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2 置き去られた告白

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「香蘭ちゃんは、ダリ・・にとり憑かれやすい体質なんだよ。だから、急にぐあいが悪くなって、なんにもできなくなっちゃうんだ。ズルをしているわけじゃないんだよ」


「――え?」


 風が吹きぬけた。

 宝君の長い前髪がかきあげられて、メガネの奥の目が見える。

 女の子のように長いまつ毛をしている。瞳は大きくて、黒曜石みたいに深くて、すべての色を飲み込んでいるようだ。


「……ダリ……?」


「そう。きょう、リレーで香蘭ちゃんにとり憑いてきた、あの黒い煙のことだよ」


「た、宝君にも、アレが見えるのっ!? 」


 思わず、宝君のシャツのすそにしがみついていた。


 信じられないっ!


 わたしのほかに、アレが見える人なんて、いないと思っていた。

 ママに、「ヘンな煙が見える」と言うたびに、「気のせい」とあきれられてきたのに!


「……うん。見える。ぼくはうまれつき、ダリが見える体質だから」


 眉尻をさげて、宝君はさびしそうに笑った。


「ダリはね、昔、熊野詣に行くとちゅうで死んだ、人の魂のことなんだ。死んでもなお、熊野の神様に願いを叶えてもらいに行きたくて、熊野古道をさまよってる」


「……くまの……詣?」


 その言葉は、社会の時間にきいたことがあった。


「熊野」は、わたしたちが住む紀伊半島の真ん中にある。

 山が深くて、なかなか入っていくのがたいへんな地だ。そのせいか、昔の人たちは、熊野には神様がすんでいると信じていた。

 もちろん今では、熊野にも道路が通っているし、観光に外国人だっていっぱい来る。


 でも、車も飛行機もなかった時代。


 熊野の神様にお参りに行くためには、山をいくつも越えて、歩いて行かなければならなかった。

 熊野にお参りに行くことを「熊野詣」と呼び、昔、お参りに行く人たちが歩いた道は、「熊野古道」と呼ばれた。


 紀伊半島の西の海ぞいにあるこの街にも、熊野古道が通っていることは知っていたけど……。



 宝君の手のひらがのびてきて、ふわっと、わたしの前髪をなでた。


「でも……見えるだけじゃなくて、祓える能力もあればよかった。そしたら、香蘭ちゃんを、ダリから守ってあげられたのに……」


 トクン、トクンと心臓が鳴る。

 背はそんなに高くないのに、宝君の手のひらは大きくって、あったかくって、おとなの男の人のようだ。


「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」


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