11 / 97
2 置き去られた告白
2
しおりを挟む
「香蘭ちゃんは、ダリにとり憑かれやすい体質なんだよ。だから、急にぐあいが悪くなって、なんにもできなくなっちゃうんだ。ズルをしているわけじゃないんだよ」
「――え?」
風が吹きぬけた。
宝君の長い前髪がかきあげられて、メガネの奥の目が見える。
女の子のように長いまつ毛をしている。瞳は大きくて、黒曜石みたいに深くて、すべての色を飲み込んでいるようだ。
「……ダリ……?」
「そう。きょう、リレーで香蘭ちゃんにとり憑いてきた、あの黒い煙のことだよ」
「た、宝君にも、アレが見えるのっ!? 」
思わず、宝君のシャツのすそにしがみついていた。
信じられないっ!
わたしのほかに、アレが見える人なんて、いないと思っていた。
ママに、「ヘンな煙が見える」と言うたびに、「気のせい」とあきれられてきたのに!
「……うん。見える。ぼくはうまれつき、ダリが見える体質だから」
眉尻をさげて、宝君はさびしそうに笑った。
「ダリはね、昔、熊野詣に行くとちゅうで死んだ、人の魂のことなんだ。死んでもなお、熊野の神様に願いを叶えてもらいに行きたくて、熊野古道をさまよってる」
「……くまの……詣?」
その言葉は、社会の時間にきいたことがあった。
「熊野」は、わたしたちが住む紀伊半島の真ん中にある。
山が深くて、なかなか入っていくのがたいへんな地だ。そのせいか、昔の人たちは、熊野には神様がすんでいると信じていた。
もちろん今では、熊野にも道路が通っているし、観光に外国人だっていっぱい来る。
でも、車も飛行機もなかった時代。
熊野の神様にお参りに行くためには、山をいくつも越えて、歩いて行かなければならなかった。
熊野にお参りに行くことを「熊野詣」と呼び、昔、お参りに行く人たちが歩いた道は、「熊野古道」と呼ばれた。
紀伊半島の西の海ぞいにあるこの街にも、熊野古道が通っていることは知っていたけど……。
宝君の手のひらがのびてきて、ふわっと、わたしの前髪をなでた。
「でも……見えるだけじゃなくて、祓える能力もあればよかった。そしたら、香蘭ちゃんを、ダリから守ってあげられたのに……」
トクン、トクンと心臓が鳴る。
背はそんなに高くないのに、宝君の手のひらは大きくって、あったかくって、おとなの男の人のようだ。
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
「――え?」
風が吹きぬけた。
宝君の長い前髪がかきあげられて、メガネの奥の目が見える。
女の子のように長いまつ毛をしている。瞳は大きくて、黒曜石みたいに深くて、すべての色を飲み込んでいるようだ。
「……ダリ……?」
「そう。きょう、リレーで香蘭ちゃんにとり憑いてきた、あの黒い煙のことだよ」
「た、宝君にも、アレが見えるのっ!? 」
思わず、宝君のシャツのすそにしがみついていた。
信じられないっ!
わたしのほかに、アレが見える人なんて、いないと思っていた。
ママに、「ヘンな煙が見える」と言うたびに、「気のせい」とあきれられてきたのに!
「……うん。見える。ぼくはうまれつき、ダリが見える体質だから」
眉尻をさげて、宝君はさびしそうに笑った。
「ダリはね、昔、熊野詣に行くとちゅうで死んだ、人の魂のことなんだ。死んでもなお、熊野の神様に願いを叶えてもらいに行きたくて、熊野古道をさまよってる」
「……くまの……詣?」
その言葉は、社会の時間にきいたことがあった。
「熊野」は、わたしたちが住む紀伊半島の真ん中にある。
山が深くて、なかなか入っていくのがたいへんな地だ。そのせいか、昔の人たちは、熊野には神様がすんでいると信じていた。
もちろん今では、熊野にも道路が通っているし、観光に外国人だっていっぱい来る。
でも、車も飛行機もなかった時代。
熊野の神様にお参りに行くためには、山をいくつも越えて、歩いて行かなければならなかった。
熊野にお参りに行くことを「熊野詣」と呼び、昔、お参りに行く人たちが歩いた道は、「熊野古道」と呼ばれた。
紀伊半島の西の海ぞいにあるこの街にも、熊野古道が通っていることは知っていたけど……。
宝君の手のひらがのびてきて、ふわっと、わたしの前髪をなでた。
「でも……見えるだけじゃなくて、祓える能力もあればよかった。そしたら、香蘭ちゃんを、ダリから守ってあげられたのに……」
トクン、トクンと心臓が鳴る。
背はそんなに高くないのに、宝君の手のひらは大きくって、あったかくって、おとなの男の人のようだ。
「香蘭ちゃん、好きだよ。ぼくが救ってあげられたらいいのに……」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
消しゴムくん、旅に出る
泉蒼
児童書・童話
文房具たちが旅に出るワクワクハラハラの冒険ストーリー。
文房具は机から落ちると手足が生えてしゃべることができる。四年三組の教室には消しゴムのゴー、じょうぎのジョー、えんぴつのピン子、という文房具仲よし三人組がいた。
ある日、文房具仲よし三人組は「日向ぼっこをしよう」というピン子の提案で教室の窓に行く。そこで三人は初めて外の世界を見て感動する。
ピン子とジョーは「外の世界に出よう!」とゴーを誘う。三人はカラスの背中に乗って外の世界に飛び出す。ところが夜の校庭で凶暴な野良猫に襲われ、三人は命からがら逃げる。
夜の教室でゴーは、ピン子とジョーのひそひそ話を耳にする。
ゴーの持ち主ケイタくんは、最近になって漫画を描き始めた。ものすごいスピードで消しゴムを使っていると気がつき、ピン子とジョーはこのままだとゴーが危ないと思った。
ふたりが自分を外に連れ出した真相を知るが、ゴーは、ピン子とジョーも本当は持ち主のもとへ帰りたいという想いを知るのだが…。
危険を冒して冒険に出ていると気づいたゴーは、持ち主のもとへ帰ることにするのだろうか。
怪異探偵№99の都市伝説事件簿
安珠あんこ
児童書・童話
この物語の主人公、九十九卯魅花(つくもうみか)は、怪異専門の探偵である。年は三十歳。身長が高く、背中まで髪を伸ばしている。彼女は、怪異が関係していると思われる事件を、彼女自身の特異能力によって解決していた。
九十九卯魅花は鼻が効く。怪異の原因となる人外を臭いで感じ取れるのだ。だから、ある程度の距離なら大体の居場所もわかる。
九十九卯魅花は物に魂を宿すことが出来る。どんな物体でも、付喪神(つくもがみ)にして、自分の頼れる仲間に出来るのだ。
そして、九十九卯魅花は、過去に神隠しにあっている。翌日発見されたが、恐怖で彼女の髪は白く染まっていた。その時から、ずっと彼女の髪は白髪である。
東京都杉並区高円寺。とある小説で有名になった賑やかな商店街のいっかくにある九十九探偵事務所が、彼女の仕事場である。ここで彼女は助手の鷹野サキとともに、怪異の事件に巻き込まれた依頼人を待ち受けているのだ。
サキは童顔で身体が小さい。ショートボブの髪型も相まって、よく中学生と間違えられているが、年は二十七歳、アラサーである。
扉絵:越乃かん様
バラの精と花の姫
緒方宗谷
児童書・童話
神々が住む花の里に、生まれた時からイジメられているバラがいました。
この物語は、大勢の心の弱さが集まってできた渦に溺れ踠くバラが、姫に導かれて少しずつ成長していく教養小説です。
フロイント
ねこうさぎしゃ
児童書・童話
光の妖精が女王として統治する国・ラングリンドに住む美しい娘・アデライデは父と二人、つつましくも幸せに暮らしていた。そのアデライデに一目で心惹かれたのは、恐ろしい姿に強い異臭を放つ名前すら持たぬ魔物だった──心優しい異形の魔物と美しい人間の女性の純愛物語。
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
探偵ごっこじゃありません!~未来の花嫁は、今日も謎解き修行中~
雪華
児童書・童話
小学四年生の桜子は、容姿端麗、頭脳明晰。だけど好奇心旺盛過ぎる所が玉に瑕。
そんな彼女には、生まれる前から決められていた許嫁がいた。
許嫁の家は探偵事務所で、桜子は「花嫁修業」と称して毎日のように事務所に入り浸っている。
そんなある日、許嫁と同じ学校に通う男子高校生が、探偵事務所を訪れた。
彼は芸能人なのだが、どうやらドラマの撮影中、密室状態だった楽屋から大切なものが消えたらしい。
自分にあまり興味を持ってくれない許嫁を振り向かせるため、桜子は意気揚々と勝手に依頼を引き受けてしまう。
*****
きずな児童書大賞にエントリー中☆
のんびり不定期更新の予定です。気長にお付き合い頂けたら幸いです。
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる