がきあみ ―閻魔大王がわたしたちに運命のいたずらをした―

くまの広珠

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3 あなたのいない世界

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 バンッと、車のドアの閉まる音がしたのは、わたしが家に帰ってから、二時間ほどすぎたころだった。

 家の前の路地がにぎやかになり、パパの野太い声や、ママの甲高い笑い声が、二階のわたしの部屋まできこえてくる。


「ただいま、香蘭っ!」


 部屋から出て、階段を一階におりていくと、ちょうど、パパたちがドアを開けて、玄関に入ってきた。

 お酒で顔が赤くなって、ビールっ腹がさらにビールっ腹になったパパのわきの下を、長身の多岐さんが、鼻筋の通ったすずしい顔でささえている。


 長男の多岐さんは、おじいちゃん似だ。

 次男のパパは、おばあちゃん似だときいた。

 でも、わたしが産まれた年に、おばあちゃんは亡くなっている。だから、わたしは仏壇の写真でしか、おばあちゃんの顔を知らない。


 おじいちゃんにも、もう何年、会ってないんだろう。


「パパったらよっぱらっちゃって、だらしがないんだから~。多岐さん、すみませんね~」


 そう言いながら、続いて玄関に入ってきたママの声も、いつもよりワンランク高かった。


「いえいえ。」と目を細める、多岐さんのオトナの対応。

 ヤンキーっぽいところもあるけれど、沙耶さんは切れ長目の美人だし。産まれた早矢たち、男三兄弟は、そろって女子からモテまくり。

 同じ血を受けついでいるはずなのに、うちと早矢の家とでは、あまりにも差がありすぎる。


「香蘭ちゃ~ん。帰りが遅くなってごめんなさいねぇ~。香蘭ちゃんの夕飯は、のこりのお寿司、ちゃんとつめて、持ち帰ってきてあげたからね~」


 ママはニコニコで、自分の両手に目をやってから、「あら? あら?」と、言い出した。


「まぁ、やぁねぇ~。香蘭ちゃんの夕飯、どこに消えたのかしらぁ~?」


「おばさん、これ」


 玄関から、早矢が入ってきた。めんどくさそうに眉をしかめて、ママにタッパーをわたすと、すぐにまた、ドアから出て行こうとする。


「あ、ま、待ってっ!」


 引きとめていた。


「あ……? なんだよ?」


 ふり返る目が怖い。キツネの目のようにとがっていて、氷のように冷たい。


 で、でも、きかなきゃ!


 相手から目をそらして、わたしは胸のところで、自分の左手を右手でにぎりしめた。


「あ、あの……早矢。うちのクラスに、有若宝君って、いるよね?」


「……は?」


 怖い……。


 視線をそらしているのに、早矢がわたしの顔を、突きさすように見てくるのが、伝わってくる。


「い、いるよね? いるならいるで。いいんだ」


「……知らねぇし」


「……え?」


「だれ? あり……何? たから?」


「有若宝君! なんでっ  知ってるでしょ? 緑化委員で。無口で。休み時間はいつも読書してて。わたしの前の席に座ってる、宝君だよっ!! 」



「は~?」


 相手を見あげると、早矢の大きな口が、にったり横に開いていた。


「おまえ、何言ってんの? おまえの前の席は、たけるだろ? ズル姫、いよいよ頭ん中まで、おかしくなったのか?」

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