかないから、さすがに六年間もいっしょにいれば、全員の顔を覚えてしまう。
知らない顔はひとつもない。
なのに、宝君の顔はない。
「――わかったか? うちのクラスには、横山の言う、有若宝ってヤツはいない。うちのクラスだけじゃなくて、この学年にも、この学校にもいない。それは確かだ。夢か何かと勘ちがいしてるんだろうけど、二度とこういう騒ぎは、起こさないように。いいな?」
これ以上は、しつこくきけない。
「……はい」
わたしはぺこりと頭をさげた。
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